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迷子の迷子の保護者達、貴方の家族はどこですか? ⑤
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「なるほどねぇ、砕石場に魔物が住み着いた。それじゃ気軽に食料調達に行けないか……」
灰斗が脳裏にざっくりとした地図を描く。このドワーフの集落を中心に三日月形に広がる採石場はちょうど夜ノ華一行が入ってきた道以外は大きく迂回しないと他の街道に向かえない。
「魔物が住み着く以前はトロッコ便を使って朝夕の二回、砕石場と集落を横断する事が出来ていた。しかしそのレールは魔物の集落への進出を防ぐために儂ら自身が壊した……長としての判断だ」
数匹であればドワーフも武器を持って退治することも可能だったが、いかんせん数が多く断念していたようである。
「その弓があれば遠くからも狙えそうだと、若い連中が見ていたのだろう。それにお前たちの以前にこの集落を訪れた冒険者と探索者の連中ときたら魔物除けの香木でとっとと逃げて行ったらしい。おかげで西に行くしかないのだが黒い竜が目撃されてな……八方ふさがりだ」
「随分とまあ、運が悪いですのね……」
手を頬に当ててレティシアが眉根を寄せた。実際ドワーフは小柄なものが多く、力はあるのだろうが戦闘に長けた戦士は少ない。その戦士が討伐に出てしまうと集落は守りが手薄になるため竜が来たらひとたまりもない……魔物が飽きて出ていくまで可能な限り籠城するという消極的な方針しか立てられなかった。
「旅の人……見た限り冒険者か探索者かと思われるが、魔物の盗伐は可能か?」
一縷の期待を込めたドワーフの老人が夜ノ華たちを見回す。
「あたし……家政婦なのよね」
「僕は書記官だ……」
「そんな、嘘だろう?」
事実である。夜ノ華はこれでも家政婦ギルドと商人ギルド所属の正真正銘の家政婦。幸太郎はどのギルドでも雇う事が可能な書記官で二人とも戦闘は趣味だった。一応護身程度に、と弓を作り身体を鍛えて二人とも獣を狩ることまではできるようになったが……数倍の強さを誇る魔物相手にはせいぜい注意を引くぐらいの事しかできない。
「本当ですよ。彼らの護衛が私達ですからね」
灰斗がぷかぷかと煙草の煙でわっかを作りながら幸太郎たちの言葉をフォローする。
「……お前さんの方が弱そうなのだが」
「ですわよねぇ……でも、灰斗様は私よりお強いのですよ? 覇気もないしちょっとだらしなさがかっこいいと思われてるのかワザと朝に髪を整えつつ寝ぐせみたいにぼさっとする事に心血を注ぐ方ですが」
「レティシアさん!? この間の練習で負けたの根に持たれてますか!?」
「あらあら、いやですわ。ちょっと本音――照れ隠しでございますわ」
「お前さんたち何者なんだ、本当に」
おほほほほとわざとらしい笑い声で灰斗をいじめつつ。レティシアがドワーフの代表者に答える。
「夫と娘を探しておりますの……私迷子になってしまいまして」
「私は師匠を探している所です」
「あたしは夫と一緒に子供達を探しています」
「何なんだ!? 今迷子ブームなのか!? なんでこっちに来たんだお前ら!?」
嘘じゃないんです、本当なんですぅ……と四人が項垂れる。
「まあ、私……ちょっと、その、道に不得手でしてね? 町から出たらですね……一週間後また戻ってきてしまいまして」
「私はそもそも道が覚えられなくてね。目的地は決まっているのだが……徒歩で三日のはずが徒歩で三年の所まで来てしまって帰れなくなったのですよ。不思議ですよね」
「ひとつ前の町で偶然会って別れたら二日後に旅に出たはずの二人がお腹を空かせて町の入り口でいじけていたのを拾いました!」
「元の場所に戻しなさい、と妻に言ったのですが怖い目で睨まれて雇いました!」
「大体わかった!! お前たちの中でまともなの弓を持ったお主だけなんだな!? そうなんだな!?」
お腹もいっぱいになったし元気に突っ込みを入れるおじいさんドワーフ。
今なら魔物も倒せるんじゃないかなと幸太郎が余計な事を考えるが、言葉には出さない。せっかくこの奇人変人の中で常識人枠を勝ち取ったのだから。
「まあそれでも……魔物位なら私一人で蹴散らしますわよ?」
レティシアがにこにこと両手を組んで小首をかしげる。
絹のドレスを着せて髪飾りでもつければそのままお姫様と言った仕草なのだが……ドワーフのお爺さんはさらに激昂する。
「一番荒事に向いておらん嬢ちゃんが一番好戦的じゃぁ!! どうなってるんじゃお前らぁぁ!!」
「あー適任ですね。私はタバコでも吸いながらマキ割りでもしようかな」
「じゃあ、あたしはレティシアさんの好きなシチュー作る」
「じゃあ僕は……え、シチューの材料僕が買いに行くのかい? 夜ノ華……」
「援護してやれよぉ!? よりにもよって魔物はゴブリンじゃぞ! 女性がどんな目に合うかしっとろう!?」
「「!!」」
「幸太郎、灰斗さん。一言でもその脳内のイメージを言葉にしたらご飯抜きですよ?」
「ゴブリン!? 初めて見ますわ!! 青いのかしら!?」
「レティ!! その色は何の色の事を言ってるのかな!? 淑女!! 貴女淑女!!」
「不安しかない!!」
まあ、夜ノ華たちにしてみれば通り道の障害は取り除きたいのだ。ドワーフの皆さんの不安も取り除ければいいな、と灰斗がついでの様に心の中でつぶやく。
「まだ陽が高いですから、夕飯までには片づけてまいりますわ! あ、灰斗様……じゃ当てになりませんわ。幸太郎様……帰りの道案内をお願いします」
「あ、そうか。帰れませんもんねレティシアさん」
「一本道!! 一本道じゃよ!? 迷う要素がどこにもないんじゃ!! 5歳児でも返ってこれるんじゃって!!」
「まあ! 私を小さな子供と同じにしないでくださいまし……5歳児、賢いですわね」
「負けた。みたいな雰囲気おかしいからのう!?」
その後ナビゲーター幸太郎を引き連れて、スキップしながらゴブリン討伐に向かうレティシアさんだった。
灰斗が脳裏にざっくりとした地図を描く。このドワーフの集落を中心に三日月形に広がる採石場はちょうど夜ノ華一行が入ってきた道以外は大きく迂回しないと他の街道に向かえない。
「魔物が住み着く以前はトロッコ便を使って朝夕の二回、砕石場と集落を横断する事が出来ていた。しかしそのレールは魔物の集落への進出を防ぐために儂ら自身が壊した……長としての判断だ」
数匹であればドワーフも武器を持って退治することも可能だったが、いかんせん数が多く断念していたようである。
「その弓があれば遠くからも狙えそうだと、若い連中が見ていたのだろう。それにお前たちの以前にこの集落を訪れた冒険者と探索者の連中ときたら魔物除けの香木でとっとと逃げて行ったらしい。おかげで西に行くしかないのだが黒い竜が目撃されてな……八方ふさがりだ」
「随分とまあ、運が悪いですのね……」
手を頬に当ててレティシアが眉根を寄せた。実際ドワーフは小柄なものが多く、力はあるのだろうが戦闘に長けた戦士は少ない。その戦士が討伐に出てしまうと集落は守りが手薄になるため竜が来たらひとたまりもない……魔物が飽きて出ていくまで可能な限り籠城するという消極的な方針しか立てられなかった。
「旅の人……見た限り冒険者か探索者かと思われるが、魔物の盗伐は可能か?」
一縷の期待を込めたドワーフの老人が夜ノ華たちを見回す。
「あたし……家政婦なのよね」
「僕は書記官だ……」
「そんな、嘘だろう?」
事実である。夜ノ華はこれでも家政婦ギルドと商人ギルド所属の正真正銘の家政婦。幸太郎はどのギルドでも雇う事が可能な書記官で二人とも戦闘は趣味だった。一応護身程度に、と弓を作り身体を鍛えて二人とも獣を狩ることまではできるようになったが……数倍の強さを誇る魔物相手にはせいぜい注意を引くぐらいの事しかできない。
「本当ですよ。彼らの護衛が私達ですからね」
灰斗がぷかぷかと煙草の煙でわっかを作りながら幸太郎たちの言葉をフォローする。
「……お前さんの方が弱そうなのだが」
「ですわよねぇ……でも、灰斗様は私よりお強いのですよ? 覇気もないしちょっとだらしなさがかっこいいと思われてるのかワザと朝に髪を整えつつ寝ぐせみたいにぼさっとする事に心血を注ぐ方ですが」
「レティシアさん!? この間の練習で負けたの根に持たれてますか!?」
「あらあら、いやですわ。ちょっと本音――照れ隠しでございますわ」
「お前さんたち何者なんだ、本当に」
おほほほほとわざとらしい笑い声で灰斗をいじめつつ。レティシアがドワーフの代表者に答える。
「夫と娘を探しておりますの……私迷子になってしまいまして」
「私は師匠を探している所です」
「あたしは夫と一緒に子供達を探しています」
「何なんだ!? 今迷子ブームなのか!? なんでこっちに来たんだお前ら!?」
嘘じゃないんです、本当なんですぅ……と四人が項垂れる。
「まあ、私……ちょっと、その、道に不得手でしてね? 町から出たらですね……一週間後また戻ってきてしまいまして」
「私はそもそも道が覚えられなくてね。目的地は決まっているのだが……徒歩で三日のはずが徒歩で三年の所まで来てしまって帰れなくなったのですよ。不思議ですよね」
「ひとつ前の町で偶然会って別れたら二日後に旅に出たはずの二人がお腹を空かせて町の入り口でいじけていたのを拾いました!」
「元の場所に戻しなさい、と妻に言ったのですが怖い目で睨まれて雇いました!」
「大体わかった!! お前たちの中でまともなの弓を持ったお主だけなんだな!? そうなんだな!?」
お腹もいっぱいになったし元気に突っ込みを入れるおじいさんドワーフ。
今なら魔物も倒せるんじゃないかなと幸太郎が余計な事を考えるが、言葉には出さない。せっかくこの奇人変人の中で常識人枠を勝ち取ったのだから。
「まあそれでも……魔物位なら私一人で蹴散らしますわよ?」
レティシアがにこにこと両手を組んで小首をかしげる。
絹のドレスを着せて髪飾りでもつければそのままお姫様と言った仕草なのだが……ドワーフのお爺さんはさらに激昂する。
「一番荒事に向いておらん嬢ちゃんが一番好戦的じゃぁ!! どうなってるんじゃお前らぁぁ!!」
「あー適任ですね。私はタバコでも吸いながらマキ割りでもしようかな」
「じゃあ、あたしはレティシアさんの好きなシチュー作る」
「じゃあ僕は……え、シチューの材料僕が買いに行くのかい? 夜ノ華……」
「援護してやれよぉ!? よりにもよって魔物はゴブリンじゃぞ! 女性がどんな目に合うかしっとろう!?」
「「!!」」
「幸太郎、灰斗さん。一言でもその脳内のイメージを言葉にしたらご飯抜きですよ?」
「ゴブリン!? 初めて見ますわ!! 青いのかしら!?」
「レティ!! その色は何の色の事を言ってるのかな!? 淑女!! 貴女淑女!!」
「不安しかない!!」
まあ、夜ノ華たちにしてみれば通り道の障害は取り除きたいのだ。ドワーフの皆さんの不安も取り除ければいいな、と灰斗がついでの様に心の中でつぶやく。
「まだ陽が高いですから、夕飯までには片づけてまいりますわ! あ、灰斗様……じゃ当てになりませんわ。幸太郎様……帰りの道案内をお願いします」
「あ、そうか。帰れませんもんねレティシアさん」
「一本道!! 一本道じゃよ!? 迷う要素がどこにもないんじゃ!! 5歳児でも返ってこれるんじゃって!!」
「まあ! 私を小さな子供と同じにしないでくださいまし……5歳児、賢いですわね」
「負けた。みたいな雰囲気おかしいからのう!?」
その後ナビゲーター幸太郎を引き連れて、スキップしながらゴブリン討伐に向かうレティシアさんだった。
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