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迷子の迷子の保護者達、貴方の家族はどこですか? ⑥
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ゴブリンたちは焦っていた。いつから存在していたのか彼らもわからないが最弱の魔物、知性なき魔族……そう蔑まれ続けていた彼らは例外なく緑色の肌、青い血、小柄な体躯。戦う力もそれなりで種の繁栄のため繁殖力に特化した種族。他の種族の血ですらも取り込み己が種族の子とする。
そのため例外なく忌み嫌われた彼らの安住の地はない、しかし……もうすぐ誕生するのだ。
だからこそ……我らは……
「なんか妙に多いですわね。ドワーフ様たちより多いのではありません事?」
「そうですね……弓を一つ持っただけじゃどうしようもないですね。私はおとなしくここで待たせてもらいますけど、良いですよね?」
見た目には幸太郎が戦い、レティシアが退路の確保の役割になりそうなものだが彼らはこれでよかった。レティシアの戦い方は正しく一騎当千、下手に援護に回るとレティシアが「どうしましょう、うごけませんわぁ~!?」と困る。
「では私が順番に磨り潰していきます。終わりましたら着替えをすませて帰りますわよ」
「じゃあ僕は逃げ出そうとするゴブリンでも狙いますかね。これだけ遠ければ見つからないでしょうし」
「それはいけませんわ、幸太郎様」
「へ? だめですか?」
「この程度で助力など必要ありませんもの……」
ドワーフたちが長年掘り進んでちょっとした渓谷と言ってもいい採石場、そこに居ついたゴブリンは生半可な数ではない。特に目が良い幸太郎にはなんか他のゴブリンより二倍くらい大きい個体も見える。
「結構な数じゃないです?」
「ああ、えっと……見ていただいた方が早いかと存じますわ。あのドワーフのおじいさまにも許可をいただきましたし」
「わかりました。けど危なくなったらちゃんと言ってくださいね? 担いで逃げるくらいの事は出来ますから」
幸太郎の打算が無い言葉はレティシアには心地が良い、なんだか新鮮な気分になる彼女だがあんまりのんびりもしていられない事は分かっている。
「ふふ……幸太郎様も面白い事を言いますのね。主人も初めて会ったとき同じことを言いましたのよ?」
それでも自然と笑みがこぼれてしまうのはきっと懐かしいのだ。
「え? あ、そうなんですか?」
「ええ、その時私はこう返しましたの」
幸太郎はどんな顔をするのだろうか?
「――お人よし。ですわ」
ふわりと採石場へレティシアはロープもつけずにその谷底へ身投げする、目を点にして声にならない悲鳴を上げる幸太郎に微笑みながら彼女はゴブリンの群れへ飛び込んだ。
◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇
――たんっ
そのメスはいきなり現れた。ゴブリンは警戒心も強いし稚拙ではあるがちゃんと知性もある。その上、今はこの群れのゴブリンは殺気立っていた。
「あら? あなた方何かを護ってらっしゃるのですか?」
人間の言葉は片言にしかわからない彼らは唐突な恐怖の出現にただただ睨むことしかできなかった。
「残念ですわね……本当にお悔やみ申し上げますわ。ここで志半ばに倒れるあなた方に最大限の謝辞と安らかなる……死を」
こつん、こつん……
嫋やかな足取りで進み出る清廉な人間、普段なら繁殖に適したオスのゴブリンが蹂躙のために躍りかかるだろう。それなのにレティシアは恐れない、数の暴力と言うわかりやすく強大なゴブリンの群れを見てただただ嗤うだけだ。
「ぎゃうぅ!」
らちが明かない、と一匹のゴブリンが石を棒に括り付けただけの粗末な石斧を振り上げてレティシアに襲い掛かる。
そんな小さな挑戦者をレティシアは両手を広げて受け入れた。
「さあ、私を襲ってごらんなさいませ。弱者に先手は譲りますわ」
レティシアから見て腰の高さほどしかないゴブリンの一撃を胸に受ける。跳躍して振り下ろされた石斧はただの人間では相当な打撃力があるはずだが……。
――ばかんっ!!
レティシアの革の胸当てにその石斧が触れた瞬間、石斧が爆砕する。
そこにはいつのまにか両手を合わせたレティシアのゆがんだ笑み。粉々に砕け散った石斧の欠片をゴブリンはまともに受けて目に入ってしまう。
「ぎゃあ!?」
地面に落ちてうずくまろうかと言うゴブリンの頭をレティシアは掴んで潰す。
みしり、と一瞬ゴブリンの頭蓋骨が悲鳴を上げる間もなく浅黒い血が噴水の様に飛び散った。
「うふふ、娘に聞いておりましたが血は青くないのですね。安心しましたわ、ちゃんと殺せるんですわね」
無造作にレティシアがゴブリンの亡骸をそっと地面に横たえる。先陣を切ったこの一匹には敬意を払わねばならない。彼女は残酷だがその反面ひどく礼儀正しかった。
ここまでくればわかってしまった。ゴブリンたちは目の前にいるレティシアが人間のふりをした何かだと……そして今日をもってこのゴブリンの群れは一匹残らずこの地から、この世から消え失せるのだと。
「さて……逃げる気はなさそうですわね。こういうのを何というのでしょうか? アリスだったら……『はしごを外される』? なんかちょっと違いますわよね……あの子の話すことは偶に難しすぎますわ」
レティシアは首を軽く振るとコキコキと鳴る。身体をほぐす時の癖なのだが家族からは後々神経痛になるとか言われて、やめる様に事あるごとに言われていた。
「まあ何でもいいですわ。ドワーフの皆様のために排除いたしますわね」
当主の妻でありながら領地の最強戦力である彼女の蹂躙が始まる。
そのため例外なく忌み嫌われた彼らの安住の地はない、しかし……もうすぐ誕生するのだ。
だからこそ……我らは……
「なんか妙に多いですわね。ドワーフ様たちより多いのではありません事?」
「そうですね……弓を一つ持っただけじゃどうしようもないですね。私はおとなしくここで待たせてもらいますけど、良いですよね?」
見た目には幸太郎が戦い、レティシアが退路の確保の役割になりそうなものだが彼らはこれでよかった。レティシアの戦い方は正しく一騎当千、下手に援護に回るとレティシアが「どうしましょう、うごけませんわぁ~!?」と困る。
「では私が順番に磨り潰していきます。終わりましたら着替えをすませて帰りますわよ」
「じゃあ僕は逃げ出そうとするゴブリンでも狙いますかね。これだけ遠ければ見つからないでしょうし」
「それはいけませんわ、幸太郎様」
「へ? だめですか?」
「この程度で助力など必要ありませんもの……」
ドワーフたちが長年掘り進んでちょっとした渓谷と言ってもいい採石場、そこに居ついたゴブリンは生半可な数ではない。特に目が良い幸太郎にはなんか他のゴブリンより二倍くらい大きい個体も見える。
「結構な数じゃないです?」
「ああ、えっと……見ていただいた方が早いかと存じますわ。あのドワーフのおじいさまにも許可をいただきましたし」
「わかりました。けど危なくなったらちゃんと言ってくださいね? 担いで逃げるくらいの事は出来ますから」
幸太郎の打算が無い言葉はレティシアには心地が良い、なんだか新鮮な気分になる彼女だがあんまりのんびりもしていられない事は分かっている。
「ふふ……幸太郎様も面白い事を言いますのね。主人も初めて会ったとき同じことを言いましたのよ?」
それでも自然と笑みがこぼれてしまうのはきっと懐かしいのだ。
「え? あ、そうなんですか?」
「ええ、その時私はこう返しましたの」
幸太郎はどんな顔をするのだろうか?
「――お人よし。ですわ」
ふわりと採石場へレティシアはロープもつけずにその谷底へ身投げする、目を点にして声にならない悲鳴を上げる幸太郎に微笑みながら彼女はゴブリンの群れへ飛び込んだ。
◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇
――たんっ
そのメスはいきなり現れた。ゴブリンは警戒心も強いし稚拙ではあるがちゃんと知性もある。その上、今はこの群れのゴブリンは殺気立っていた。
「あら? あなた方何かを護ってらっしゃるのですか?」
人間の言葉は片言にしかわからない彼らは唐突な恐怖の出現にただただ睨むことしかできなかった。
「残念ですわね……本当にお悔やみ申し上げますわ。ここで志半ばに倒れるあなた方に最大限の謝辞と安らかなる……死を」
こつん、こつん……
嫋やかな足取りで進み出る清廉な人間、普段なら繁殖に適したオスのゴブリンが蹂躙のために躍りかかるだろう。それなのにレティシアは恐れない、数の暴力と言うわかりやすく強大なゴブリンの群れを見てただただ嗤うだけだ。
「ぎゃうぅ!」
らちが明かない、と一匹のゴブリンが石を棒に括り付けただけの粗末な石斧を振り上げてレティシアに襲い掛かる。
そんな小さな挑戦者をレティシアは両手を広げて受け入れた。
「さあ、私を襲ってごらんなさいませ。弱者に先手は譲りますわ」
レティシアから見て腰の高さほどしかないゴブリンの一撃を胸に受ける。跳躍して振り下ろされた石斧はただの人間では相当な打撃力があるはずだが……。
――ばかんっ!!
レティシアの革の胸当てにその石斧が触れた瞬間、石斧が爆砕する。
そこにはいつのまにか両手を合わせたレティシアのゆがんだ笑み。粉々に砕け散った石斧の欠片をゴブリンはまともに受けて目に入ってしまう。
「ぎゃあ!?」
地面に落ちてうずくまろうかと言うゴブリンの頭をレティシアは掴んで潰す。
みしり、と一瞬ゴブリンの頭蓋骨が悲鳴を上げる間もなく浅黒い血が噴水の様に飛び散った。
「うふふ、娘に聞いておりましたが血は青くないのですね。安心しましたわ、ちゃんと殺せるんですわね」
無造作にレティシアがゴブリンの亡骸をそっと地面に横たえる。先陣を切ったこの一匹には敬意を払わねばならない。彼女は残酷だがその反面ひどく礼儀正しかった。
ここまでくればわかってしまった。ゴブリンたちは目の前にいるレティシアが人間のふりをした何かだと……そして今日をもってこのゴブリンの群れは一匹残らずこの地から、この世から消え失せるのだと。
「さて……逃げる気はなさそうですわね。こういうのを何というのでしょうか? アリスだったら……『はしごを外される』? なんかちょっと違いますわよね……あの子の話すことは偶に難しすぎますわ」
レティシアは首を軽く振るとコキコキと鳴る。身体をほぐす時の癖なのだが家族からは後々神経痛になるとか言われて、やめる様に事あるごとに言われていた。
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