乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音

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3.ミラン公爵家の人々(Side 大人たち)

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「リラ、今日のヴィオの話を聞かせてちょうだい。身体はもう大丈夫そう?」

「はい、奥様。ゆっくり静養したお陰で、痛みも取れたようです。明日は登校するとおっしゃっています」

「あの子はもう学園に行く気なのかい?今からでも、しばらく休学して領地で静養させた方がいいのではないかな……」

「それがお嬢様ったら、生徒会のことが気になるから早く行きたいとおっしゃるのです」

「まぁ!ヴィオってば、なんて真面目ないい子なのかしら……!」

「やはりうちの娘は勤勉で聡明だね!父親として誇らしいよ!!」

「もう、あなたってば。その通りですけど、適度に休むことも大事だと覚えさせないといけませんわ」



 リラはヴィオレッタの専属侍女で、学園を卒業した18歳の年にここで働き始めた。雇い主であるミラン公爵夫妻はいつだって仲睦まじく、使用人にも優しい人格者だ。



「リラ、あの子が働き過ぎないよう様子を見てやってちょうだいね」

「はい奥様。無理をし過ぎる前に、適度に休息を取っていただくようにします」



 子だくさんな田舎の男爵家の三女であるリラは、いい就職先をゲットするため優秀な成績を修めて、見事ミラン公爵邸の侍女の座を得た。勤め始めてからは大半の時間をヴィオレッタと共に過ごしている。



 真面目で身も心も美しいヴィオレッタはいつだってリラの自慢のお嬢様だ。



 降嫁した元王女様である曾祖母によく似た華のある美貌を持つけど、本人は至って控えめな性格。

 美しく輝く大粒の宝石よりも可憐で繊細なレースを好み、大輪の深紅の薔薇より小ぶりな白や淡い紫色の薔薇を部屋に飾るタイプで、華やかな美貌とは裏腹に清廉なご令嬢なのだ。



 分野を問わず学ぶことを好み、いつも難しい本を読んでいて多言語を解する才女でもある。

 かといって知り得た知識をひけらかすことはせず、家柄の問題で難しいだろうとは思いながらも、いずれ文官として登城することを夢見て学園では生徒会に所属していた。



 そんな敬愛する主が頭を強打して、記憶の一部が欠けてしまったと聞いた時は深い絶望を覚えた。



 が、ここ数日の主の様子を見ていて、悪いことばかりじゃないかもしれないと思い直した。

 自身の立場を正しく理解し、真面目過ぎるが故に休むことを知らなかった主が五日間ものんびりと自室で過ごしてくれたのだ。



 時々「私にはわかる……」「私は詳しいのよ……!」等と呟いているのが若干心配だけど、どことなく活き活きして見えるのであまり気にしないことにした。



◇◇◇



「それにしても、婚約者もまだ決まっていないでしょう?ヴィオはそのことも忘れているから、学園でトラブルに巻き込まれないか心配よ……」



 リラを下がらせて、夫婦二人きりでこれからについて話し合う。



 ここハルモニア王国には王子が二人いて、元侯爵令嬢の側妃を母に持つクリストファー第二王子はヴィオレッタと同い年で生徒会長を務めている。



 ヴィオレッタが生徒会の仕事に熱心なのは、元々の性格と文官になる目標に加えて、第二王子に懸想しているからではないかと、リラは公爵夫妻に報告を上げている。



 だが、ミラン公爵家は二人の王子どちらを支持するのか示しておらず、中立を保っている。



「王家の血を引く公爵令嬢を娶った方が、王座に近付くと思われてもおかしくないからなぁ……」

「どちらの殿下が立太子するか定められていない今、あの子の恋心をを後押しすることは出来ないわ。可愛いあの子に苦労はさせたくないもの!」



 とはいえヴィオレッタの血筋と身分を考えると、二人の王子のどちらかに嫁ぐのが自然ではある。



 本人の意思を尊重してやりたいが、王家から望まれたら断るのは難しいだろう。



 第一王子は病弱だけど優秀で、王に寵愛された伯爵家出身の正妃の一人息子だ。公爵家の後ろ盾を欲した第一王子から望まれれば、ヴィオレッタが第二王子を想っていたとしても拒むことはできない。



「クリストファー殿下への恋心も忘れていれば、あの子は幸せになれるかもしれない……親としては、そんな残酷なことを願いたくはないのだけどね」



 第一王子の病弱さは、生まれつきのもので原因がハッキリとはわかっておらず、あまり公の場に出てこない。優秀ではあるが、その状態での立太子に反対する貴族も多い。しかし頭脳面では非常に優秀で、若くして様々な政務に携わり既に実績を上げている。



 対する第二王子のクリストファー殿下は、正妃より身分が上の侯爵家出身の側妃を母に持つ。才媛と知られた側妃は外交面でこの国を支えており、臣下からの信頼が厚く支持者が多い。

 その割にクリストファー殿下は、勤勉であるものの目立った功績はなく、やや地味な印象だ。才覚だけなら間違いなくアレクシス殿下に軍配が上がる。



「とはいえ、ヴィオレッタが惹かれるぐらいだ。クリストファー殿下もきっと見所のある御方なのだろう。あの子の気持ちが強固ならば、我々も覚悟を決めなくてはいけないね」

「そうですわね……あの子の気持ちを無視してまで守りたいものなんて、そう多くはありませんもの」



 ヴィオレッタがクリストファーとの婚約を望み、それを叶えるために動くなら、この家は第二王子派の筆頭と見做される。出来る限り本人の希望を叶えてやりたいと考えるなら、公爵家として方針を示さねばならない。



「例の聖女様が、アレクシス殿下の病を治してくださらないかしら」

「その話はまだ公にされていないんだ。この家の外で口に出してはいけないよ」

「もちろん、わかっておりますわ」



 難しい立場の公爵夫妻は、奇跡の力に縋りたい気持ちをそっと心の奥にしまった。
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