乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音

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4.なんだかとっても見覚えがある

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「この建物、小説の表紙で見たことある……ような……気がする!?」



 転生してから初めて登校して、真っ先に思ったことはそれだった。

 真っ白な建物に鮮やかな赤い屋根がよく映えていてとても美しい。



「この建物をバックに、ピンク髪の女の子が王子様にお姫様抱っこされてる表紙だったかな?いや、薔薇の花束を抱えてたような……?うーん、色んな作品の表紙絵がごっちゃになってる気がする。たぶんあの絵は白金やなぎ先生だ。となるとゲームのパッケージイラストの可能性もあるぞ……選択肢が増えちゃったな……」

「お嬢様?気分がすぐれないようなら、お屋敷に戻りますか?」

「あっ、なんでもないわ!ちょっと何かを思い出せそうな感じだったから、つい考え込んでしまったの」

「それはよいことですね!だけど、あまり無理をしないでくださいね」

「えぇ。何か思い出したり、体調がよくないときは真っ先にリラに伝えるわ」



 ニコリと微笑んで、心配がないことをアピールする。



(詳細は思い出せないけど、見覚えがあるっていうのは自信を持って言える!ここが知っている物語の世界だってわかっただけでも収穫だ!!)



 人気イラストレーター白金やなぎ先生がイラストを担当した作品は沢山あったけど、前世の私は白金先生ファンで画集まで所持していた。文字を読むのすらしんどいときに時々画集を捲って癒されていたので、この建物の既視感は気のせいや見間違えじゃないと断言できる。



(よし、早速ピンクの髪の女の子を探そう。その子がヒロインに違いない!)



 無事に見付けた暁にはその子と仲良くなって、いずれやってくる(かもしれない)断罪を回避したい。



 ヒロインになるぐらいだ、きっと明るくて人当たりのいい子だと推測できる。こちらから歩み寄ればすぐ打ち解けられるだろう。ヴィオレッタになった今ならジェネレーションギャップに苦しむこともない。

 

 異世界ギャップには苦しむかもしれないけど。



(ピンク髪はヒロインで白金先生のイラスト……ぱっと思い出せるキャラは……田舎の孤児院出身の元平民アイラ!これはたぶん小説の子。あと没落侯爵令嬢のマリエッタ、この子も多分小説の子。異世界転生者な子爵令嬢シャーリーが出てくる作品は学園が舞台だったかな。マンガで読んだ気がする。アイラは活発なタイプだったから印象が違うかも?マリエッタは白金先生のキャラデじゃなかった気がする。乙女ゲームのヒロインにアイリーンも居た気がする……うん、色々思い出してきた……!)



 やはり登校してみてよかった。自室に籠っていたときより遥かに頭が動いている。



「リラの言う通り、外からの刺激って大事ね。今日は色々思い出せそうだし、一日を楽しく過ごせそうな予感するわ」

「そう聞いて安心しました。ですが、無理してはいけませんよ?」



 従者たちの控室に向かうリラと別れて、2年生の教室に向かう。幸いにも場所がわからないということもなく、自然と教室の方へ足が動いたので安堵した。

 高位貴族のヴィオレッタにはあまり気安い友達が居ないようなので、途中で誰かと合流することもなさそうだ。



(ヒロインと友達になれたら、きっと楽しいだろうなぁ)



 断罪回避のためにヒロインと仲良くしておきたいと言う打算的な理由だけじゃなく、ちゃんと友情を結びたいと思っている。それはもちろんヒロインだけじゃなく、同じ生徒会のメンバーやクラスメイトともだ。



(せっかく転生したんだし、断罪回避したらその先の人生が待ってるもの。どうせなら楽しく過ごして人生を謳歌しなきゃね)



 そんな期待を胸に、勇み足で教室に向かった。



◇◇◇



「びっくりするほどなにもなかった………………」



 あっという間に放課後になった。なってしまった。



「生徒会役員の公爵令嬢が久しぶりに登校してきたというのに、リアクション薄すぎない?みんなに私が見えてないってことはないよね……!?」



 教室に入り、一番近くに居た女生徒たちに挨拶をしたとき(あ、なんか思ってたんと違うわこれ)とすぐに気付いた。



 見るからに育ちのいいお嬢様たちが楽しそうにお喋りしていたのであわよくば混ざりたいと思って声を掛けたのに、皆挨拶もそこそこに「そろそろ席につかなくては……!」「あっ、今日の王国史の授業の予習を!!しますわね!!」等と言って散り散りになってしまった。



 明らかに避けられている。どうやらヴィオレッタには気安い友達が居ないどころか、まったくさっぱり友達が居ないらしい。これは想定外だ。



「公爵令嬢だし、高嶺の花だと思われてるのかな?」



 釈然としないものの、あからさまに嫌われたり怖がられたりはしてなさそうなので、明日はこちらから思い切って話し掛けてみよう。決意を胸に、次は生徒会室に向かう。



 この学園では侍女や護衛は決められたエリアしか入れず、主人の授業や委員会活動の最中は別室で待機している。そのため私は一人で生徒会室に向かっていた。



 あまり遅くならないようリラから念を押されていたけど、前世を思い出す前のヴィオレッタは毎日のように下校時刻ギリギリまで生徒会の仕事をしていたようだ。休んでいる間は他の役員が穴を埋めてくれていたと思うので、負担を掛けた分の謝罪と感謝の気持ちを伝えたい。



「失礼します……!」



 緊張しながら生徒会室に足を踏み入れたら、日当たりのいい席で絵に描いたような美青年が居眠りしていた。サラッサラの金髪が眩い。室内にはその青年だけで、他に誰も居ない。



「うわ……超絶王子様っぽいビジュアル……」



 眠っているので瞳の色はわからないけど、めちゃくちゃ睫毛が長い。乙女ゲームだったら間違いなく攻略対象だ。



「ここで寝てるってことは生徒会メンバーだよね?これだけのイケメン……きっと生徒会長に違いない」



 どう考えても重要ポジションのキャラなので、慎重にいこう。



 とりあえず、春先とはいえ少し冷えてくる時間帯なので、リラに持たされたブランケットを生徒会長(仮)の肩にそっと掛ける。ジャケットを羽織っていないので、寝冷えしてしまいそうで気になったのだ。



「どれどれ、ヴィオレッタの机は……え、ここ?めちゃくちゃ書類あるじゃん……」



 休んでいる間の仕事が全く処理されていなかったのか、どっさり書類が置かれた自席を見て気が遠くなってきた。この世界にはPCもスマホもないので、全て手作業で処理しなくてはならない。



 ハルモニア王国も日本と同じで春が新入学の季節なので、日本でいうところの4月半ばの今は恐らく繁忙期だ。二年生にして生徒会二年目のヴィオレッタに仕事が集中するのもおかしなことではない。



 いや、病欠ということが伝わっているのにここに書類が置かれているのはおかしいだろう。頭が混乱してきた。



「……とりあえず、下から片付けていこう」



 一番下の書類が一番古いものだと推測し、書類の束をひっくり返して一番上に来たものから順に目を通していく。生徒会入りが有力視されている高位貴族の新一年生のリストに、各部活動からの新年度予算案など、どこの世界でも学生は似たようなことをするのだとわかる書類ばかりだ。



 異世界とはいっても日本で流通していた(と思われる)小説かゲームの世界なので、馴染みやすそうだ。お陰で今の私でも書類を処理できそうでホッとした。一人で片付く量じゃない気もするけど、他に誰も来ないし生徒会長(仮)が起きる気配もない。

 

 早く帰るために一旦疑問を横に置いてさくっと取り掛かることにした。



「なんか、前世とやってることあんま変わんなくない?異世界らしさはどこ……!?」



 ボヤいたところで処理速度は上がらないけど、BGMを流すことも出来ない世界では、せいぜい嘆くしかなかった。
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