乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音

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6.第二王子とその護衛騎士から見た公爵令嬢(Sideクリストファー)

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「殿下、そろそろ帰りましょう……って、どうしたんですか?」



 生徒会室で一人呆然としていると、従者のカイルがやって来た。

 彼は侯爵家の次男で、僕と共に生徒会の役員を務めている。



「カイル、どうやら僕は酷い思い違いをしていたようだ。彼女に謝罪しなくてはいけない」

「彼女?一体どなたのことで……ははぁ、そのブランケットを殿下に掛けてくださった方ですね」



 カイルに言われて気付いたけど、僕の肩には優しいミルクティー色のブランケットが掛けられていた。ジャケットを羽織らずに眠っていたので、これがなければ肌寒さを感じただろう。手触りも極上の一品だ。



 真面目に生徒会活動に取り組んでいる彼女からしたら、会長なのに仕事もせずに眠りこけている僕に不満を覚えてもおかしくない。それなのに僕が冷えないようにブランケットを掛けてくれて、起こさずにそっとしておいてくれた彼女の優しさを感じて、大いに反省する。



「これは、ミラン公爵令嬢のものだよ。彼女が毎日生徒会の仕事に励んでいたのは、僕たちが思っているような理由じゃなかった。それどころか、僕らが生徒会活動を疎かにしていることに苦言を呈されてしまった……」

「え、彼女はもう登校しているんですか?てっきり長期の休学になるものかと」

「僕も驚いたけど、いつも通り真面目に生徒会の仕事をしてたよ。きっと明日もここに来るだろうから、ブランケットはその時に返そう」



 ミラン公爵はこの国を代表する大貴族で、ヴィオレッタは公爵家の三番目の子で唯一の娘だ。



 彼女は非常に整った造作だがややきつめの顔立ちで、常にツンと澄ましていて人を寄せ付けない雰囲気がある。口数も少なく周囲を下に見ているような態度で、そのくせ誰も真面目に取り組まない生徒会の活動を一人黙々とこなす、よくわからない子だった。



 だから、生徒会の仕事に励むことで真面目で清廉な自分を演出して、僕に取り入ろうとしているのだと思い込んでいた。



「カイル、明日からは僕らも生徒会活動に励もうか。少なくとも、自分がやるべき仕事だけでもやってみない?」

「それは構いませんけど……えーっと、オレって広報担当でしたっけ?何すりゃいいんですかね?」

「今まで何もしてこなかったからな。いっそ、ミラン公爵令嬢に聞いてみようか」

「ホント、急に好意的になっちゃってまぁ。婚約者の筆頭候補にするおつもりで?」

「……いや、そういうんじゃない」



 この国は今、継承問題で揺れている。王位継承権第二位の僕が特定の令嬢に近付くことは、相手を危険に晒すことと同義だ。

 少なくとも、異母兄である第一王子の立場が盤石になるまでは、迂闊な言動を人前で晒すわけにはいかない。



「第一王子の動きも、こっちからはよく見えませんしね。それどころか聖女様の問題も片付いていない」

「あの子はまず、貴族社会に慣れることが最優先だよ。礼儀作法はよく出来ているけど、生粋の貴族に混ざると流石に浮いてしまうから」

「聖女様は特別な存在ですし、無理に貴族社会に染まらなくてもいいと思いますけど?」

「いや、そうもいかない。聖女の才が上手く開花すれば、どこかの貴族家に嫁ぐことになるなるだろう?それこそ王族入りだってあり得る。その時に困るのはあの子自身だ」



 優秀だけど病弱な異母兄に、まだ能力が開花しきっていない未熟な聖女。

 この二人の動き次第で自分の将来は大きく変わるだろう。

 それどころか、この国の行く末すら左右するに違いない。



「今は周辺諸国も落ち着いていて、目立った争いもない。父上の治世もまだまだ長いだろうし、余計な火種はいらないんだ。カイルだってそれはわかるだろう?」

「もちろんわかってますよ。だからこそ、聖女なんてイレギュラーな存在は隠し通したいんですけど!」

「いずれ公にせざるを得ないだろう。それまで僕は、自分がやれることをやるだけさ」



 不出来じゃないけど母や兄ほどの優秀さはなく、聖女のような唯一無二の力もない。幾らでも替えが効く平凡な第二王子。それが自分の評価だと、痛いほどわかっている。



(それでも僕は王族だ。責務は果たす)



 そう自分に自分に言い聞かせるばかりの鬱屈とした日常に、新しい風が吹いた。



「明日もまた、彼女に会えるだろうか……」



 ミラン公爵令嬢のことを考えながら、カイルと共に生徒会室を後にした。
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