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20.思い出した!
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「単刀直入に聞くけど、君はマリアのことをどこまで知っているのかな」
どストレート過ぎてびっくりした。
入室早々切り出してくるとは、それだけ状況がよくないのだろう。
父と二人で登城したところ、私だけがクリストファー殿下の執務室に通された。父には話せない何かがあるのだと思っていたら、まさかこう来るとは。
「君の情報源はどこにあるのか、ずっと不思議に思っていた。何故マリアを守るように言ってきたのか、あの子が国にとって重要な存在だと、何故知っているのか」
お茶会の日に咄嗟に喋ってしまったことを、ちょっとだけ後悔する。
そもそもマリアが、私の予想通り物語のヒロインなら、私がいちいち何か言わなくても彼女は厳重に守られるだろう。
そしてヒロインだからこそ、どんなに守られていてもこうして攫われることだってあるのだ。それは運命力というか、ゲームの強制力というものが原因だろう。そこに私は関係ない、と思う。
何も言わずにこのまま黙ってやり過ごした方が、隣室で待っている父に迷惑を掛けずに済むかもしれない。
(……でも、現にマリアは攫われている。ヒロインだから無事だろうとは思ってるけど、絶対の保証があるわけじゃない!)
そもそも、本当はヒロインでもなんでもない、ただの女の子かもしれない。それに、私にとってはもう、あの子はヒロインである前に大事な友達になっていた。
ここで私が変人扱いされたり頭がおかしくなったと思われても、マリアの安全には変えられない。家族に迷惑を掛けないよう誤魔化す必要はあるけど、知っていることは全て話そう。
と言っても、確信を持って言えることなんてほとんどない。
何せここがどの作品の世界なのか未だに思い出せていないのだ。
憶測で発言して捜索の邪魔になるのはまずいと思い。何を伝えるべきか迷って口を噤んでいると、扉の前に控えていたカイル様が口を開いた。
「あなたがマリアちゃんを大切に想っているのは嘘じゃないと、俺たちには伝わっています。そこを疑うことはしません。ミラン公爵家のご令嬢であるあなたを、手荒に扱うことも決してしないと誓います。どうか、知っていることを話してくれませんか?」
「ヴィオの話すことは、決して他言しないと誓おう。どうか僕らを信用してほしい」
二人の真っ直ぐな視線を受けて、ごちゃごちゃ考えるのを一旦やめた。
この誠意に応えたい。
「お二人が仰る通り、私はマリアが特別な力を持っていることを知っています。誰かから聞いたわけではありません。雨の日に頭を打ったあの日から、記憶を失った代わりに、それまで知らなかったことがいくつも頭の中に浮かぶようになったのです」
(この言い方なら嘘はついてない……よね?)
頭を打った事がキッカケで得た知識なら、多少曖昧な箇所があっても不自然じゃないと受け取ってもらえるだろう。我ながら咄嗟によく考えた。
「マリアの持つ力は特別で、他の誰にも同じことは出来ません。だからこそ彼女は攫われた」
「その、マリアを攫った相手に心当たりは?」
「いえ、そこまでは――」
「失礼します、クリストファー殿下」
ドアの前から若い女性の声が聞こえた。来客だろうか。
「おや、これはこれは……第一王子の」
「カイル様、申し訳ございません。我が主の命により、クリストファー殿下に急ぎお伝えしたいことがございます」
「兄上が?」
入って来たのは、深緑のワンピースに白いエプロンの小柄な少女だった。エプロンと同じ布地で出来た白いキャップを被っている。
(あれ、この衣装めちゃくちゃ見覚えあるな……?)
私の記憶によると、深緑は第一王子の瞳の色で、このメイド服は第一王子に仕える侍女専用のものだ。モブメイドさんにもこんな可愛い衣裳を用意するなんて流石白金やなぎ先生!と思ったのを覚えている。
(…………そう!深緑の瞳は、第一王子アレクシス殿下!生まれつき強すぎる魔力に身体を蝕まれていて、その影響で白銀の髪を持つ病弱な彼!聖女の癒しの力で健康な身体を手に入れて、聖女ルートでは立太子するアレク………!)
そうだ、思い出した。
何を隠そう、あのゲームで私はアレクシスが最推しだったのだ!
「聖女様の捜索に、我が主も手を貸したいと望んでおられます」
「それを陛下ではなく、わざわざ僕に言う理由は?」
「陛下に申し上げれば、秘密裏にとはいかなくなるでしょう。それに、我々は決してクリストファー殿下の領分は侵しません。そのことを身近で証明するためにも、是非協力させていただきたいのです」
「ここでマリアちゃんが失われたら、アレクシス殿下の治癒を願うことも叶わないから……という意図もありますよね?」
この国において、魔力や魔法はもはや過去の遺物だ。
ゲームの設定では、アレクシスは突然変異で強い魔力を持って生まれてきたけど力を制御できず、ずっと苦しんでいた。
そのせいであまり表舞台に出てこないため、正妃の息子で第一王子なのに貴族たちからは軽んじられている。自陣営の貴族からも政治の駒と思われていて、人間不信気味なのだ。
それが、ヒロインと出会い少しずつ変わっていく。
(マリアと想いを交わしたことで、マリアに加護を授けている女神の御力を分け与えられて、アレクシスは魔力の制御に成功する。魔法を自由に行使できるようになったアレクシスは立太子することが決まり、マリアに求婚。次期国王陛下夫妻として国中から祝福される……これがアレクルートだ)
乙女ゲーム「Saint Destiny~亡国の聖花は美しく咲き誇る~」のアレクシスルートは、何度もプレイした。
(ということは、マリアを攫ったのは……!)
「クリストファー殿下、すぐアレクのところに行きましょう!彼の力が必要なんです!!」
「ヴィオレッタ?しかし、君は……え、今アレクって言った?え?」
「急いでください!アレクがいればマリアを見付けられるかもしれません!!」
私の発言に3人は顔色を変えたけど、それを気にしてる猶予はない。
「マリアを攫ったのは黒猫です!今ならまだ追い付けるかも……!」
どストレート過ぎてびっくりした。
入室早々切り出してくるとは、それだけ状況がよくないのだろう。
父と二人で登城したところ、私だけがクリストファー殿下の執務室に通された。父には話せない何かがあるのだと思っていたら、まさかこう来るとは。
「君の情報源はどこにあるのか、ずっと不思議に思っていた。何故マリアを守るように言ってきたのか、あの子が国にとって重要な存在だと、何故知っているのか」
お茶会の日に咄嗟に喋ってしまったことを、ちょっとだけ後悔する。
そもそもマリアが、私の予想通り物語のヒロインなら、私がいちいち何か言わなくても彼女は厳重に守られるだろう。
そしてヒロインだからこそ、どんなに守られていてもこうして攫われることだってあるのだ。それは運命力というか、ゲームの強制力というものが原因だろう。そこに私は関係ない、と思う。
何も言わずにこのまま黙ってやり過ごした方が、隣室で待っている父に迷惑を掛けずに済むかもしれない。
(……でも、現にマリアは攫われている。ヒロインだから無事だろうとは思ってるけど、絶対の保証があるわけじゃない!)
そもそも、本当はヒロインでもなんでもない、ただの女の子かもしれない。それに、私にとってはもう、あの子はヒロインである前に大事な友達になっていた。
ここで私が変人扱いされたり頭がおかしくなったと思われても、マリアの安全には変えられない。家族に迷惑を掛けないよう誤魔化す必要はあるけど、知っていることは全て話そう。
と言っても、確信を持って言えることなんてほとんどない。
何せここがどの作品の世界なのか未だに思い出せていないのだ。
憶測で発言して捜索の邪魔になるのはまずいと思い。何を伝えるべきか迷って口を噤んでいると、扉の前に控えていたカイル様が口を開いた。
「あなたがマリアちゃんを大切に想っているのは嘘じゃないと、俺たちには伝わっています。そこを疑うことはしません。ミラン公爵家のご令嬢であるあなたを、手荒に扱うことも決してしないと誓います。どうか、知っていることを話してくれませんか?」
「ヴィオの話すことは、決して他言しないと誓おう。どうか僕らを信用してほしい」
二人の真っ直ぐな視線を受けて、ごちゃごちゃ考えるのを一旦やめた。
この誠意に応えたい。
「お二人が仰る通り、私はマリアが特別な力を持っていることを知っています。誰かから聞いたわけではありません。雨の日に頭を打ったあの日から、記憶を失った代わりに、それまで知らなかったことがいくつも頭の中に浮かぶようになったのです」
(この言い方なら嘘はついてない……よね?)
頭を打った事がキッカケで得た知識なら、多少曖昧な箇所があっても不自然じゃないと受け取ってもらえるだろう。我ながら咄嗟によく考えた。
「マリアの持つ力は特別で、他の誰にも同じことは出来ません。だからこそ彼女は攫われた」
「その、マリアを攫った相手に心当たりは?」
「いえ、そこまでは――」
「失礼します、クリストファー殿下」
ドアの前から若い女性の声が聞こえた。来客だろうか。
「おや、これはこれは……第一王子の」
「カイル様、申し訳ございません。我が主の命により、クリストファー殿下に急ぎお伝えしたいことがございます」
「兄上が?」
入って来たのは、深緑のワンピースに白いエプロンの小柄な少女だった。エプロンと同じ布地で出来た白いキャップを被っている。
(あれ、この衣装めちゃくちゃ見覚えあるな……?)
私の記憶によると、深緑は第一王子の瞳の色で、このメイド服は第一王子に仕える侍女専用のものだ。モブメイドさんにもこんな可愛い衣裳を用意するなんて流石白金やなぎ先生!と思ったのを覚えている。
(…………そう!深緑の瞳は、第一王子アレクシス殿下!生まれつき強すぎる魔力に身体を蝕まれていて、その影響で白銀の髪を持つ病弱な彼!聖女の癒しの力で健康な身体を手に入れて、聖女ルートでは立太子するアレク………!)
そうだ、思い出した。
何を隠そう、あのゲームで私はアレクシスが最推しだったのだ!
「聖女様の捜索に、我が主も手を貸したいと望んでおられます」
「それを陛下ではなく、わざわざ僕に言う理由は?」
「陛下に申し上げれば、秘密裏にとはいかなくなるでしょう。それに、我々は決してクリストファー殿下の領分は侵しません。そのことを身近で証明するためにも、是非協力させていただきたいのです」
「ここでマリアちゃんが失われたら、アレクシス殿下の治癒を願うことも叶わないから……という意図もありますよね?」
この国において、魔力や魔法はもはや過去の遺物だ。
ゲームの設定では、アレクシスは突然変異で強い魔力を持って生まれてきたけど力を制御できず、ずっと苦しんでいた。
そのせいであまり表舞台に出てこないため、正妃の息子で第一王子なのに貴族たちからは軽んじられている。自陣営の貴族からも政治の駒と思われていて、人間不信気味なのだ。
それが、ヒロインと出会い少しずつ変わっていく。
(マリアと想いを交わしたことで、マリアに加護を授けている女神の御力を分け与えられて、アレクシスは魔力の制御に成功する。魔法を自由に行使できるようになったアレクシスは立太子することが決まり、マリアに求婚。次期国王陛下夫妻として国中から祝福される……これがアレクルートだ)
乙女ゲーム「Saint Destiny~亡国の聖花は美しく咲き誇る~」のアレクシスルートは、何度もプレイした。
(ということは、マリアを攫ったのは……!)
「クリストファー殿下、すぐアレクのところに行きましょう!彼の力が必要なんです!!」
「ヴィオレッタ?しかし、君は……え、今アレクって言った?え?」
「急いでください!アレクがいればマリアを見付けられるかもしれません!!」
私の発言に3人は顔色を変えたけど、それを気にしてる猶予はない。
「マリアを攫ったのは黒猫です!今ならまだ追い付けるかも……!」
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