12 / 171
幕開け
第12話
しおりを挟む「ハイロさんって実は、きぐるみだったりして……」
起き抜けに亮介が発した科白に、枕もとで丸くなっていたキールが、「ブハッ」と吹いた。
「きぐるみって、あれだろ。なかに人間が入って動くやつ」
「そう。よく知ってるね」
キールは物知りで、会話がスムーズに進行する。
「にしても、なんでいきなり、ハイロのダンナが人間だと思ったんだ? 大熊の生まれはこの森だし、半獣属でまちがいないぞ」
「……そっか。やっぱり、みんなのほうが現実なんだ」
亮介が「ふわぁ」と欠伸をもらすと、キールは「寝ボケてるのか?」と呆れ、会話を終了した。
昨晩、おかしな夢を見た亮介は、高校生活に未練があるのかもしれない。
(……僕も、鳥みたいに空を飛べたらいいなって、ときどき思ったりするけれど、半獣属のみんなも、人間に憧れたりするのかなぁ?)
ニッシュの掛け布団をたたみ、ベッドからおりた亮介は、編みカゴの学ランへ目を留めた。夢だとわかっていても、弁当の件は気になった。
(食べずに捨てただなんて、つくったひとが知ったら傷つくよね……。僕は、なんてひどいことを……)
おいしく食べてこそ、料理をした甲斐がある。みんなに止められたが、せめてひと口でも食べておけばよかったと後悔した亮介は、しばらくぼんやりした。それから、近くにミュオンとキールがいない隙に着がえをすませた。
(パンツがほしい……)
股のあいだがスースーする亮介は、貴重なニッシュの樹皮を伝統下着として使うべきか、真剣に悩んだ。ふと、となりの部屋から甘いにおいがしてくる。
「キール、なにしてるの?」
テーブルに大きな葉っぱをひろげ、いくつかの果物を木の棒でつぶして混ぜるキールは、「おいらの特製だ。こうすると、うまくなるンだぜ」という。しかし、赤いものがぐちゃぐちゃしているだけで、とてもおいしそうには見えない。
(スムージーっぽいけど、色がイマイチで、食欲わかないなぁ……)
構造物による移動制限を受けないミュオンは、音もなく、スゥッと壁を徹りぬけてきた。庭先で日光浴をしていたようだ。キールが混ぜるどろどろの赤い液体を見るなり、顔をしかめた。
『……今から朝ご飯ですか?』
「うん。おはよう、ミュオンさん」
『おはようございます』
食事をとる必要のないミュオンさえ、キールの鼻歌にため息を吐く。亮介が苦笑すると、キールは「見てろよ」といって、ガラス瓶のコルク栓を抜いた。
「これを使うぜ!」
赤く液状化した果物に、ドロッとしたはちみつを加えると、果汁の色素が変化した。赤から淡い水色になり、部分的にピンクやムラサキにもなる。カラフルなゼリーのような見た目に、亮介は「わっ、きれい」と、思わず声がでた。
(理科の実験みたいだ!)
「よし、完成。いい感じにできたぜ」
コップに半分わけてもらった亮介は、早速「いただきます」といって、ひと口飲む。冷えていれば、さらにおいしく感じるミックスジュースだが、それぞれの風味がさわやかで、はちみつ効果でラズベリーの酸味がまろやかになっている。
亮介はゴクゴクと一気に飲み、「おかわり!」と、勢いで言いそうになった。かぎりある食糧を、ほしいままに消費するわけにはいかない。
「あっ、もうじきハイロさんがくる時間だ」
ガラス窓をすり抜けて差しこむ朝陽は、まぶしくて、あたたかい。亮介は庭にでて、ハイロの到着を待った。
いつもそばにいるミュオンやキールと異なり、ハイロの私生活は謎に包まれている。丸太小屋の持ち主(以前の住人)や、ハイロ自身の日常ついて、亮介は質問したいことがたくさんあった。
★つづく
282
あなたにおすすめの小説
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。
◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。
【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった
水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。
そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。
ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。
フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。
ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!?
無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる