異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒

文字の大きさ
13 / 171
幕開け

第13話

しおりを挟む

 いつもは、かならず道具を持ってあらわれるハイロだが、その日は手ぶらでやってきた。門扉の前で待機していた亮介の姿を見つけるなり、おもむろに歩み寄り、細い首筋へ鼻を近づけた。

「わっ、なに?」

 クンクンと、においを嗅ぐハイロの体毛が頬にれた瞬間、緊張のあまり硬直こうちょくした亮介は、内心(ひぇ~っ)と叫んだ。

(ハ、ハイロさんの顔がこんな近くに……! うわわっ、ちょっとこわいかも……!?)

 後ずさりしようにも、うまく足が動かせない亮介は、ハイロの黒い瞳の中に映りこむ[もうひとりの自分]と目があった。8歳の亮介は、ぷにっとした丸い顔をしている。

 現在、[森の王獣]と呼ばれる大熊は、ふさふさとした濃い灰色の体毛に、太い手足(指は人間と同じく5本ずつあり)、筋肉質な胴体をしているが、走るスピードは速く、冬になれば体温維持のため換毛する。大熊は特徴的な犬歯けんしを見せて威嚇をしたり、獲物を捕らえたりするが、肉食動物に属していながら、植物質のものを好んで食べる。硬い木の実も、奥歯ですり潰すことができた。繁殖期になるとオスは行動範囲をひろげ、複数のメスと交尾をする。いわゆる、一夫多妻制が常識の哺乳類だ。


(だ、誰か、早くきてぇ! ミュオンさん、キール~、なにしてるの~っ!)


 きょうのハイロは積極的である。相手の迫力に気圧けおされた亮介は、ひたいに冷や汗が浮かんだ。ようやく、外のようすに気がついたミュオンが、ピューンッと、一直線ストレートに飛んでくる。少し遅れ、キールも駆けつけた。


『そこまでです! リョウスケくんから離れなさい、この、ムッツリ大熊!』

「なんだ、なんだ? あっ、ハイロのおっさんじゃん。きてたのか」


 精霊とイタチが合流し、肩の力が抜けた亮介は足もとがふらついた。ハイロがつくった庭の柵に手をつき、なんとか転ばずにすむ。

(び、びっくりしたぁ。今の、なにぃ?)

 極端にドキドキと高鳴る心音が、鼓膜を刺激する。亮介は深呼吸をくり返し、なんとか平静を取りもどした。

『まったく、あなたという半獣ムッツリは、油断も隙もありませんね!』

 細い腕を交互に突きだすミュオンだが、指先まで半透明につき、ハイロを力づくで退しりぞけることは不可能である。むろん、霊力さえもどれば、精霊として本来の神通力を発揮することは可能だ。亮介とは異なる意味で、思うように自分の身体が役に立たない現状は、歯がゆくもあった。

『肝に銘じなさい。わたしが本気をだせば、あなたなど、たやすく追放できるのですよ』

「知ってるさ。見ていたからな」

『……では、ほんじつのご用件をうかがいましょう』

 亮介をめぐり火花を散らすふたりは、同時に原因の少年を見おろした。

「な、なに?」と、たじろぐ亮介。

「行くぞ」と、ハイロ。

「どっか行くのか」と、キール。

『お散歩でしたら、わたしは留守番していますので結構です。みなさんで、気をつけてどうぞ……』

 ミュオンは、キールに亮介の身辺警護ボディガードをまかせ、丸太小屋へ引き返していく。一刻も早く体調を万全な状態にととのえたいミュオンは、亮介が身をおく生活空間で安静にしているだけでも、少しずつ精気はやしなえた。

「ミュオンのやつ、なんであんなに具合が悪そうなンだ」

 詳しい事情を知らないキールが、ボソッとつぶやいた。亮介は「僕のせい」と言いかけたが、ハイロが先に口をはさんだ。

「ふたりとも、ついてこい」

 言うなり、背を向けて歩きだす。亮介とキールは顔を見合わせ、うしろ姿を追いかけた。ハイロは森のなかを迷わず進み、亮介たちを水たまり場へ案内した。


★つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐
BL
*あらすじを改稿し、タグを編集する予定です m(_ _)m後からの改稿、追加で申し訳ございません (>_<)  社交界での立ち回りが苦手で、よく夜会でも失敗ばかりの僕は、いつも一族から罵倒され、軽んじられて生きてきた。このまま誰からも愛されたりしないと思っていたのに、突然、ろくに顔も合わせてくれない公爵家の男と、婚約することになってしまう。  だけど、婚約なんて名ばかりで、会話を交わすことはなく、同じ王城にいるはずなのに、顔も合わせない。  それでも、公爵家の役に立ちたくて、頑張ったつもりだった。夜遅くまで魔法のことを学び、必要な魔法も身につけ、僕は、正式に婚約が発表される日を、楽しみにしていた。  けれど、ある日僕は、公爵家と王家を害そうとしているのではないかと疑われてしまう。  一体なんの話だよ!!  否定しても誰も聞いてくれない。それが原因で、婚約するという話もなくなり、僕は幽閉されることが決まる。  ほとんど話したことすらない、僕の婚約者になるはずだった宰相様は、これまでどおり、ろくに言葉も交わさないまま、「婚約は考え直すことになった」とだけ、僕に告げて去って行った。  寂しいと言えば寂しかった。これまで、彼に相応しくなりたくて、頑張ってきたつもりだったから。だけど、仕方ないんだ……  全てを諦めて、王都から遠い、幽閉の砦に連れてこられた僕は、そこで新たな生活を始める。  食事を用意したり、荒れ果てた砦を修復したりして、結構楽しく暮らせていると思っていたのだが…… *残酷な描写があり、たまに攻めが受け以外に非道なことをしたりしますが、受けには優しいです。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

主人公の義弟兼当て馬の俺は原作に巻き込まれないためにも旅にでたい

発光食品
BL
『リュミエール王国と光の騎士〜愛と魔法で世界を救え〜』 そんないかにもなタイトルで始まる冒険RPG通称リュミ騎士。結構自由度の高いゲームで種族から、地位、自分の持つ魔法、職業なんかを決め、好きにプレーできるということで人気を誇っていた。そんな中主人公のみに共通して持っている力は光属性。前提として主人公は光属性の力を使い、世界を救わなければいけない。そのエンドコンテンツとして、世界中を旅するも良し、結婚して子供を作ることができる。これまた凄い機能なのだが、この世界は女同士でも男同士でも結婚することが出来る。子供も光属性の加護?とやらで作れるというめちゃくちゃ設定だ。 そんな世界に転生してしまった隼人。もちろん主人公に転生したものと思っていたが、属性は闇。 あれ?おかしいぞ?そう思った隼人だったが、すぐそばにいたこの世界の兄を見て現実を知ってしまう。 「あ、こいつが主人公だ」 超絶美形完璧光属性兄攻め×そんな兄から逃げたい闇属性受けの繰り広げるファンタジーラブストーリー

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...