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幕開け
第14話
しおりを挟む池には小魚が群れ、銀色の鱗が水面に反射していた。人工ではなく天然由来の池につき、水の入口と出口があり、陸地のくぼみは近くの川とつながっている。遠くのほうで、水の流れる音が聞こえた。
「おおっ、こりゃいい。ひゃっほー!」
キールは、まっ先に池へ飛びこむと、バッシャーンと水飛沫をあげ、スイスイ泳ぎまわった。ハイロは水深30センチくらいの場所で、グワッ(爪をふりおろす)、パーンッ(陸地めがけて投げる)、ビシャッという連続音をたて、昼食用の魚を捕らえている。キールのように水浴びをしたい亮介だが、池の畔で躊躇した。
「なんだぁ、リョースケ。オシッコなら、茂みでしろよ!」
キールはプカプカと浮きながら、亮介をからかう。
「もうっ、ちがうってば……! そんなんじゃないよ!!」
裸身になるのをためらう亮介は、3人分の魚を捕るハイロの横顔を、ちらッと見た。
(やっぱり、僕だけ意識してるみたいで、変だよね……。公衆の面前ってわけでもないし、そもそも世界観が全然ちがうし、そこまで気にしなくていいのかも……)
思いきってシャツと履物を脱いだ亮介は、ゆっくり池をのぞきこんだ。水質は驚くほど無色透明で、底に群生する水草や小石などがはっきり確認できた。とくに危険物は見られないため、片足ずつ水にはいると、最初は冷たく感じたが、すぐに慣れてリフレッシュした。
(ふう、気持ちいい~。さっき、ハイロさんがにおいを嗅いできたのって、僕の体臭がひどかったとか? なんか、そっちのほうが恥ずかしいや……)
4日ぶりに水を浴びた亮介は、キールの真似をして平泳ぎをしてみた。森林浴と相まって、予想以上に爽快だ。
(次は、ミュオンさんも誘ってあげよう。水の精霊だし、きっとリフレッシュできるはず!)
釣った魚(正しくは叩きだした魚)を藁で結んでまとめるハイロは、水遊びを楽しむ亮介のようすを畔から見つめた。大熊は、人間を性的な欲望から除外しているのか、無防備に肌を晒す亮介を見ても平常心である。潜水に夢中のキールは、ミュオンとの約束(亮介の身辺警護)を、すっかり忘れているようだった。
ハイロによって言外に示された生活情報(池のある場所)は、亮介にきちんと伝わっていたが、無邪気にはしゃぐようすは、まるで8歳児そのもので、周囲の警戒を完全に怠っている。
「ねぇねぇ、ハイロさんもこっちにおいでよ。すごく気持ちいいよ」
と言って、笑顔で手をふる亮介に、ハイロは「そうだな」と返事をして取りつくろい、安全を見まもる役に徹した。
「ふう、さっぱりした~」
水遊びを満喫した亮介は、全身びしょ濡れ状態である。額に張りついた前髪を指で左右にわけると、となりでブルルンッと水滴をはじくキールは、「しっしっし」と笑みをもらした。
「なにがおかしいの?」
「リョースケの泳ぎ方、下手クソだな~と思って。そのへんのカエルが、おぼれてるみたいだったぜ。こんど、おいらが教えてやるよ」
「な、なにそのたとえ……。あれは平泳ぎって言うんだよ」
「だから、カエル泳ぎだろ」
「ひ、ら、お、よ、ぎ」
ムキになってキールとにらみ合う亮介は、ハイロに向かって青い尻を突きだしていたが、それと気づいて反転すると、未熟な恥部を直視され、あたふたと両手で隠した。ハイロは、吸水性のある葉っぱを無言で差しだした。
(あわわっ、こんどこそ、ばっちり見られたよね……。もう、ひらきなおっちゃえ!!)
★つづく
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