拾った指輪で公爵様の妻になりました

奏多

文字の大きさ
9 / 12

試験期間に入ります

しおりを挟む
 そうして私は、一週間の試験期間に入ったのだった。

「まぁ奥様! 急に髪の色が……。え、奥様ですよね?」

 部屋に戻った時には、そんな風にメイドたちに驚かれた。
 エミリアはにこりと微笑んでごまかした。

 今、(事情があって)と言おうとしたが、それもできなかったからだ。
 それ以後、言いにくいことがあるんだろうと遠慮する使用人と、その後も髪の色に言及する使用人に分かれた。

 メイドや使用人たちは、事情を知っている者も知らない者もいるようだ。
 事情を知るのは、メイド長や執事だけらしい。
 秘密を守るのには、その程度の人数になってしまうのは仕方ない。そして彼らは代々この公爵家に努めている家の出身だそうで、秘密を知っているのも当然だった。

 彼らが髪の色や、シルヴェストが離婚した件、以前結婚した令嬢たちのことについて話を向けてきては、他のメイドなどに無邪気に尋ねられ、エミリアが返事に窮するということが繰り返される。

 初日はやや大変だった。
 でも少し間をおいてからだと、事実とかけ離れた嘘をつくのは問題ないことがわかったのだ。

 それからは、エミリアはブロンのことなど全く関係ない話にしてしまうことで、言い訳が効くようになっていた。
 なぜ評判の悪いシルヴェストと結婚したのかという問いには……。

「公爵様に一目ぼれして……。こんなことすぐ口に出せなくて、答えられなかったのよ。恥ずかしいので内緒にしてね」とごまかす。

 髪の色が変わった件については……。

「情けないことなんだけど、実家を脅していた商人と結婚させられそうになって。できればすぐにわからない髪色にしていたのだけど、結婚したから色を落としたの。そんな外聞の悪い話を説明しにくくて。つい黙ってしまっていたのよ」
 と、今の髪の色が本当の色だったことにした。

 後からこっそり話したそれを、聞いたメイドや使用人が他の人に伝え、問題の一週間が過ぎるころには、おおよその使用人がエミリアの理由を把握し、あまり尋ねなくなっていた。

 最後まで質問を続けていた者たちが残る中、一番の山だったのは、両親が訪ねてきたときだった。
 いや、シルヴェスト達が『試験』のためにわざと呼んだのだ。

 両親が来ることは、前日にわかった。
 夕食後、談話室へ移ってから人払いをしたうえで、シルヴェストに通知されたのだ。

「明日で一週間。これが最後の試験になる」

 そう言いつつも、シルヴェストはエミリアの髪を見て、ややしゅんとした雰囲気になる。
 髪の色が変わったあの日から、ずっとそうだ。

(……そんなに気にしなくてもいいのだけど)

 一番、髪について申し訳なく思っているのが、シルヴェストらしい。
 むしろ口に出したり書けない方が、自分にとっても安全なのだし。秘密を守れなくなるより、それほど気に入っていたわけではない髪色が変わるぐらい、なんてことはない。
 そのことは話しておかなければ、とエミリアは思う。

「公爵閣下。この一週間、お疲れ様でした」

「……なぜ君がねぎらう?」

「私のことを気にしていらっしゃっていたので……。でも私、本当に気にしていないのです。むしろいい感じになったなと思っていて」

 髪、と言わなければある程度は口に出せるので、遠回しに髪について気にしなくていいと伝えてみる。
 するとシルヴェストは深刻そうな表情で言った。

「……あの話を受けたら、姿が変化はするとは聞いていたんだ。だが、私自身はそうなった人物を見たことがなかったから、少し驚いたのは確かだし、自分がそうなったらと思うと……。特に女性は大事にするものだと聞くので、つらいだろうと考えていたんだ」

「想像力が豊かでいらっしゃるんですね。だから、もう後がない私の提案を飲んでくださったのだと思っております」

 優しい人だ、と改めて思う。
 わがことのように思えるからこそ、すぐに私がつらいのだと理解してくれたのだと思う。そうでなければ、いくら結婚相手が必要で、彼自身もあまり選択肢が無くなっている中であっても、見知らぬ女との結婚を即決しないだろう。

 たぶんシルヴェストは、すぐ離婚することにはなるだろうけれど、一時的にでもかばってやれば逃げることはできるだろうと、手を差し伸べてくれたのだ。

「そんな風に思ってくださる優しい方と、今後も巡り合えるとは思えません。だから私も、この結婚を継続したいと思っておりますし、そのために何か変化が起こることがあっても、必要な措置だと思いますので、あまり気に病まないでください」

 もう一つ付け加える。

「もし、私が無意識に約束をやぶるようなことになった時は、記憶を失ってしまっても、問題ありませんので。私、本当にあの極悪商人との結婚がなくなっただけで、とても感謝しているんです。それだけで幸せですから」

 万が一、両親と会った後でヘマをしても恨んだりしない。
 そう伝えたというのに……なぜかシルヴェストは渋い表情になったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

愛する義兄に憎まれています

ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。 義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。 許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。 2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。 ふわっと設定でサクっと終わります。 他サイトにも投稿。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

ロザリーの新婚生活

緑谷めい
恋愛
 主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。   アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。  このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。

処理中です...