【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います

黒幸

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8話 後悔の海に沈む国王夫妻

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(三人称視点)

「あなた、ごめんなさい……わたくしのせいでこんなことに……」
「私が甘かったのだ。お前のせいではないよ……」

 国を離れているさなかに政変を起こされたシュルトワ国王夫妻――カルロス王とイサベル妃は憔悴していた。
 イラリオは待望の長子であり、跡継ぎとなる男の子だった。
 それもあって、愛情をかけて、育てた。
 成長するにつれ、欠けたところが多く、残念な王子と呼ばれるようになったが、それでも可愛い息子だと思っていた。

 馬鹿な子ほど可愛いとはよく言ったもので、自分の期待に応えようと一生懸命になっている姿がいじらしくてたまらなかったのだ。
 その気持ちは今も変わらない。
 ただ、イラリオは本当に王家の血を引いているのかと思うくらい出来が悪かった。
 勉強も運動も全く、出来なければ、礼儀作法や社交にも疎い。
 何より、記憶力の悪さが致命的だった。
 一度、聞いただけのことは忘れてしまうし、興味のない事柄は全く覚えられない。
 そのせいか、シュルトワ王国ではイラリオの将来に不安を抱く者が多かったのである。
 カルロス自身もそう思っていた。
 このままでは王位を継がせるわけにはいかないだろう、とも。
 かといって、それをイラリオに宣告するのは酷であろうと思い、踏み切れないでいた。
 その甘さがカルロスの強さであり、弱さでもあった。

 幼馴染であり、王室には珍しい恋愛結婚である妃のイサベルは彼の性格を良く知っていた。
 しかし、母は強し。
 自分と愛する人の特徴を色濃く継いだイラリオに何としても立派になって、王位を継いで欲しいという譲れぬ願いがあった。
 彼女は常々、イラリオにこう言い聞かせていた。
 『あなたがこの国の希望なのです』と。
 それは彼女がイラリオに対して、初めて使った『暗示』の言葉だった。
 幼いイラリオはその言葉を信じてしまった。
 自分は立派な王にならなければならないのだという使命感を持つようになり、使命感だけが育ってしまったのだ。
 それを実現するのに必要な努力を一切、しなかったのである。

 イラリオの評価が芳しくないままなのは当然の結果だった。
 それでも、彼は努力しなかったのである。
 もがけば、もがくほど、自分が無能であることを思い知らされるだけ。
 それに気付かないまま、ひたすらにもがき続けた。
 そんな息子の姿を見る度にイサベルの心は痛んだ。
 だから、息子のことを思うあまり、『暗示』をかけ続けてしまった。
 イラリオにとって、不幸なことはイサベルの母親としての愛情が本物であり、あまりにも過剰だったことなのかもしれない。

 彼女が辿り着いた考えは決して、イラリオの為にはならないものだったのだから。
 辺境の地に現れた伝説の『聖女』。
 彼女の存在があれば、あるいは……。
 そう考えたイサベルの一計とはイラリオと『聖女』レイチェルの婚約だったのである。

「わたくしが間違っていたのです……。わたくしがあのようなことをしていなければ、こんなことにはならなかったはずなのに!」
「もういいんだよ、イサベル。もういいんだ」

 イサベルは自分を責め続けていた。
 その姿を見たカルロスには優しく、彼女を抱き締めることしか出来ない。

(まさか、あそこまで愚かであったとは……)

 やつれたイサベルの涙を見て、カルロスは己の甘さを呪うのだった。
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