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第18話 あたしはやってないもん
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頭痛がしてきた。
あたしがマリーのボールガウンをダメにしたって?
どこから、そういう話になったんだろう。
「エミー。あんたは馬車の中であのドレスが欲しいって、言ってたわ」
「欲しいなんて、言ってないもん。素敵と言っただけなんだから」
ユナは記憶力が自慢だった。
一体、どうしちゃったんだろう。
あたしは『欲しい』なんて、一言も言ってない。
『素敵だわ』がどうして、『欲しい』に変わってるの?
いくら、あたしが嫌いにしたって、言ってないことを言ったことにされるのはおかしい。
あたしが反論したことでお母様とマリーも明らかに戸惑ってる。
感情の機微には疎いあたしでも分かる動揺だから、相当だと思う。
「それなら、犯人は誰だって、言うのよ」
「あたしがそんなの知ってる訳ないじゃない」
「あんた以外に犯人はいないって、言ってるのよ!」
「何よ、それ」
ユナがまさか、決めつけてくるとは思わなかった。
あたしのやることにいちいち口出ししてくるうるさい姉。
だけど、凛々しくて、かっこいい自慢の姉でもあった。
そんなユナに憧れを抱いてた過去のあたしはどれだけ、人を見る目がなかったんだろう。
こんな酷い人間だったんだ……。
でも、何だろう。
ユナが妙に自信たっぷりなのが、気になる。
「エミー。あんたが夜、誰も見ていないと思って、こそこそと動いていたのは分かっているのよ」
そう言うとユナはこれ見よがしにあたしを人差し指で指し示した。
自信に満ち溢れていて、まるでミステリーの主人公みたいだ。
お母様とマリーから、向けられる目が変わった気がする。
さっきまであたしに対して、同情的な視線を寄せてた人とは思えない目をしてた。
「エミー。正直に言いなさい。怒ったりしないわ」
お母様の言い方は優しいように思えて、ナイフみたい。
あたしのことを疑ってるんだ。
信じてたら、そんなこと言うはずがない。
マリーもマリーだ。
お母様とユナの顔色を窺って、頼りにならない。
それなら、まだ服を汚したのはあたしが悪いと詰られた方がましだった。
「それはホントだけど。あたしはやってないもん」
夜、エヴァのところに行っていたことを言う訳にはいかない。
犯人がこの中にいるなんて、信じたくないし、そうであって欲しくない。
だけど、可能性がある以上、うっかりしたことは言えない。
あたしが疑われるだけなら、それでいいじゃない。
気になるのはあたしが、部屋を出るところを誰かに見られてたってこと。
その人が証言したってところなんでしょ?
だから、ユナは自信満々だったんだ。
あぁ、そういうことだったのね。
ベティだ。
チラッと見えたベティの目が怖かった。
「分かったわ」
「エミー。あんたがやったと認めるのね?」
ユナが口の端を歪めて、勝ち誇ったような表情をしてる。
こんな表情をする人じゃなかった。
もう何を言っても無駄だ。
「いいえ。あたしはやってないもん。それでもあたしの言うことは信じないし、犯人にしたいんでしょ? あなたたちは」
あたしの言葉にみんな、自分が被害者のような顔をする。
これじゃ、まるであたしが悪者みたいじゃない。
おかしいわ!
みんな、おかしい。
あなたたちも……あたしもっ!
「あたしなんか、いない方がいいんでしょ!」
お母様とマリーは明らかに動揺してた。
声をかけるか、かけるまいか、迷ってるみたいだった。
迷ってれば、いいんだ、ずっと。
ユナはあれだけのことを言ったのに酷くショックを受けた顔をしてた。
何なの、あの顔は……。
あれじゃ、まるであたしが憧れてた頃のユナ姉様だよ。
それ以上見てたくはなかった。
振り返らずに部屋を出るけど、引き留める声なんてない。
分かってはいてもいざ体験すると辛い。
でも、振り返るものか。
部屋に戻って、愛用の画材だけを手に取る。
これだけあれば、他にはいらない。
部屋を出たところでばったりと出くわしたのはベティだ。
「エミーお嬢様。今なら、まだ間に合いますよ」
ベティはさも、あたしを心配してると言わんばかりの顔をしてた。
自分が一番、あなたを知ってる。
私だけがあなたの味方ですという顔だ。
あたしがマリーのボールガウンをダメにしたって?
どこから、そういう話になったんだろう。
「エミー。あんたは馬車の中であのドレスが欲しいって、言ってたわ」
「欲しいなんて、言ってないもん。素敵と言っただけなんだから」
ユナは記憶力が自慢だった。
一体、どうしちゃったんだろう。
あたしは『欲しい』なんて、一言も言ってない。
『素敵だわ』がどうして、『欲しい』に変わってるの?
いくら、あたしが嫌いにしたって、言ってないことを言ったことにされるのはおかしい。
あたしが反論したことでお母様とマリーも明らかに戸惑ってる。
感情の機微には疎いあたしでも分かる動揺だから、相当だと思う。
「それなら、犯人は誰だって、言うのよ」
「あたしがそんなの知ってる訳ないじゃない」
「あんた以外に犯人はいないって、言ってるのよ!」
「何よ、それ」
ユナがまさか、決めつけてくるとは思わなかった。
あたしのやることにいちいち口出ししてくるうるさい姉。
だけど、凛々しくて、かっこいい自慢の姉でもあった。
そんなユナに憧れを抱いてた過去のあたしはどれだけ、人を見る目がなかったんだろう。
こんな酷い人間だったんだ……。
でも、何だろう。
ユナが妙に自信たっぷりなのが、気になる。
「エミー。あんたが夜、誰も見ていないと思って、こそこそと動いていたのは分かっているのよ」
そう言うとユナはこれ見よがしにあたしを人差し指で指し示した。
自信に満ち溢れていて、まるでミステリーの主人公みたいだ。
お母様とマリーから、向けられる目が変わった気がする。
さっきまであたしに対して、同情的な視線を寄せてた人とは思えない目をしてた。
「エミー。正直に言いなさい。怒ったりしないわ」
お母様の言い方は優しいように思えて、ナイフみたい。
あたしのことを疑ってるんだ。
信じてたら、そんなこと言うはずがない。
マリーもマリーだ。
お母様とユナの顔色を窺って、頼りにならない。
それなら、まだ服を汚したのはあたしが悪いと詰られた方がましだった。
「それはホントだけど。あたしはやってないもん」
夜、エヴァのところに行っていたことを言う訳にはいかない。
犯人がこの中にいるなんて、信じたくないし、そうであって欲しくない。
だけど、可能性がある以上、うっかりしたことは言えない。
あたしが疑われるだけなら、それでいいじゃない。
気になるのはあたしが、部屋を出るところを誰かに見られてたってこと。
その人が証言したってところなんでしょ?
だから、ユナは自信満々だったんだ。
あぁ、そういうことだったのね。
ベティだ。
チラッと見えたベティの目が怖かった。
「分かったわ」
「エミー。あんたがやったと認めるのね?」
ユナが口の端を歪めて、勝ち誇ったような表情をしてる。
こんな表情をする人じゃなかった。
もう何を言っても無駄だ。
「いいえ。あたしはやってないもん。それでもあたしの言うことは信じないし、犯人にしたいんでしょ? あなたたちは」
あたしの言葉にみんな、自分が被害者のような顔をする。
これじゃ、まるであたしが悪者みたいじゃない。
おかしいわ!
みんな、おかしい。
あなたたちも……あたしもっ!
「あたしなんか、いない方がいいんでしょ!」
お母様とマリーは明らかに動揺してた。
声をかけるか、かけるまいか、迷ってるみたいだった。
迷ってれば、いいんだ、ずっと。
ユナはあれだけのことを言ったのに酷くショックを受けた顔をしてた。
何なの、あの顔は……。
あれじゃ、まるであたしが憧れてた頃のユナ姉様だよ。
それ以上見てたくはなかった。
振り返らずに部屋を出るけど、引き留める声なんてない。
分かってはいてもいざ体験すると辛い。
でも、振り返るものか。
部屋に戻って、愛用の画材だけを手に取る。
これだけあれば、他にはいらない。
部屋を出たところでばったりと出くわしたのはベティだ。
「エミーお嬢様。今なら、まだ間に合いますよ」
ベティはさも、あたしを心配してると言わんばかりの顔をしてた。
自分が一番、あなたを知ってる。
私だけがあなたの味方ですという顔だ。
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