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第29話【勘の良いサーシャと大根役者】
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久しぶりとなるある日、斡旋ギルドに顔を出すと同時にサーシャが受付から飛んできて僕に質問をぶつけてきた。
「――ミナトさん。
ここ数日ギルドに顔を見せなかったですけど何をしていたんですか?
金色マースのカードからの開放が出来なくて在庫が危なかったんですからね」
実際のところ、レベルがあがってあの親子の家にお世話になった後は結局普通の状態に戻るまであれから数日間は寝込んでいたのだがそれを正直に言うとなんだか怒られそうな気がして僕はやんわりと誤魔化した。
「あはは、すみません。
ちょっと考えたい事があって数日間ぼーっと寝て過ごしていたんですよ。
すぐにカード化の開放をしますから空いている水槽を教えてください」
僕が謝りながらそそくさとカードが保管されている部屋に向かうと後ろからついてきたサーシャがボソリと僕の後ろからささやいた。
「――ミナトさん。
なんか隠してませんか?」
ドキリ。
サーシャが鋭いのか僕の演技が大根なのかわからないが僕の嘘は簡単に感づかれてしまう。
「な、なんの事ですか?
ああ、そうだ。今日みたいに僕が来れないような事がおきたらお互いに大変でしょうから金色マースのカード化開放に関してはサーシャさんに一任するようにお願い出来ますか?」
サーシャの根拠のない追求に動揺した僕は今回はまだ話すつもりの無かった暗号圧縮の事をポロッと漏らしてしまう。
「……どういう事なのでしょうか?
確か、カード化されたものはそれを施した人しか元に戻せないはずでは無かったと認識しているのですけど……。
また、なにかやりました?」
笑顔で話すサーシャの声自体は普通に話している大きさであったがなんと言うかその時サーシャの背後からは見えないオーラがメラメラと立ち込めている幻覚が僕にははっきりと見えていた。
「この後、ちょっと第二応接室まで来てもらっても良いですか?」
「いや、ちょっと忙しいのでマースの開放が済んだら帰っても良いですか?」
なんとか誤魔化して逃げようとする僕の手をサーシャがしっかりと握りしめてからもう一度同じセリフを言った。
「この後、ちょっと第二応接室まで来てもらっても良いですか?」
手を握りしめられて僕をじっと見つめる目をされるとどう足掻いても僕の敗北は決定していた。
「……はい」
「わかってくれて良かったです。
では、先にマースの開放をお願いしますね」
サーシャは僕の手を握ったままマースの水槽まで僕を引っ張っていく。
まるで『逃しませんよ』と言わんばかりのオーラを放ちながら笑顔を崩さずに歩いていった。
「――開放」
在庫として置いておいたカード化した金色マースを空いていた水槽に次々と開放して行き最後の水槽を満たした後、僕は第二応接室へと連行された。
「――それで、どういう事か説明をして頂けるのですよね?」
応接室のソファに腰をおろした僕にサーシャは備え付けのポットから紅茶を注ぎ僕の前のテーブルに置くと向かい側のソファに自らも座って質問をしてきた。
「ははは、まあなんと言えば良いのか分からないですけどちょっとだけ出来る事が増えまして……」
僕が自嘲気味にそう答えるとサーシャは自分の紅茶を片手ににこりと笑いながら「もしかしてまたレベル……上がりました?」と的確な予想を突きつけてきた。
「えーと、その……なんとなくそんな気もするような、しないような……」
「……上がったんですね」
曖昧な返答をする僕にきっぱりとそう告げたサーシャはため息をついてから「まあ、確かにスキルのレベルアップをギルドに報告する義務はありませんので話したくなければ無理強いはしませんけど必要な事や大事な事はきちんと説明をしてくださいね」と苦笑いをした。
「すみません。
実はまだ全ての検証が終わった訳じゃないんです。
とりあえず出来る事のひとつが確定しただけなので話すのはまだ後で良いかと考えてたのです。
で、その確定したスキルが『条件圧縮』になります。
これは通常のカード収納スキルに追加の機能を持たせて『事前に登録した特定の人のみカード化を解く事が出来る』能力になります」
僕はそう話すとウエストポーチから一枚のカードを取り出した。
【まんじゅう:作りたて】
「これは僕が先日町のお店で買ったものを保存のためにカード化しておいたものです。
普通ならばこのまんじゅうをカードから現物に戻すにはカード化した僕が開放しなければいけないのですが、ちょっとこのカードを持って貰えますか?」
サーシャは言われるままに僕からカードを受け取る。
「では、付加をしてみますね。」
――条件圧縮」
僕がスキルを使うとカードはサーシャの手の中で一瞬赤く光るとすぐに光は消えた。
「これで完了です。
カードの裏に魔法陣のような模様が刻まれたと思います。
それがサーシャさんを所有者と認識させる暗号となります。
では、そのカードを持ったまま『――暗号解放』と唱えてください」
サーシャは半信半疑ながらも僕の説明どおりにキーワードを唱える。
「――暗号解放」
次の瞬間、サーシャの手の中には美味しそうなまんじゅうが現れていた。
「そんな……私にはカード収納の適正なんてないはずなのに」
サーシャは驚きの表情をして手のひらに乗るまんじゅうをじっと見つめている。
「――これが『条件圧縮の付加』になります。
今のところはレベルアップの恩恵はこれしか分かってません」
「これしか……ってまだ何かあるんですか?」
「これはあくまで今までも出来た事に追加の機能を追加出来るだけのものですから、もうひとつ本命があるんですがこっちの方はまた検証が難しいので暫くは試行錯誤の繰り返しになるかと思ってます」
何でもないかのように話す僕にこめかみを押さえながらサーシャは「そうですか、もし私に協力出来る事がありましたら「『すぐに』相談してくださいね」と念を押して協力を申し出てくれた。
「ありがとうございます。
是非そうさせて貰いますね。
あ、それで金色マースの件はどうしますか?」
「そうですね。
とりあえずギルドマスターにだけは相談させてください。
いくらなんでもいきなり私がカード化の解除を始めたらすぐにあらぬ噂が立ちそうですので、ギルドマスターの立ち会いを条件に許可してもらうのが現実的かと思います」
サーシャはそう言ってもう一度手のひらのまんじゅうを見つめた。
「――ミナトさん。
ここ数日ギルドに顔を見せなかったですけど何をしていたんですか?
金色マースのカードからの開放が出来なくて在庫が危なかったんですからね」
実際のところ、レベルがあがってあの親子の家にお世話になった後は結局普通の状態に戻るまであれから数日間は寝込んでいたのだがそれを正直に言うとなんだか怒られそうな気がして僕はやんわりと誤魔化した。
「あはは、すみません。
ちょっと考えたい事があって数日間ぼーっと寝て過ごしていたんですよ。
すぐにカード化の開放をしますから空いている水槽を教えてください」
僕が謝りながらそそくさとカードが保管されている部屋に向かうと後ろからついてきたサーシャがボソリと僕の後ろからささやいた。
「――ミナトさん。
なんか隠してませんか?」
ドキリ。
サーシャが鋭いのか僕の演技が大根なのかわからないが僕の嘘は簡単に感づかれてしまう。
「な、なんの事ですか?
ああ、そうだ。今日みたいに僕が来れないような事がおきたらお互いに大変でしょうから金色マースのカード化開放に関してはサーシャさんに一任するようにお願い出来ますか?」
サーシャの根拠のない追求に動揺した僕は今回はまだ話すつもりの無かった暗号圧縮の事をポロッと漏らしてしまう。
「……どういう事なのでしょうか?
確か、カード化されたものはそれを施した人しか元に戻せないはずでは無かったと認識しているのですけど……。
また、なにかやりました?」
笑顔で話すサーシャの声自体は普通に話している大きさであったがなんと言うかその時サーシャの背後からは見えないオーラがメラメラと立ち込めている幻覚が僕にははっきりと見えていた。
「この後、ちょっと第二応接室まで来てもらっても良いですか?」
「いや、ちょっと忙しいのでマースの開放が済んだら帰っても良いですか?」
なんとか誤魔化して逃げようとする僕の手をサーシャがしっかりと握りしめてからもう一度同じセリフを言った。
「この後、ちょっと第二応接室まで来てもらっても良いですか?」
手を握りしめられて僕をじっと見つめる目をされるとどう足掻いても僕の敗北は決定していた。
「……はい」
「わかってくれて良かったです。
では、先にマースの開放をお願いしますね」
サーシャは僕の手を握ったままマースの水槽まで僕を引っ張っていく。
まるで『逃しませんよ』と言わんばかりのオーラを放ちながら笑顔を崩さずに歩いていった。
「――開放」
在庫として置いておいたカード化した金色マースを空いていた水槽に次々と開放して行き最後の水槽を満たした後、僕は第二応接室へと連行された。
「――それで、どういう事か説明をして頂けるのですよね?」
応接室のソファに腰をおろした僕にサーシャは備え付けのポットから紅茶を注ぎ僕の前のテーブルに置くと向かい側のソファに自らも座って質問をしてきた。
「ははは、まあなんと言えば良いのか分からないですけどちょっとだけ出来る事が増えまして……」
僕が自嘲気味にそう答えるとサーシャは自分の紅茶を片手ににこりと笑いながら「もしかしてまたレベル……上がりました?」と的確な予想を突きつけてきた。
「えーと、その……なんとなくそんな気もするような、しないような……」
「……上がったんですね」
曖昧な返答をする僕にきっぱりとそう告げたサーシャはため息をついてから「まあ、確かにスキルのレベルアップをギルドに報告する義務はありませんので話したくなければ無理強いはしませんけど必要な事や大事な事はきちんと説明をしてくださいね」と苦笑いをした。
「すみません。
実はまだ全ての検証が終わった訳じゃないんです。
とりあえず出来る事のひとつが確定しただけなので話すのはまだ後で良いかと考えてたのです。
で、その確定したスキルが『条件圧縮』になります。
これは通常のカード収納スキルに追加の機能を持たせて『事前に登録した特定の人のみカード化を解く事が出来る』能力になります」
僕はそう話すとウエストポーチから一枚のカードを取り出した。
【まんじゅう:作りたて】
「これは僕が先日町のお店で買ったものを保存のためにカード化しておいたものです。
普通ならばこのまんじゅうをカードから現物に戻すにはカード化した僕が開放しなければいけないのですが、ちょっとこのカードを持って貰えますか?」
サーシャは言われるままに僕からカードを受け取る。
「では、付加をしてみますね。」
――条件圧縮」
僕がスキルを使うとカードはサーシャの手の中で一瞬赤く光るとすぐに光は消えた。
「これで完了です。
カードの裏に魔法陣のような模様が刻まれたと思います。
それがサーシャさんを所有者と認識させる暗号となります。
では、そのカードを持ったまま『――暗号解放』と唱えてください」
サーシャは半信半疑ながらも僕の説明どおりにキーワードを唱える。
「――暗号解放」
次の瞬間、サーシャの手の中には美味しそうなまんじゅうが現れていた。
「そんな……私にはカード収納の適正なんてないはずなのに」
サーシャは驚きの表情をして手のひらに乗るまんじゅうをじっと見つめている。
「――これが『条件圧縮の付加』になります。
今のところはレベルアップの恩恵はこれしか分かってません」
「これしか……ってまだ何かあるんですか?」
「これはあくまで今までも出来た事に追加の機能を追加出来るだけのものですから、もうひとつ本命があるんですがこっちの方はまた検証が難しいので暫くは試行錯誤の繰り返しになるかと思ってます」
何でもないかのように話す僕にこめかみを押さえながらサーシャは「そうですか、もし私に協力出来る事がありましたら「『すぐに』相談してくださいね」と念を押して協力を申し出てくれた。
「ありがとうございます。
是非そうさせて貰いますね。
あ、それで金色マースの件はどうしますか?」
「そうですね。
とりあえずギルドマスターにだけは相談させてください。
いくらなんでもいきなり私がカード化の解除を始めたらすぐにあらぬ噂が立ちそうですので、ギルドマスターの立ち会いを条件に許可してもらうのが現実的かと思います」
サーシャはそう言ってもう一度手のひらのまんじゅうを見つめた。
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