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第一章 たとえ君が誰であろうと好きにならずにいられなかった
第一話
しおりを挟む―― 散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする。
帝都に舞う花のごとく、悪しき妖魔を殲滅せん。
我らが守護者、月光隊!
子どもたちが楽しそうに歌う声が今日も帝都に響き渡る。
帝都、桃京。
そこは西洋文化が溢れ、近代的なビルディングが立ち並ぶ。
……と、言われているがどう見ても最新の建物には思えない。三階建てがせいぜいの言うなれば昭和初期、いや明治あたりの建築だろう。
俺はそんな桃京のゴツゴツとしたレンガ道を歩いていた。
雨が降れば水はけも良くないし、整備されたアスファルトを知っている身からすれば歩きづらくて仕方ない。
だが、この世界の大半を占める泥道を思い返せばぬかるむこともないレンガ道は馬車も嵌らないし、この時代では十分画期的な舗装であった。
「衛。少し休んでいかないか?」
隣を歩く月光隊の先輩隊員、一条寺陽真少尉に声をかけられて俺は足を止めた。
バリバリの日本人名なのに一条寺少尉は何故か金髪にアイスブルーの瞳をしている。齢21歳。皇族の流れをくむ華族のひとり。
詰め襟型の軍服が似合う、女子憧れの王子様を具現化したような人間だ。
「はっ。承知いたしました」
本当は巡回中の休憩など以ての外だが、上官命令は逆らえない。
俺が足を揃えて返事をすれば、少尉が柔らかく微笑んだ。
「相変わらず堅苦しいね。配属されて三月、僕は君との仲を深めたいんだけど」
「勿体ないお言葉、ありがとうございます」
俺はさり気なく顔を寄せてきた良い香りのする少尉から半歩後ずさって敬礼した。
そんな俺に苦笑しつつも、少尉は行きつけの喫茶店へ足を進める。
『月光乙女は帝都に舞う』という少女漫画がある。
主人公、月代おとめが妖魔という未知の生物と戦う国軍である月光隊に入り、挫折や恋を知り成長していく物語だ。
ちなみに舞台は世界大戦の起きていない架空の大正である。
俺の生きているこの世界が少女漫画だと気付いたのはなんのことはない、月光隊の養成学校である、月読館でおとめに出会ったからだ。
それまで俺はなんとなくこの景色を知っているような知らないような、変な既視感に襲われることはあった。
便利だと言われた自転車を見て、もっと楽な乗り物があるのに、と無い存在を確信した時なんかは自分の中の違和感が酷かったが、おとめを見てストンと納得した。
ああ、俺はもっと便利な世界から生まれ変わってきたのか、と。
違和感の正体を俺に気づかせてくれた月代おとめは茶髪に大きな瞳のまあまあ可愛らしい少女だが、特出した美貌の持ち主ではない。
だけどやたらと目を引いた。
あれが主人公特権と言うのかもしれない。
性格も普通で我も強くなく、協調性もあり人との距離感も普通だった。
こんな子がこれから妖魔と激戦を繰り広げるのかと思うとやるせなくて、少女漫画の展開を知っていた俺は影から見守ることにした。
なんのことはない、食堂でさり気なく席を譲ったり、代わりに演習武器を片付けたり、そんな程度だ。
おとめはそんな俺に気づけば「ありがとう!」とちゃんとお礼も言える良い子である。
もはや親目線かと言わんばかりの俺だったが、月光隊では一モブとしておとめの活躍を祈ろうと思っていた。
ちなみに少女漫画はおとめが月光隊の中でも特殊部隊である夜蝶部隊に配属されることから始まる。
やたら顔や身分のよい男ばかりの夜蝶部隊は実力派ぞろいだが、単独行動が多い問題児ばかりで、彼らを持て余した軍が厄介者として集めた部隊だった。
ちなみにおとめが夜蝶部隊に配属されたのは手違いという設定だ。
だがそこで彼女は奮闘し、夜蝶部隊を立派な戦力に育て上げる。
のだが。
なぜか今俺の目の前に、その夜蝶部隊の隊長である一条寺少尉がニコニコと笑顔で座っている。
「ねぇ、今度の休みに活動写真に行かないかい?」
「なぜ、でしょうか?」
一条寺少尉の前にはホットコーヒーが、俺の前にはアイスカフェオレが運ばれてきているが、上官が手を付けなければ俺も飲み物に手を付けられない。
カラリと鳴る氷を見つめながら、少尉の誘いに質問を返した。
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