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第一章 たとえ君が誰であろうと好きにならずにいられなかった
第二話
しおりを挟む「君のことをもっと知りたいからだよ」
カチャリとコーヒーカップが持ち上がる音がしたので顔をあげれば、俺の行動を予測してたのだろう少尉と目が合う。
本当に腹が立つくらいかっこいい。
曲者揃いの夜蝶部隊でも腹黒筆頭である少尉は無能のふりをして軍内部にかなり根を張り巡らせているやり手だ。
おとめが手違いで夜蝶部隊に配属されたのも彼の画策による。
後々おとめにそれを暴露した回では「君ならあちこち飛び回る蝶を集める蜜になると思った。僕を含めて君の虜さ」などと口説いていた。
そんな一条寺少尉のことだ。
もしかして俺に前世の記憶があると気付いているのかもしれないという、底知れぬ恐怖がある。
いや、それ以上になんというか、少尉に気にかけられるとどうも心身ともにムズムズとしてしまうのだ。
モブが主人公たちの信者になってしまう気持ちがわかる、というか。
もしかして俺のことを好きなのでは? という期待のような勘違いをしてしまうのだ。
だが、そんな訳はない。
少なくとも一条寺少尉はおとめに恋をするのだから。
どう考えても男で黒髪黒目の何の変哲もない俺なんかを気にかけるはずはないのである。
得体がしれない。だから近寄りたくなかったのに。
「俺はあくまでも手違いで一時配属になった身です。親睦をこれ以上深めていただく必要はありません」
そう、なぜか手違いで現在俺が夜蝶部隊に配属されている。
家族が妖魔に襲われ孤児となってからは村八分にされて後ろ盾もなく、見た目にも華のない俺が夜蝶部隊に入れるわけがないのである。
おとめが配属されるのはきっとこの後なのだろう。
一条寺少尉は残念ながらおとめと結ばれることのない当て馬だったが、人気のあるキャラだった。
そんな人物が俺なんてモブと大事な休日を過ごすのは勿体ない。
月光隊はこれでいてなかなかの激務なのだ。
おとめに振られた後のためにも可愛いお嬢様と親交を深めておくべきだろう。
「……三枝とは狩猟にでかけたと聞いたが?」
「? はい。三枝先輩が罠の作り方を知りたいというのでご一緒しました」
三枝彪太郎先輩も夜蝶部隊のひとりである。
大型わんこ系の親しみやすい人物だ。九人兄弟の長男で面倒見がよく、良き兄貴分である。
ただその場の感情に流されやすく、命令無視が甚だしい。
「五木とは深夜までチェスをしていたと聞いたけど?」
「あ、消灯時間を守らずに申し訳ありません」
「その程度は構わないけど」
五木央介先輩は沈着冷静、頭脳派で嫌味が多い。だが嫌味を聞き流せば知識欲が高く物知りで会話も楽しい。
娯楽が少ないこの世界で、各国のゲームを理解し対戦できる数少ない人物だ。
だがとにかく人を小馬鹿にした態度をとるので敵が多い。
「四ッ谷ともなにか約束をしているのかな?」
「四ッ谷さんとは特に何も」
「そう、良かった」
四ッ谷惣平さんは夜蝶部隊の事務方のスタッフだ。戦闘には出ないが諸々のスケジュール調整などを行ってくれる。
有能だが影が薄く、居るのか居ないのかかなり意識しないと存在を認識できない忍びのような人だ。
なにが良かったなのかよく分からなかったが、せっかくのカフェラテが薄まる前に飲もうとストローに口をつけた瞬間。
ガシャーンっと食器が床に落ちる音が喫茶店に響いた。
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