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第四章 百鬼夜行殲滅作戦
第一話*side衛
しおりを挟む妖魔は単体、あるいは同じ形態のものが集まって小さな集団となり行動することが多い。だが稀に色々な種類の妖魔が集まり、大規模な群れを成すことがある。
「百鬼夜行の予兆が確認された。我が隊も合同殲滅作戦に参加する」
緊急招集された夜蝶部隊の待機場所兼事務室にて、一条寺少尉が静かな声で言った。
集まった隊員たちに緊張が走る。
百鬼夜行とはその名の通り大量の妖魔が群れをなすことだ。百鬼夜行で発生する異空間の広さは計り知れず、被害人数も相当なものになる。
そのため複数の部隊にて殲滅に当たることになっていた。
「百鬼夜行……」
俺は思わずゴクリと唾を飲み込む。
俺が月光隊員になって初めての百鬼夜行だ。
いつもの妖魔退治とは比べ物にならないほど、過酷な戦いになるだろう。
「うっし! 腕がなるな!」
「少し発生頻度が早い気がするが、まあいい。それで、今回はどの部隊の手伝いをするんだ?」
少しばかり怯んでしまった俺の横で三枝先輩は楽しそうに拳を合わせ、五木先輩は顔をしかめながらも一条寺少尉に問いかけた。
あれ? そんなに気を張ることもない……のか?
先輩たちの軽い様子に俺の緊張は少し和らいだが、五木先輩の問いかけに一条寺少尉の表情があからさまに曇った。
「第壱部隊と第弐部隊だ」
「ははっ、なるほど。ぼくたちが全滅でもしない限り、助力は期待出来ないってことか」
少尉の回答にいち早く反応したのは百園曹長だ。呆れた顔と大きなため息とともに何気に恐ろしいことを言っている。
月光隊、第壱、第弐部隊は華族や政界の重鎮、大富豪の子女が所属できる、いわゆる選ばれた血筋の人間だけの部隊だ。ちなみに所属人数はどちらも50名を超えており、その中でいくつかの班に分かれている。
第壱は実力者揃いで選民意識はそこまで高くない人格者が多い印象だが、第弐部隊はただ威張り散らすだけの無能な奴が多い。
孤児という経歴を持つ俺としては、第弐はとくにお近づきにはなりたくない人たちだ。
「まあ、妖魔をおれたちが一掃すればいいだけの話だろ」
「脳みそのない木偶坊はお気楽でいいな」
「なんだと」
仲良く言い争いを始めた五木先輩と三枝先輩は無視して、俺は百園曹長に質問した。
「あの……助力が期待出来ないって、どういうことなのでしょうか?」
少女漫画『月光乙女は帝都に舞う』でも百鬼夜行のシーンはあった。
おとめたちが夜蝶部隊に入りしばらくたった頃の話なので、時期的に今回のものが漫画で出てきた百鬼夜行なのだろう。漫画でも合同殲滅作戦が行われ、第壱、第伍部隊と共闘していた。
この百鬼夜行で当て馬キャラの一条寺少尉はおとめを庇い背中に大怪我をする。
おとめは少尉に罪悪感を抱き親身に看病するものの、庇えなかった二階堂が二人の急接近も相まって思い悩み、思わずおとめに「俺が怪我をすればよかった」と言うのだ。
もちろんこれは隊長が不在になるよりも平隊員の自分が負傷すべきだったという意味合いもあるのだが、それを聞いたおとめが自覚してしまう。「晃が大怪我をしなくてよかった。そうか私は……晃を特別に想っているんだ」と。
まあ穿った見方をしてしまえばおとめは怪我をしたのが少尉で良かったと思ったことになる。今思うと随分勝手に感じるが、物語の展開上仕方ないのだろう。
好きな人を庇って大怪我をしたというのに、他の男への恋心を自覚させることとなった一条寺少尉の大変不憫なエピソードだ。
こんなにかっこいいのになぁ、と知らず少尉に視線を向ければ目が合う。
ふわりと微笑まれて思わずキュンと胸を高鳴らせた俺を、現実に引き戻したのは百園曹長の大きなため息だった。
「どうもこうもない。第壱も第弐もぼくたちを助けるわけがないからだ」
吐き捨てるように答えた百園曹長に視線を戻せば俺は首を傾げる。
「でも、合同作戦ですよね?」
「ああそうか、日凪は合同初めてだったな。だいたい第壱と第弐は何もしない。しても最後にちょろっと参加して手柄を持ってくくらいだな」
俺の疑問に答えてくれたのは三枝先輩だ。
ということは漫画では明記されていなかったが、夜蝶部隊と共に戦っていたモブの月光隊員は、もしかして全員第伍部隊だったんだろうか。
「よりにもよって仕事をしない二部隊と合同だなんて……せめて他の部隊がいてくれたら良かったのに……っ! 隊長殿! これは明確な殺意を感じるぞっ! うちの部隊は嵌められたんじゃないのか?」
「それは考えすぎだよ、五木」
諦めたような百園曹長、やる気満々の三枝先輩、発狂しそうな五木先輩、呆然とする俺、苦笑している少尉と、事務室内はなかなかカオスな状態である。
ちなみに月光隊は第弐拾伍部隊まであり、日本各地に散っている。
他にも夜蝶部隊のような特殊部隊が存在し、今回の百鬼夜行の予兆を発見したのも偵察を得意とする特殊部隊の一つだろう。
「さすがに戦況が不利になれば彼らも黙ってはいないさ。僕達を見殺しにしたとなっては、自分たちの経歴に傷が付いてしまうからね」
一条寺少尉は苦笑しつつも、どこか楽しそうな声音で言った。
少尉もどちらかといえば三枝先輩寄りの思考なのかもしれない。
怖いもの知らずとはこのことか。
援護が期待できない中、この五人で百体以上の妖魔を相手にする。
それはものすごく大変なことではないだろうか。それに……。
俺はそっと一条寺少尉の姿を盗み見る。
おとめがいないから大丈夫だと思うが、少尉が大怪我をするかもしれない。
「俺が守らなきゃ……」
少尉の役に立って、俺はモブキャラじゃないんだって証明する。いやそれ以前に……俺は少尉に絶対に怪我なんてして欲しくない。
俺の身に変えても必ず守ってみせる!
カオスな空間をフォローすることもなく詳細な説明を始めた少尉の言葉を、気合とともに俺は聞き漏らさないよう一言一句頭に叩き込むのだった。
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