イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音

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第四話 招かれざる客

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 今日のお茶会もエルレは花茶を飲み終われば「用がある」とそそくさと帰ってしまった。
 少し前までは別れの際に次回の日程を決めていたのだが、最近はそれすらもない。俺から手紙を出さなければ顔も見せてくれない。

 先程までエルレが座っていた場所をぼんやりと見つめる。
 エルレは俺の何が気に入らないのだろうか。自分で言うのもなんだが、俺はかなりハイスペックでお買い得な男だと思うんだけど。

「うーん……」
「失礼いたします、ヴェルダード殿下。アストラシス公爵家のレイリー様がお会いしたいとお越しになっておりますが、いかがなさいますか?」
「レイリーが? ……わかった。第三応接室に通しておいてくれ」

 報告してきた従者に指示を出したあと、俺はいつもの紅茶を淹れてもらい、ゆっくりと味わうことにした。
 花茶も良かったけど、飲み慣れた味が一番ほっとする。
 それにしても会いたい人にはなかなか会ってもらえないのに、会いたくない人ほど積極的に会いに来るのは何故なのか。

 レイリーはエルレの義理の弟だ。年は16歳だが特に国政には関わってないので俺との接点はほぼない。
 ……この手の唐突な謁見希望は面倒案件な予感しかしないので断ることが多いのだが、エルレの立場もあるのでアストラシス家の顔は立てねばならない。

「ヴェルダード殿下! お会いしとうございました!」

 応接室に入れば白銀のおかっぱ髪の美少年が俺に抱きついてきた。

「お呼びくだされば、ボクはいつでも参りますのに」
「……レイリー」

 俺は会いたくないし呼んでないんだから来なくていいんだぞ、と喉元まで出かかった言葉を俺はぐっと飲み込み、やたらと身体を押し付けてくるレイリーを押しのけてソファーに座る。その隣に当たり前のようにレイリーも腰を下ろした。

 挨拶もなく抱きつき、俺の許可もないのに隣に座るとか、それもうかなり不敬罪だけど? 少しはエルレの謙虚さを見習ってくれないだろうか。

 残念ながらこういう馴れ馴れしい奴はレイリーだけではない。高位貴族である公爵家、侯爵家、まれに伯爵家の令嬢令息にもこの手の輩は多い。
 親はどういう教育してんだよと思うが、その親もろくでもない奴らが多いのでなんともかんともである。

 アストラシス公爵は常識人だが、奥方と一人息子のレイリーは礼儀がなっていない。エルレの手前、彼らを邪険にするのもよくないかと思い注意もしないから、余計につけあがっている気配すらある。

 今も俺の腕に手を絡ませて、ルビーのような真っ赤な瞳を潤ませながら上目遣いで見上げてくる。
 わかりやすいな、お前はあざとカワイイ系女子か。悪いが俺は不器用な純情系女子がタイプなんだ。肉食系は好みじゃない。
 しかし前世はどうだったか記憶にないが、今生の俺はどうやら肉食系に狙われやすいようだ。
 皇族と縁を結びたい貴族が多いので致し方ないのかもしれないが、俺には8年前からずっとエルレという可愛い婚約者が居る。
 だが肉食獣には俺の可愛い婚約者が目に入っていないらしい。むしろ視野に入れたうえで踏みにじろうとする輩までいた。そういう奴らは一掃したので今でこそ周囲は大人しいが、エルレが公爵家からでて伯爵になった頃が一番鬱陶しかった。

 不愉快にも絡んでくる手をやんわりと押しのけて、俺は一人掛けのソファーへ移動する。
 流石に肘置きに腰掛けるほど非常識ではなかったようで、レイリーはその場で頬を膨らませた。
 レイリーの容姿は整っているので、このようなあざとい仕草は似合っているし好きな奴は多いと思う。

 ただ俺はちょっと、いや大分、嫌悪感がわく。特に今は無性に腹が立つ。

 いやいや落ち着こう。
 エルレが時間よりも早く帰ったのはレイリーのせいじゃない。八つ当たりは良くない。

「で、俺にわざわざ会いに来るなんて何の用だ?」
「それは、その……えっとぉ…そのぉ……あぁ、どうしよぅかなぁ……あのぅ…」
「話す気がないなら時間の無駄だな。失礼する」

 わざと勿体つけて時間を費やそうとするので、俺は立ち上がり謁見を終了することにした。
 エルレのために確保していた時間が残っていたので対応したが、俺はこれでも暇じゃない。

「待ってください、ヴェルダード殿下。今日来たのはエルレ……義兄上のことでご相談が……」
「エルレの?」

 立ち上がった俺に追いすがるようにレイリーも立ち上がると服を掴んでくる。
 部屋のはしに控えていた護衛が警戒する気配があったが、俺は視線でそれを制してからレイリーを引き剥がして一歩下がり距離をとった。


 
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