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第三話 黒持ち
昔はエルレも俺に笑顔を返してくれたのだが、今はあまり視線も合わせようとしてくれない。
嫌われてはいないと思うんだけど……よそよそし過ぎるんだよなぁ。
内心では首を傾げつつも見た目はにこやかに俺もカップに口をつけた。
恵まれすぎていて成り上がる必要などない俺だが、世間的には二つほど同情されていることがあった。
一つは優秀なのに第二皇子がゆえに皇太子になれないこと。
まあこれは俺的にはありがたいと思ってる。皇帝なんて責任の重い仕事なんてやりたくない。補佐で済むならその方が全然楽だしラッキーである。兄上がボンクラなら下剋上を考えても良かったが、多分皇族の遺伝子が優秀なのだ、兄上も俺と同じく何をやらせてもチートである。問題が見当たらない。
そしてもう一つが、今目の前で俯いている黒髪の青年、エルレ・スターシス=シュヴァルトが婚約者だということ。
この世界では髪や瞳の色に精霊の祝福が現れると言われている。分かりやすく説明すれば目や髪の色に使える魔法の素質が現れるってことだ。
たとえば金なら光、赤なら火、茶なら土、緑なら風、青なら水となる。俺のように淡い金髪や銀髪の場合は多属性持ちが多い。
たぶん光の三原色なんだろう。色が混ざると白になる原理である。
この世界の人は必ずそのルールにのっとった色彩を身に宿している。
しかし、そのルールを無視した存在が黒髪黒目である。
黒髪あるいは黒目で産まれてきた者は闇魔法の素質があり、世界を滅ぼす魔王になりやすいとされている。そうならないよう、見つけ次第手厚く保護するという法律が各国にあり、バルバラルキア皇国にもあった。
なんでも昔は世界的に黒持ちを迫害してたらしいんだけど、その都度国が滅ぼされ痛い目をみまくったらしい。
エルレもその法律にのっとり保護された子どもである。15歳までは公爵家が後見人を努めていたが、今は黒髪黒目の者が授与される一代限りの伯爵位を持つ伯爵様だ。
だがしかし、黒髪黒目は色んな特権があるものの、さすがに皇族との婚約がセットになっているわけではない。
たまたま皇宮に来ていたエルレがこの赤薔薇の庭で泣いていて、声をかけ慰めた俺に惚れたのだ。そして俺が側にいることを望んでくれた。
魔王にしないためにも黒髪黒目の希望は可能な限り聞くのが安全策でもあり、バルバラルキアの掟。
第二皇子だし後継がいないほうが兄皇子とも揉めないしいいんじゃない、なんて考えもあって10歳のときに俺達は婚約者となった。
前世で多様性の時代を生きていたおかげか、はたまたまだ幼かったからか、相手が同性だということはまったく気にならなかったし、俺としてはその頃には努力家でちょっぴり不器用だけど直向きに頑張る笑顔の可愛いエルレがけっこう好きだったので、婚約できて願ったり叶ったりだった。
家族も俺が納得していたので不満はなかったようだ。
だというのに、周りには波紋が広がった。
エルレの見た目だけを取り上げて黒髪黒目は不吉だの、第二皇子が生贄になっただの、皇宮内でも市井でもマイナスイメージの噂が広がったし、「おいたわしや」と俺も直接言われたこともある。
そもそも黒髪黒目は闇の魔法の素質があるというだけだ。才能や道具なんてものは使う人間によって善にも悪にもなりえる。
それを知っていた前世持ちの10歳の俺はプンスコした。偏見も甚だしい。
そもそも黒髪黒目なんて、元日本人の俺からすれば安心こそすれ不安感や嫌悪感など浮かびはしないのだ。
これはもう俺がエルレを幸せにするしかあるまい。
そう決意して、早8年。
年々エルレは俺に対して壁を作るようになった。
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