まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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たぶん「好き」だと気付いてる

5.「それなら先に言ってよ」

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 その後、旅館につけばそこで貰った周辺地図につり橋と灯台があると書かれていた。
 旅館から海沿いの遊歩道を歩いて行けるとのことだったので、せっかくだからと行ってみることにした。

 そう、下調べなどしなかった俺達も悪かったんだが、遊歩道とは? というほど過酷な山道だった。いや崖道? なんていうんだろう、とりあえず足元の草は濡れていて滑りやすいし、霧も出てきて視界も悪い。
 すれ違う人も、会う人は俺達よりもだいぶ年配だったというのもあるけど、完全に登山するような恰好をしていた。

 そんなこんなで20分かからないだろうと思っていたつり橋には、一時間半もかかって到着した。
 つり橋を渡る時、他に誰もいなかったので飛び跳ねたり揺らしていたら、ものすごい鬼気迫る顔で「やめろ」「ガキかよ」と各務くんに怒られてしまった。俺は崖から下を見たりするのも好きなので、つり橋から下の渓谷を喜々として眺めてたけど、各務くんは足場が不安定なところは苦手なんだそうだ。

「それなら先に言ってよ」
「別にただ渡るだけなら、怖くないし」

 知らなかったとはいえ、橋揺らしたのなんて完全に嫌がらせになったじゃないか。
 俺が抗議すると珍しく各務くんがバツの悪そうな顔をした。嫌な思いしたのは各務くんなのに、なんか変な感じになってしまったけど、次からは嫌な思いさせないように気をつけようと思う。

 つり橋を渡った先の灯台からの眺めは綺麗だった。到着までに時間がかかったせいで丁度夕日が見えて、これはこれで結果的には良かったな。

 帰りは整備された車道の歩道を歩いた。こっちは予想通り20分で旅館に戻ることが出来た。
 泊まる部屋にはバルコニーに半露天風呂がついていて、目の前には絶景の海だ。
 男同士だから大浴場とか一緒に行けていいかなと思っていたけど、部屋に風呂があるならそれでいい、と断られてしまった。

 俺は部屋風呂にも入るつもりだが、せっかく来たので大浴場にも行くことにした。

「おにいちゃんは彼女と来たのかい?」

 大浴場の露天風呂はヒノキ造りでとってもいい匂いだ。のんびりと夜の海を眺めながら湯につかっていたら声をかけられた。俺の祖父くらいの歳かな?

「……友だちと来たんですけど、大浴場はいかないって言われちゃって」

 彼女と言って朝食会場とかで遭遇した時になんか言われても嫌だなと思い、当り障りのない回答をした。

「あははそうかい」
「えっと、奥さんとですか?」
「そうそう、ご機嫌取りに旅行にきたんだよ。ここは飯も美味いから良く来るんだ」
「へぇそうなんですね、夕飯楽しみだな」

 話好きな方で、奥さんとの旅行だから大浴場は一人で入ることになり話し相手を探していたようだ。
 何度も来ているだけあってこの旅館で扱ってる地酒の情報とか、お土産には何がいいとか情報をいくつか教えてもらうことができた。

 こういう交流も旅の醍醐味だよな。
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