まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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たぶん「好き」だと気付いてる

4.「おれなら、いいの?」

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「なっ……」
「そんなこと考えてないし、話したくない相手を旅行に誘うってどんだけだよ」
「だって、あんた罵倒されなくて寂しいとか、結構マゾじゃん」

 それを言われると返す言葉がないけど。

「いや、マゾだってほら、だれかれ構わず苛められたいってことじゃないと思うよ。いや、わかんないけど」

 わからないから、そんな真面目な顔で見てこないでほしい。
 そもそも俺は変わった性癖はもってない、と思う。

「おれなら、いいの?」

 真面目な顔で見つめられ、小さな声で聞かれる。
 すべて進行方向に座席が並ぶ特急列車の二人並びの席で、窓際の俺は通路側の各務かがみくんに迫られると、窓と座席と各務くんに四方を囲われてしまって逃げ場がない。
 壁ドンとは違うけど、逃げ場がないという意味では同じ状況だ。

 しかも今回はカツアゲされているとは思えないのに、ドキドキする。

「お、俺はだからマゾじゃないから……」
「返事になってない」

 当り障りなく答えたが、回答がお気に召さないのか微動だにしない。しかもだんだん目力が強くなってきて、いつも通り睨まれている。
 真面目な顔よりは、こっちの方がドキドキするけど、なんか落ち着く。

 落ち着く?

「ほらっ! 早く寝ないと寝る時間無くなるよ。駅着いたら歩いて市場とお土産物屋とかあるとこ行ってお昼食べて、その後行くところ考えよう。ずっと眠そうだと連れまわすの申し訳ないから、寝て」

 俺はなんかやばくなりそうな思考を停止するため、睨む相手に出来るだけ余裕の笑みを浮かべて諭す。

「……チッ」

 各務くんは舌打ちすると自分の座席に深く座り直した。俺は四方の囲まれていた壁から解放されて、ほっと息をつく。
 次の駅につくころには各務くんは穏やかな寝息を立てていて、きつい瞳が閉じられているせいかとても幼く見えた。

 幼く、といっても俺と10歳も違うんだから年下だよな。
 あれ、もしかして俺が二十歳の時に十歳……ってことは俺が成人式してる時に各務くんは小学四年生とか、なのか??
 
 うん、これは深く考えたらきっと負けだ。

 俺は気持ちよさそうに眠る各務くんの横でスマホを取り出し、これから行く場所の観光スポットを検索することにした。

 予定の駅につくと俺達は歩いて市場や飲食店などのある観光スポットで昼食にした。
 電車で寝たのが良かったのか各務くんの眠気は収まったみたいだ。
 次にどこに行くか話し合ったがどうにも行ける範囲で行きたいところもなく、海を見ながらそこで地ビールをのみ早めに旅館へ行こうという事に落ち着いてしまった。
 
「もっと遊ぶ場所が多いとこにすればよかったね」

 俺はスマホ画面を落としつつ言う。

「……あんたと一緒なら、別にどこでもいい」

 海を見つつ、ビールの入った透明なプラカップを傾けながら、ぼそりと言われて思わず見つめる。アルコールのせいか、ちょっと頬の染まっている各務くんが物凄く可愛い。

「ありがとう」

 梅雨が過ぎて一気に夏らしくなった空の下、海風に吹かれながらのんびりとした時間が過ぎていく。
 とっても贅沢な時間の使い方だ。それに付き合ってくれる相手が居ると言うのもとても幸せなことだって思った。
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