まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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それでも「好き」が止まらない

9.「あんたのは絶対洒落にならねぇだろっ」

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 胸がギュッとなる。学生から貰うにはあまりに高価過ぎるプレゼントだ。だけどこれを受け取らないということは、各務くんの苦労や俺への愛を否定することになるんじゃないだろうか。

 俺は箱から時計を取り出すと腕にはめる。高級メーカーだけあって装着感も良い気がした。

「各務くんが謝ることは何もないよ」

 未だ頭を下げている各務くんの肩にそっと手を乗せる。腕時計が照明に反射して煌めいた。

「各務くんは自己満足って言ってるけど、俺への好きって気持ちで頑張ってくれてたんでしょ? それが最悪なんてことあるわけが無い。それに一か月会わないくらいで、あ、厳密には朝会ってたけど、とにかくそんなすぐに大の大人が弱るなんて普通思わないし。……俺は嬉しいよ。時計、ありがとう。大事に使わせてもらうね」
「……うん」

 俯いたままで顔は見えないけど、その弱々しい声に庇護欲が掻き立てられて、思わず各務くんの頭を胸に抱きしめた。

「あ、でもこれを俺が受け取るってことは、各務くんも俺からのプレゼントは無条件で受け取るってことだからね」
「は? いや待て、あんたの散財はヤバい、からっ……」

 顔を上げて抗議しようとする各務くんの頭をしっかりとホールドしたままほくそ笑む。

「ははっ、きっと俺の愛は各務くんより重いからね。覚悟してね」
「愛の重さとか関係なく金遣いが、あんたのは絶対洒落にならねぇだろっ」

 抱えていた頭は強引に振りほどかれ、じゃれ合う様に暴れていれば、気付いた時には各務くんに押し倒されていた。お互いドギマギと意識しすぎてキスすら出来ぬまま、大人しく座りなおして残りのケーキを美味しく食べた。

 最終的に各務くんは俺からのプレゼントを受け取ってくれることになった。ただし、プレゼントは俺のひと月分の給料より安いものに限ること。俺は俺で寂しくなったら体調の変化をきたす前に、必ず各務くんに伝えることを約束させられた。

 ただお互いがお互いを思って、好きだからこそ頑張れていた事が相手を無意識に悲しませた。各務くんはすました顔をしているが、大学生の夏休みがいくら長いからといって、これだけの金額をいつもの生活費の他に稼ぐのは並大抵のことじゃない。各務くんは悪態はついても嘘はつかないから、研究室の手伝いだって本当にやっていたのだろう。彼こそ睡眠時間を削り、体力ぎりぎりの日々を過ごしていたんじゃないだろうか。

「ねぇ、各務くん。寂しくなくてもたまには連絡してもいいかな」

 俺にとって甘えるのは我慢するよりハードルが高い。年下の相手ともなればその敷居はさらに高くなる。だけどもう二度と各務くんの努力を自己満足だなんて言わせたくない。だから俺は毎日美味しくご飯が食べられるよう、これからは各務くんのお言葉に甘えることにする。

「なんなら、毎日食ったものの写真送ってくれてもいいけど」
「それってどこかのスポーツジムみたいじゃない?」

 思わず二人で顔を見合わせて笑う。

 俺たちはこれからもきっとすれ違ったりするのだろう。だけど各務くんとなら、こうやって最後には笑い会えるに違いない。
 そっと各務くんの手に触れれば、当たり前のように握り返してくれる。その手の暖かさに、そんな気がした。
 
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