まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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それでも「好き」が止まらない

8.「気づくの遅ぇよ」

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 カレーもサラダも安定の出来栄えだった。だけど各務くんと一緒に食べているというだけで何倍も美味しく感じた。それを各務くんに伝えたら「高い牛肉だから美味かったんじゃねぇの?」と言われてしまった。でも俺の言葉に満更でもない顔をしてたので、照れ隠し可愛いなぁと俺の心はほかほかした。

 あの後、真っ赤になって天を仰いだ各務くんに、ご機嫌になった理由を問い詰めた。だって何がそんなに嬉しかったのか知りたいじゃないか。渋っていたが結果として「寂しがるのが可愛すぎて、まじヤバイ」との回答を得た。思わず「それは各務くんの感性がヤバイのでは?」と真顔で言ったら怒られた。

 さらにもう一つ、各務くんに怒られた事がある。

「自分の誕生日忘れるとか、普通ないよな?」

 そう、なんと今日は俺の誕生日だったのだ。
 三十歳を過ぎれば家族からも祝われなくなり、疎遠になった友人たちからも連絡はなく、自分の誕生日の存在などすっかり忘れていた。いや日付は覚えているけど、今日がその日だというのを失念していたのだ。

 今日は各務くんとの夕食会! それしか考えていなかった……。

「だからケーキか!」
「気づくの遅ぇよ」

 呆れ顔の各務くんが食後の珈琲とケーキを用意してくれた。3と1の形のロウソクも用意してくれてたけど、使うのが勿体ない気がして記念に取っておくことにした。カットケーキにロウソク乗せるのも窮屈に見えるしね。

「あはは、えへへ、嬉しいなぁ」

 酒が入っているわけでもないのに、俺はフワフワとした気分で苺の乗ったチョコケーキを食べる。各務くんはシンプルなチーズケーキだ。

「あのさ……我慢しないでいいから」
「ん?」
「おれに会いたいとか、そういうの。さっきは取り乱して寂しがるあんたが可愛いとか、なんか最低なこと言っちゃったけど、好きな人を寂しがらせるなんて、良く考えたら最悪だよな」

 ケーキを半分食べたところで各務くんが静かな声で言った。隣に座る姿を見れば、正面を向いたまま真面目な顔をしている。

「おれの自己満足のせいであんたを傷つけた、本当にごめん……なさい」

 消え入りそうな声で各務くんはそう言うと、ラッピングされた小さな箱を取り出した。間違いなく俺への誕生日プレゼントだろう。他人からもらうのは何年ぶりだろうか。

「開けてもいい?」
「……うん」
 
 小さな箱の中身はシルバーの腕時計だ。俺でも知っている海外の老舗時計メーカーのロゴがついている。

「え、まって、これかなり高いやつじゃ……」

 大学生が買うにはバイト代を何ヶ月、下手したら年単位で貯めなければ手が届かない価格だったはずだ。

 各務くんと腕時計を交互に見ていれば、各務くんは視線を合わせることなくバツが悪そうな顔をする。

「いつも身につけて貰えるものがいいなって思ったんだけど、あんたアクセサリーとかつけないし、時計ならいいかなって。実用性とか職場に着けてくなら、それなりの物の方がいいだろ?」
「いや、でもだからって流石にこれは……」

 俺が戸惑っていれば、こちらを見る各務くんと目があった。

「だから、おれの自己満足なんだって言ってるだろっ! ちょっと予定よりバイトも増やさなくちゃいけなくて、会う時間も削って、あんたがまともな飯も食えなくなってるのにおれはあんたのためだって自惚れて、あんたを放置してたんだ」

 きつく自分の手を握りしめ、視線を外すことなく真っ直ぐと俺を見たまま、各務くんは「ごめん」と呟いて頭を下げた。
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