まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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それでも「好き」が止まらない

7.「なんか、ごめん」

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 力強く抱きしめられていれば、あー各務くんだなぁ、なんてしみじみと感じてしまう。このまま暫く堪能したい欲にかられたが、今の俺には任務があった。

「各務くん、あの、カレーが……」

 そう、夕飯を作るという任務である。焦げるのではないかと心配になったのもあるが、これで話題を変えられないかと試みた。だって好きすぎて泣いたとかちょっと……いや大分重いだろう。
 しかし俺の策は失敗した。各務くんは俺を抱きしめたまま手を伸ばして火を消す。なんて狭いキッチンなんだろうか。完全敗北である。そして各務くんの無言の圧がツラい。俺は大人しく降参することにした。

「……自分でも良くわからないけど、各務くんのこと好きだなぁって思ったらブワってなったんだよ。……悲しいとかじゃなくて、安心したっていうか」

 観念した俺はなんともつたない返事をした。それを聞いた各務くんは一瞬息を呑んだあと、俺の背中を子どもをあやすようにトントンと優しく叩く。それが心地よくて、俺ももっと各務くんに触れたくて、無意識に抱きしめ返していた。
 
「……で、食事できないほどしんどかったのは?」
「う、それは、その、各務くんと一緒じゃないとご飯が美味しくなくて、面倒になったから手を抜きました」
「は? 何だよそれ。なにか悩み事があるとかじゃなくて?」
「悩みは特にないよ。………なんだろうね。各務くんに会えなくて寂しすぎたのかな」

 味の変化については自分でも何故かわからないので説明のしようがない。彼氏に会えなくて寂しいとか、可愛い女の子ならまだしも三十路過ぎのおっさんが言うのはかなり痛々しいだろう。自分のみっともなさは判っている。
 だけど各務くんになら甘えてもいいのかなと思ってしまう。でもそれはあくまで俺の願望だ。実際は気色悪いと引かれてしまうかもしれない。

 恐る恐る各務くんの様子を伺うと、複雑な表情を浮かべていた。悲しそうな嬉しそうな怒ってるような、口元がモニョモニョしている。これはどういう心境なのだろうか? 

 各務くんの真意がわからず戸惑っていれば、そっと涙を指でぬぐわれた。
 うっかりトキメイてしまうから、さり気なくカッコいいことをするのは止めて欲しい。

「なんか、ごめん」
「え? なんで各務くんが謝るの」
「あー……いやなんだ、その、おれ、こういう時、うまいこと言えないから、その、ごめん。あー、でもほんとあんた何なの? 俺に会えなくて寂しすぎとかマジかよ。……ヤバい、まじ、ヤバいから、ちょっと待って。ちょっとマジで、ごめん、落ち着くから」
「え、あ、うん」

 各務くんはそう言うと俺から離れて部屋の方へ移動してしまった。突然早口になったかと思えば部屋で「ヤバい」とか「まじかよ」とかブツブツ言っている。
 とりあえず混乱している各務くんはそっとしておいて、俺は夕飯の続きを作るべきだと判っているが、ついつい各務くんの後を追ってしまった。

「っ!?! なんであんたも着いてくるの?!」

 しゃがみこんでいる各務くんの隣に当たり前のように俺もしゃがむ。

 混乱しつつ真っ赤な顔でニヤけている各務くんは、今まで見たことのないレアな表情だ。なんだか凄く良いことあったんだなと判るが、何がそんなに嬉しいのかわからない。だけど多分自惚れでなければ俺が各務くんを喜ばせているのだろう。なら隣に居ても問題あるまい。それに今は。

「……なんか、各務くんと離れたくないなって思って」

 俺の感情任せの答えに各務くんは耳まで赤く染めると、ついには両手で顔を覆って天を仰いでしまった。

「あんた、ほんと、そういうとこたち悪いな……」

 指の隙間から覗く瞳は相変わらずキツく睨みつけてきたけど、真っ赤な顔で息も絶え絶えになった各務くんに凄まれても、ただただ可愛いだけだった。
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