まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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いつでも「好き」が溢れてる

1.「それは、あんたが決めることじゃないだろ」

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 少しずつ昼間の気温も下がり、肌寒くなると暖かいものが恋しくなる。まさに鍋の季節だ。
 その日はおでんが食べたくて、手軽に食べるならコンビニなのだけど、どうせなら美味しいおでんを各務くんと食べたいなと思った。なのでテレビでよく聞く下町商店街まで休みの日にわざわざ買いに行った。
 各務くんにそのことを話したら呆れ顔を返されたのだが、食べたらやはり美味しかったので遠くまで買いに行ったことに悔いはない。

 そんな俺の労力をねぎらってか、後片付けと食後の珈琲の準備は各務くんがしてくれると言うのでお任せすることにした。俺も各務くん宅のキッチンに詳しくなったが逆もまた然りである。

 のんびりとグルメ番組を見ていれば、各務くんがマグカップを持ってやってきた。
 最近俺が使っている某テーマパークのハロウィン柄のものだ。すでにハロウィンは終わり街はクリスマス一色だが、明るい柄のカップで俺は気に入っている。

 俺の分のマグカップしか持っていないことに首を傾げれば、各務くんがギロリと睨みつけてきた。

「ねぇ、これ何」
「? マグカップだけど。可愛いよね」

 オレンジ色のカップに幽霊に扮したテーマパークのキャラクターが描かれている。言わずもがな有名テーマパーク好きの職場の後輩、谷内たにうちくんからのお土産だ。これは飲食するとついてくるカップで、行く度ついつい頼んでしまい沢山手元にあるのでお裾分けなのだそうだ。同じ部署のまきさんも貰っていたけど、無駄遣いが過ぎると呆れていた。

「見れば判る。これ、今年のだよな?」
「うん、あ、もしかして各務くんも行った……」

 の?
 と聞こうとして俺は言葉を飲み込んだ。物凄い形相で睨みつけてくる各務くんと目があったからだ。
 これは照れ隠しのやつじゃない。怒ってる、しかも今までで一番腹を立てている気がする。直感でしか無いが。

 俺は思わず居住まいを正す。各務くんは静かにカップをローテーブルへ置き、俺の隣に座った。お互い何故か正座をして向かい合う。

「あの……各務くん?」
「誰と行ったの? あんた友達いないだろ?」

 いやそれは大きな誤解だ。俺に友達はいる。と、問題はそこじゃない。

「行ってないよ、お土産に貰ったんだ。…………えっと、友達じゃなくて、職場の人に」

 再び各務くんに、友達いないだろ? って目をされたので付け足して答える。

「おんな?」
「男です」
「……………………」

 なんだろうこれ? 尋問?
 俺の答えに各務くんはジッとマグカップを睨みつけている。お土産をくれる相手が女とか男とか関係あるんだろうか。
 そこでふと、俺は思いついた。
 もしかして、各務くんは嫉妬してるのではないだろうか。というよりももしかすると、俺の不貞を疑っているのかもしれない。奇しくもハロウィンの時期は各務くんが俺のためにバイト三昧で、俺たちはデートどころか食事も出来なかった時期だ。その間に浮気したと思っているのでは無いだろうか。そんなことは断じて無いけど。

「そのカップ、彼女とデートで行ったからってくれたお土産だよ。他の人も貰ってるから」
「……。」

 もし各務くんが変な誤解をしているのなら、それは違うのだと判るよう言葉を選ぶ。
 視線はマグカップに向けたまま、各務くんの顔がジワジワと赤くなった。
 勘違いして問い詰めたことに恥ずかしくなったのだろう。各務くんのこういう感情に素直というか、表情に出るところ本当に可愛いと思う。

「だいたい俺のことそういう意味で好きなのって各務くんしかいないし、変な心配しないで大丈夫だよ」

 吸い寄せられるように思わず各務くんの口元に触れるだけのキスをして立ち上がる。俺の突然の行動に真っ赤な顔でカチコチに固まってしまった各務くんの代わりに珈琲をいれることにした。

「……それは、あんたが決めることじゃないだろ」

 そんな俺に各務くんが憮然とした顔で呟いた。
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