せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連

文字の大きさ
8 / 43

8 猫の残りは一匹ですか?

しおりを挟む
相変わらず旦那様はお帰りになりませんが、とても楽しく過ごしております。
礼儀として週に一度は旦那様にお手紙を書きますが、その枚数は目に見えて減りました。
だって書くことがないのです・・・
領地でお暮しの義両親にも当たり障りのない手紙を出します。
こちらはすぐにお返事を下さいます。
しかし息子であるルイス様のことは一言も触れておられません。
私も触れません・・・暗黙の了解ってヤツですね。

それにしても、なぜ平穏な時間というのは続かないのでしょうか。
ある日突然、父が入院している病院から連絡が来たのです。
アレンさんが同行してくださり、ノベックさんが馬車を走らせて下さいます。
急いで父の病室に行くと、既に弟のジュリアと叔母の二コルが泣いていました。

「えっ!もう死んじゃったの?」

二人が私の顔を見ました。
ジュリアが少し怒ったように私に言いました。

「まだだ。まだ生きてるから・・・」

私は主治医の顔を見ました。

「もって一か月というところでしょう。もしかするともっと早いかもしれません」

覚悟はしていたとはいえ、私はその場で崩れ落ちそうになりました。
慌ててアレンさんが支えてくれます。

「奥様・・・お気を確かに」

「え・・・ええ、ありがとうアレンさん・・・」

ジュリアが私の腕をとって椅子に座らせてくれました。

「姉さん、いままで良く頑張ってくれたんだ・・・もう楽に逝かせてあげよう」

「そう・・・ね・・・お父様・・・うっうぅぅぅぅぅ」

私は泣いてしまいました。
最近よく泣きますね・・・。

「姉さん、僕は新人だしあまり休めないけど、時間がある限りここに来るから。姉さんもなるべく来るようにしてやって」

「もちろんよ。毎日来るわ」

そう言ってアレンさんの顔を見ると、真剣な顔で頷いてくださいました。
夜間は病室にいてはいけないらしく、朝来て夕方には帰るという毎日が始まりました。
私は旦那様に手紙を書きました。
封筒の隅に『緊急』という文字を書き添えて。

『ルイス様

 お元気でしょうか。ご両親様も屋敷の者もお陰様で恙なく暮らしておりますのでご安心くださいませ。
今回お手紙を差し上げましたのは、私の実家についてのお願いでございます。
何度かお手紙でお知らせいたしましたように、父の容態が芳しくありません。
今回は主治医にもって一か月と宣告されました。
こればかりは仕方がないと、弟と共に静かに見送る覚悟を決めましたが、父は娘の結婚相手であるあなた様の顔を知りません。
父は男手ひとつで私たちを慈しみ育ててくれました。
最後の親孝行を私にさせていただけませんでしょうか。
ほんの数分で結構です。父にお顔をみせていただけませんか?
それだけで父は安心して旅立てると思うのです。
お忙しいのは重々承知致しておりますが、伏してお願い申し上げます。  
                                   ルシア』

数日待っても返事が無いので、また同じような手紙を出しました。
それでも返事はありません。

また数日待って同じような手紙を書いて、今度はアレンさんに手渡しをお願いしました。
旦那様のことをとても怒っているアレンさんは仰いました。

「これで返事がないとなると、坊ちゃんは鬼畜です。殺す価値さえありません」

吐き捨てるようにそう言うと、馬車でなく騎馬で王宮に向かってくれました。
怒ったイケオジ・・・最高です。

でも会えなかったそうで、自分の不甲斐なさを嘆いておられました。
それから数日、やっぱり返事がないなぁ~と思いながら、吞気に朝食をいただいていたら、父の入院先から緊急呼び出しがかかりました。
弟は既に向っているとのことで、私はいつものメイド服のまま馬車に飛び乗りました。
緊急事態ということで、アレンさんが御者をかってでてくれました。
手を引かれ慌ただしく病室に入ると、目にいっぱい涙を浮かべているジュリアの顔・・・

「えっ!もう死んじゃったの?」

弟が私の顔を見て少し怒ったように言いました。

「まだだ・・・まだ生きてるから・・・」

このような事態に直面しているのに不謹慎ですが、ものすごい既視感・・・
おろおろする私にアレンさんが椅子を用意してくださいます。
私が座ると同時に主治医が口を開きました。

「今夜がヤマです。覚悟をしておいてください」

私は父のベッドに突っ伏して泣いてしまいました。
本当に最近涙もろくてびっくりです。
ジュリアがそっと私の背中を撫でてくれました。
あんなに幼かった弟がジェントルマンになっていてまたまたびっくりです。

「ジュリア・・・」

「姉さん。義兄さんは来れないの?」

「うん・・・連絡はしているんだけど・・・返事が無いの」

「そうか・・・俺ね、職場で義兄さんのことちょっと聞いてみたんだ」

そうでした、弟は王宮で文官をしているのでした。

「ルイス様のこと?」

「うん・・・義兄さんは個室を与えられて秘書までついてるほど出世しているんだけど、功績は何かって言ったら・・・不明なんだ。不思議だろ?それで俺の上司に聞いたらこっそり教えてくれたんだけど・・・」

「なんて仰ったの?」

「義兄さんの仕事は女王様のご機嫌取りだってさ。女王様って即位する前からずっと義兄さんにご執心なんだって。普通だったら通らないような案件も義兄さんが持っていくと通るんだって言ってた。だから各部署からものすごく重宝されている」

「学生時代からそうだったわ・・・当時はまだ王女様だったけど・・・」

「しかも義兄さんはべらぼうにモテる。王宮中の女性を虜にしているらしいんだ。だからお目当ての女性をデートに誘うとき、義兄さんを連れていくって言えば100%来るらしい。その方面でも必要不可欠な人員だそうだよ」

「それって・・・天職ね・・・」

「ある意味そうだね」

私とジュリアは黙ってしまいました。
私の後ろでアレンさんが拳を握っておられます。
要するにルイス様は、死ぬ間際の父の見舞いをする時間は無くても、他人の恋路を取り持つ時間はあるということです。
自分の妻の顔を知らなくても、女王様のご機嫌をとっている方が、お金になるということでしょう。
合理的といえば合理的ですが、なんと言うか・・・怒りを通り越して情けなくなります。
私は辛うじてまだ呼吸を続けている父の枕元で、思わず呟いてしまいました。

「このクズが!」

ぴくっと父が反応したような気もしますが、気のせいということにしましょう。
それから数分後、最後にニコッと笑顔を見せてくれた父が・・・逝きました。
とても穏やかな最期でした。
安らかな顔の父を見ながら、私は気づきました。
いつの間にか猫が一匹しか残っていない・・・
やはり先ほどのクズ発言が原因でしょうか。

叔母が病室に駆け込んできました。
タッチの差で間に合わなかった叔母は、父の頬を両手で掴み泣き叫んで揺らします。
死んだ人間の首の骨を折った場合は、傷害罪になるのでしょうか?
私はぼんやりとそんなことを考えていました。

葬儀は身内だけでひっそりと執り行いました。
もちろん旦那様には葬儀の日程と場所をお知らせしましたが、来るわけはないとわかっているので、返事が無くてもなんとも思いませんでした。

でも、来たのです。
代理の方ではありましたが、白い百合の花束を携えて。
手紙へのリアクションは結婚式の準備の時以来ですから・・・約一年ぶりでしょうか。
結婚式と葬式・・・式と付くものにはリアクションがあるようです。

「このたびは・・・ご愁傷様です」

「ご丁寧に恐れ入ります」

「エルランド様はただいま海外出張中で・・・」

「そうですか」

「この花を私に託されました」

「結構です」

「えっ?」

「どうぞお持ち帰りください。顔も知らない人からの花など、父が喜ぶとも思えません」

私は拳を握りしめて怒りを抑えていました。
歯を食いしばりすぎて血の味がします。
弟が慌てて間に入りました。

「えっと・・・申し訳ございません。姉は少々取り乱しておりまして・・・ランドル様ですよね?義兄さんの秘書をしておられる」

「はい、ランドル・ベントンと申します。本当になんと言ってよいか・・・全ては私の責任です。どうかルイス様をお責めになるのは・・・」

その時、アレンさんがランドル様が差し出した百合の花束を奪うように取り上げました。
そしてリリさんに投げ渡すと、リリさんはマリーさんにレシーブでパスしました。
マリーさんは触りたくもないとばかりにそれを両手でトスします。
ポンと上がった花束をランディさんがジャンプしてアタック!
見事な連係プレーです。
もちろんランドルさんは反応できず受け取り損ねました。
地面に落とされ、無残に散った百合の花をノベックさんが拾い上げます。

「受け取ったから早く帰ってくれ」

ノベックさんはそういうと、傷んだ花を撫でました。

「お前に罪は無いのにな・・・でもこうしてしまう俺たちの気持ちをわかってくれな」

ランドル様は居た堪れないとばかりに、小走りで去って行かれました。

「姉さん・・・もう別れて帰ってきなよ」

「・・・ダメよ・・・父さんが悲しむわ」

「父さんは・・・死んだよ」

ジュリアは目を真っ赤にして私に抱きついてきました。
大人になったとはいえ、まだまだ可愛いところのある弟です。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...