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9 柄にもなく悩んでいます
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父がこの世を去ってからというもの、私の心のどこかが壊れてしまったようです。
エルランドご当主である義両親には、父の逝去は手紙で知らせましたが、参列できなかったことや、見舞いに行かなかったことを心から詫びてくださいました。
お知らせしていなかったのですから、お詫びをいただくなどとんでもないことです。
それでも私の心に刺さっていた棘が、少し抜けたような気がします。
もちろん旦那様にもお知らせしました。
秘書の方を寄こしてくださったことや、花束を贈ってくださったことにお礼の言葉も書きました。
『ルイス様
ご心配をおかけいたしましたが、父の葬儀を無事に終わらせることができました。
エルランド家の皆様には何から何までお手伝いいただき、感謝しております。
また、お花や代理の方の参列など、お心遣いを賜りありがとうございました。
国外に出張中だったとのこと、ご無事でお帰りになったのでしょうか?
どちらに行かれたのでしょうか?
どんなお仕事だったのでしょうか?
私は自分の夫のことを何も知りません。
どんなご本をお読みになるのかしら。
お料理は何がお好みなのかしら。
普段お使いになる香水はどんな香りなのかしら。
普段着は何をお召しなのかしら。
好きな宝石は?
お部屋のお花は?
あなたの瞳の色は?
あなたの髪の色は?
もうお手紙を書くのも止めますね。
きっととてもご迷惑だったことでしょう。
いたらない妻で申し訳ございません。
どうかお元気でお仕事頑張ってくださいませね。
ルシア』
これを最後の手紙にすると決めました。
だって本当にもう書くことが無いし、便箋もインクも封筒も勿体ないですから。
その手紙を出してからというもの、作業のように毎日のお仕事はこなしますが、なんというか・・・空しいのです。
生活を楽にするために私はこの婚姻を了承したのです。
父の入院費用に困ることもなく、弟の学費も心配なくなった今、心にぽっかり穴が空いてしまったのでしょうか。
生きる意味を失った?そんな感じです。
猫はまだ一匹残っていますので、エルランド伯爵家の妻として体裁は整えています。
でも全てが悲しいのです。
私はなぜここに居るのでしょうか。
誰のために頑張れば良いのでしょうか。
そもそも妻の役割とは何でしょうか。
義両親に可愛がられ、穏やかな老後を過ごしていただくためでしょうか。
もちろんそれも大切でしょう。
でも一番大切なのは子孫を残すことです。
今の状態では絶対に無理です。
リモートで子作りなど不可能です。
そうなると私の存在意義って・・・
そのループの繰り返しです。
溜息が出ます。
むしろ溜息しか出ません。
そんな日々を送る私を皆さんは心配して下さいます。
義両親も領地の特産品を送ってくださったり、お手紙で励ましたりしてくださいます。
弟も以前にも増して顔を見せてくれます。
職場での出来事や、彼女ができたことなど、なんとか私を笑わせようとしてくれるのです。
そして彼は、必ず花束を持ってきてくれます。
「そういえば・・・私に花束をくれるのってジュリアだけね」
「え?そうなの?学生時代にも?」
「無いわよ。あの頃はとにかく早く帰って、伯爵家の仕事をしなくちゃって思ってたから。友達は数人いたけど、全部女性だったし」
「そうかぁ・・・姉さんだけに負担をかけていたもんな」
「仕方ないわよ。私が学生の頃ってジュリアはまだ10歳にもなっていなかったでしょ?お父様はもう寝込んでおられたし」
「姉さんばかりが苦労してるね」
「そうでもないけど・・・そういえば思い出って・・・無いわね。学年旅行もお金が無かったから行けなかったし。社交も全然だし、お茶会?何それ、おいしいの?って感じ」
「今からだよ。今から楽しめばいいんじゃない?姉さんが何をしたって文句を言われることもないでしょ?姉さんは何をしているときが楽しいの?」
「楽しい・・・何かしら。窓ガラスを磨き上げてピカピカになったら楽しいけれど・・・あと上手に刺繡ができたとき?廊下にチリひとつ落ちてないとき?」
「そんなんじゃなくてさあ、観劇とか演奏会とかショッピングとか」
「ああ、オペラは一度見て観てみたいとは思うわね。友人のアンジュが素晴らしかったって言ってたから」
「行ったことないんだ・・・」
「うん。一度もない」
「行ってみなよ。俺がチケットを用意するからさ」
「一人で行くのは・・・」
「今なら面白いのをやってるよ?恋愛ものなんだけどすごい人気なんだ。モテる男が二人の女性の間で翻弄されるんだけど、結局は素朴な村娘と恋に落ちるって話」
「ふーん・・・面白そうね」
「俺が一緒に行ければいいんだけど、実はもう観ちゃってるから。でもチケットは任せておいて」
そう言って弟は帰っていきました。
あのジュリアが恋愛もののオペラに行くなんて・・・
姉としてはいろいろ突っ込みたいところですが、今のポンコツな立場では何も言えません。
それから数日して、弟からチケットが送られてきました。
奮発してくれたのでしょう、ボックス席です。
千秋楽の最終公演という超がつくほどのプラチナチケットだそうです。
舞台が終わった後、俳優さんたちが揃って挨拶するんですって。
リリさんもマリーさんも詳しいですね。
「ねえ、誰か一緒に行きませんか?」
誘う友人もいないので、使用人の皆さんに声を掛けました。
とても嬉しそうにしてくださったので、私も少し嬉しくなりました。
ケンカにならない様に公平にくじで決めることになりました。
結果、同伴者はアレンさんになりました。
イケオジとオペラ・・・最高です。
その日はいつものワンピースではなく、ちょっと大人びたドレスにしました。
リリさんとマリーさんが張り切って私を飾り立ててくれます。
たぶん面白がっていますよね。
アレンさんもいつもの執事服ではなく、バチっとドレスアップしてくださいました。
まるでデートです!
気分アゲアゲです!
ノベックさんが操る馬車に乗り、私たちは劇場に向かいました。
エルランドご当主である義両親には、父の逝去は手紙で知らせましたが、参列できなかったことや、見舞いに行かなかったことを心から詫びてくださいました。
お知らせしていなかったのですから、お詫びをいただくなどとんでもないことです。
それでも私の心に刺さっていた棘が、少し抜けたような気がします。
もちろん旦那様にもお知らせしました。
秘書の方を寄こしてくださったことや、花束を贈ってくださったことにお礼の言葉も書きました。
『ルイス様
ご心配をおかけいたしましたが、父の葬儀を無事に終わらせることができました。
エルランド家の皆様には何から何までお手伝いいただき、感謝しております。
また、お花や代理の方の参列など、お心遣いを賜りありがとうございました。
国外に出張中だったとのこと、ご無事でお帰りになったのでしょうか?
どちらに行かれたのでしょうか?
どんなお仕事だったのでしょうか?
私は自分の夫のことを何も知りません。
どんなご本をお読みになるのかしら。
お料理は何がお好みなのかしら。
普段お使いになる香水はどんな香りなのかしら。
普段着は何をお召しなのかしら。
好きな宝石は?
お部屋のお花は?
あなたの瞳の色は?
あなたの髪の色は?
もうお手紙を書くのも止めますね。
きっととてもご迷惑だったことでしょう。
いたらない妻で申し訳ございません。
どうかお元気でお仕事頑張ってくださいませね。
ルシア』
これを最後の手紙にすると決めました。
だって本当にもう書くことが無いし、便箋もインクも封筒も勿体ないですから。
その手紙を出してからというもの、作業のように毎日のお仕事はこなしますが、なんというか・・・空しいのです。
生活を楽にするために私はこの婚姻を了承したのです。
父の入院費用に困ることもなく、弟の学費も心配なくなった今、心にぽっかり穴が空いてしまったのでしょうか。
生きる意味を失った?そんな感じです。
猫はまだ一匹残っていますので、エルランド伯爵家の妻として体裁は整えています。
でも全てが悲しいのです。
私はなぜここに居るのでしょうか。
誰のために頑張れば良いのでしょうか。
そもそも妻の役割とは何でしょうか。
義両親に可愛がられ、穏やかな老後を過ごしていただくためでしょうか。
もちろんそれも大切でしょう。
でも一番大切なのは子孫を残すことです。
今の状態では絶対に無理です。
リモートで子作りなど不可能です。
そうなると私の存在意義って・・・
そのループの繰り返しです。
溜息が出ます。
むしろ溜息しか出ません。
そんな日々を送る私を皆さんは心配して下さいます。
義両親も領地の特産品を送ってくださったり、お手紙で励ましたりしてくださいます。
弟も以前にも増して顔を見せてくれます。
職場での出来事や、彼女ができたことなど、なんとか私を笑わせようとしてくれるのです。
そして彼は、必ず花束を持ってきてくれます。
「そういえば・・・私に花束をくれるのってジュリアだけね」
「え?そうなの?学生時代にも?」
「無いわよ。あの頃はとにかく早く帰って、伯爵家の仕事をしなくちゃって思ってたから。友達は数人いたけど、全部女性だったし」
「そうかぁ・・・姉さんだけに負担をかけていたもんな」
「仕方ないわよ。私が学生の頃ってジュリアはまだ10歳にもなっていなかったでしょ?お父様はもう寝込んでおられたし」
「姉さんばかりが苦労してるね」
「そうでもないけど・・・そういえば思い出って・・・無いわね。学年旅行もお金が無かったから行けなかったし。社交も全然だし、お茶会?何それ、おいしいの?って感じ」
「今からだよ。今から楽しめばいいんじゃない?姉さんが何をしたって文句を言われることもないでしょ?姉さんは何をしているときが楽しいの?」
「楽しい・・・何かしら。窓ガラスを磨き上げてピカピカになったら楽しいけれど・・・あと上手に刺繡ができたとき?廊下にチリひとつ落ちてないとき?」
「そんなんじゃなくてさあ、観劇とか演奏会とかショッピングとか」
「ああ、オペラは一度見て観てみたいとは思うわね。友人のアンジュが素晴らしかったって言ってたから」
「行ったことないんだ・・・」
「うん。一度もない」
「行ってみなよ。俺がチケットを用意するからさ」
「一人で行くのは・・・」
「今なら面白いのをやってるよ?恋愛ものなんだけどすごい人気なんだ。モテる男が二人の女性の間で翻弄されるんだけど、結局は素朴な村娘と恋に落ちるって話」
「ふーん・・・面白そうね」
「俺が一緒に行ければいいんだけど、実はもう観ちゃってるから。でもチケットは任せておいて」
そう言って弟は帰っていきました。
あのジュリアが恋愛もののオペラに行くなんて・・・
姉としてはいろいろ突っ込みたいところですが、今のポンコツな立場では何も言えません。
それから数日して、弟からチケットが送られてきました。
奮発してくれたのでしょう、ボックス席です。
千秋楽の最終公演という超がつくほどのプラチナチケットだそうです。
舞台が終わった後、俳優さんたちが揃って挨拶するんですって。
リリさんもマリーさんも詳しいですね。
「ねえ、誰か一緒に行きませんか?」
誘う友人もいないので、使用人の皆さんに声を掛けました。
とても嬉しそうにしてくださったので、私も少し嬉しくなりました。
ケンカにならない様に公平にくじで決めることになりました。
結果、同伴者はアレンさんになりました。
イケオジとオペラ・・・最高です。
その日はいつものワンピースではなく、ちょっと大人びたドレスにしました。
リリさんとマリーさんが張り切って私を飾り立ててくれます。
たぶん面白がっていますよね。
アレンさんもいつもの執事服ではなく、バチっとドレスアップしてくださいました。
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