せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連

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16 庭師ノベックの証言

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入室したノベックさんは、トレードマークのハンチング帽を握りしめています。
緊張しますよね・・・わかりますとも。
旦那様はリリさんの時と同じように、丁寧なお詫びとお礼から始められました。
さすが筆頭伯爵家嫡男!主席卒業!王宮官吏トップ合格!
礼儀正しいです。好感度爆上がりです。

「ノベックさん。申し訳ないがあなたの知っている・・・ルシア嬢のことを私に教えてもらえませんか」

「はい、奥様はとてもお優しい方ですよ。庭にも良く来てくださって褒めてくださるんです。そしていつもありがとうって言って・・・掃除も手伝ってくださいました」

「そうですか・・・素敵な女性ですね」

「ええ、本当に・・・旦那様、私は知っているのでございますよ。奥様が会ったこともない旦那様に心を添わせようと努力なさっていたことを」

「それは?」

「婚約式に来なかった旦那様のことを、ご当主様はそれはもうお怒りで・・・まあ当然ですがね。それを奥様が一生懸命宥めておられて・・・あの頃の奥様の口癖は『私は大丈夫ですから』でしたね。あれは自分に言い聞かせておられたのです。お辛かったでしょうに」

「そうですね・・・知らなかったとはいえ、本当に酷いことをしました」

「結婚式のドレスもブーケも何も贈られず、一人で泣いておられましたよ。ほら、北側の庭に大きな楡の木があるでしょう?あの木の下で声を上げて泣いていましたよ。誰もいないと思っておられたのでしょうね。楡の幹に縋って・・・見ていられなかった」

「そうですか・・・」

「結局奥様はウェディングドレスを仕立てなかった・・・その代わりにって夜会用のドレスを作られましたよ。一回しか着ないドレスより、こちらの方が旦那様のお役に立つかもしれないからってね・・・あの時にはもう諦めておられたのでしょう。結婚式は女性にとって一生に一度の晴れ舞台だ。それなのに・・・伯爵様からドレスを作るお金も送られていたんだよ?作ろうと思えば立派なウェディングドレスを作れたんだよ?なのに・・・なのに・・・なんでだ!なぜあんな仕打ちができるんだ!俺は・・・坊ちゃん・・・あんたに怒っているんだ!殴ってやりたいほどにね!」

あらあら、あの温和なノベックさんが激高されてます。

「・・・殴ってください」

「その権利は奥様にしかないでしょうよ」

「・・・」

「豪華っていっても夜会用ドレスとウェディングドレスじゃ価値が違います。奥様はね、余ったお金を使用人全員に均等に分けてくださったのですよ。自分の裁量で動かせる金が無いから、お礼もできていないお詫びだってね・・・奥様のお気持ちだから、ありがたくいただいたけど、誰一人使っちゃいない。お屋敷の金庫に戻していますよ。あのお金は奥様のために使うべきだって、私たちは全員そう思ってる」

「あ・・・ありがとう・・・彼女の人徳ですね」

「その通りですよ。そんな奥様がご自分で準備なさった結婚式のブーケ・・・どの花を選ばれたと思います?・・・私はそのブーケを見たとき涙が出ましたよ。ここまで一途に坊ちゃんのことを考えて下さって・・・私は嬉しかった・・・その花はね、セントレアです。坊ちゃんの瞳の色をした素朴な花だ」

ドンという音がしてランドルさんがソファーから落ちて床に這いつくばりました。
額を絨毯に擦り付けて泣いています。
そこまで後悔するなら、なぜ裏切り続けた?ランドルよ・・・

二人は黙ったまま泣き崩れるランドルさんを見ていました。
ふっと小さく息を吐いてノベックさんが静かな声で言いました。

「何があってこんなことになっちまってるのか、私にはわかりません。わかりたくもありません。でもね、坊ちゃん。奥様は弟さんにプレゼントされて、生まれて初めて行った劇場に、ものすごく喜んでおられましたよ。凄い凄いって大はしゃぎだった。見ている私やアレンまで嬉しくなるほどにね。それがどうだ、入る時はあれほど明るかった顔が、出てきたときには真っ青だ。私は掛ける言葉も無かったですよ」

「うん・・・酷いですよね・・・酷すぎますよね・・・」

「奥様を探し出したら、坊ちゃん。悪いことは言わない、誠心誠意、心を込めて謝りなさい。許して貰えるかどうかは分からないけれど、坊ちゃんは命がけで謝るべきだ。それをしないなら・・・あなたは人ではなくなるよ?」

「仰る通りです。ありがとう・・・必ずそうします」

「もう良いでしょう?次の者を呼んできます」

そういうとノベックさんは静かにドアを開けました。
ありがとうノベックさん・・・
見ていたのですね、私が楡の木の下で恋愛小説を読んで泣いていたのを・・・恥ずかしい。

旦那様は大きなため息を吐いて、両手で顔を覆ってしまいました。
ランドルさんは絨毯と一体化したまま動きません。

「おいランドル・・・彼女の手紙・・・通し番号順に読めば時系列なのか?」

ランドルさんは床に顔を埋めたまま頷きました。
器用な人です。

旦那様は次の方が来られるまで、私が出した手紙を届いた順に並べ替え、古いものから読み始めました。
無表情のまま読み進んでいきますが、時折ふっと悲しそうな笑顔を浮かべます。
もしかしてスペルが間違っているのでしょうか・・・アレンさんに添削してもらっているので大丈夫だと思うのですが・・・不安です。
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