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「概ねの方針は決まったな。では役割分担と行くか。アラバスはどのように考えている?」
侍女長が配り終えたお茶を一口含んでから、アラバスが声を出す。
「私はバッディとシラーズ両国の譲位を担当致します。カーチスの手を借りられればと思うのですが、お許しいただけますでしょうか」
兄の言葉に、カーチスが感動したような顔をした。
それをチラッと見た国王が鷹揚に頷く。
「ああ、勉強させてやってくれ」
「ありがたき幸せに存じます。国内の掃除に関しては父上にお願いできないでしょうか」
「ああ、構わんぞ。後はラングレー宰相と進めよう」
「よろしくお願い申し上げます」
礼を言ったアラバスがコホンと咳ばらいをした。
「そしてマリアの事ですが、これは母上にお任せしたいと存じます」
「ええ、もちろんよ。ラングレー夫人もよろしくね」
「ありがたき幸せにございます」
「そして侍従長と侍女長、お前たちはこれまで以上に使用人たちの管理を徹底し、マリアが無事にその日を迎えられるように心を尽くしてもらいたい」
「「命に代えましても」」
国王が立ち上がった。
「時間がない。おのおの最善を尽くすように。情報共有は重要だ。連絡は密にとるようにしてほしい」
颯爽と部屋を出る国王を見送ると、アラバスがアレンとカーチスに声をかけた。
「よろしく頼む」
出ていく三人を王妃と公爵夫人が感慨深げな目で見ている。
「いつの間にあんなに大きくなったのかしらね」
「本当に。アレンは兄二人にヤモリとトカゲとイモリの飼育をやらされて、餌の虫を探して庭中を泣きながら駆け回っていたわ」
「ははは! うちもよ。カーチスは本当によく泣く子だったもの。アラバス達があの子の机の引き出しにコオロギをたくさん入れてね、うるさくて勉強できないって泣いたりね」
「どこの子も同じようなことをするのねぇ」
侍女長も一緒になって笑っている。
「ねえ、マリアちゃんは何かやらかさなかった? やはり女の子は違うのかしら」
侍女長が答える。
「さほどのことはございませんでしたわ。しいて言えばポケット一杯にダンゴムシを詰め込んで帰られたことくらいでしょうか。ああ、カエルをお風呂場で飼おうとなさったこともありましたわ。メイド達が泣き叫んで逃げ回っておりました」
「ダンゴムシ?」
「カエルを飼う?」
王妃が朝食を取り損ねていたため、軽食が運ばれてきた。
クロッシュを開けた王妃がげんなりした顔でラングレー夫人を見る。
「どうなさいました?」
「サラダのベビーリーフがカエルの色で、干しブドウがダンゴムシに見えただけ」
「……」
一方、カーチスとアレンを先に執務室に向かわせたアラバスは、マリアの部屋へと入った。
今日は授業が休みとあって、マリアは床に寝転がって熱心に本を読んでいる。
「何を読んでるんだ?」
「あっ! アシュ~ あのね、ワンダリア王国の歴史って本だよ」
「すごいな、それが読めるのか……内容はわかるのか?」
マリアが小首をかしげる。
「読めるけれど、意味が分からないところがあるの。あとで先生に聞いてみるね」
「聞かなくても自分で調べるという方法もあるぞ。辞書という便利な本があるんだ」
「辞書?」
「そうだ。後で届けるように言っておこう。使い方はその者に聞きなさい」
「うん、ねぇアシュ~ あ・そ・ぼ」
危うく頷きそうになるアラバスだったが、なんとか己を律した。
「今は仕事だ。夕食の後で遊んでやろう。だから今は我慢しなさい」
「はぁぁぁい。じゃあスミレの砂糖漬け食べてもいい?」
「ひとつなら良いぞ」
「わぁい! アシュ大好き~」
このかわいらしさに触れるのもあと三十四週であり、その間も多忙を極めるであろうことを思うと、少しだけ残念な気もするアラバスだった。
「じゃあねぇ~ アシュ、いってっしゃぁい」
寝転がったままのマリアに送られて、執務室に戻ったアラバスは、さっそくアレンとカーチスを呼んだ。
「時間がない。効率的に動くぞ。まずはカーチス、お前のミッションだ」
アラバスの説明を聞いていたカーチスの顔色が徐々に悪くなっていく。
「僕……帰ってこられる?」
「絶対に連れて帰ってやるから安心しろ」
アレンがパシンとカーチスの背中を打った。
「不安しかない……」
アレンがさも簡単そうに言う。
「いつから行く? 下準備が必要だろうから、一週間後でどうだ?」
「問題ないだろう。移動で四日、滞在で七日、帰るのに三日で約二週間だな。準備の一週間を入れると、すでに三週間だ。少し余裕を見たとしても、全日程の一割を割くことになるがこれで最短だろう」
アラバスの言葉に、カーチスは身の引き締まる思いがした。
「そうか……全体の一割か……それ以上延ばせないな。うん、僕も頑張るよ」
いつになくやる気を見せる弟を微笑ましく見たアラバスが、文官を呼んでシラーズ王国に関する最新情報を纏めるよう命じた。
「トーマスはいつ頃になるか聞いているか?」
アラバスがアレンに聞いた。
「予定より少し遅れているな。当初の計画ではすでに戻っていてもおかしくない、何かアクシデントだろうか」
「まあ、あいつのことだ。多少のアクシデントはチャンスに変えるくらいの力はあるさ。お前たちが準備を進める間に、俺は三国同盟のたたき台を作る。シラーズ第一王女への密書はアレンが手渡してくれ」
「任せてくれ。カーチスと同行することで接触しやすいだろうからね」
その内容の過酷さなど微塵も感じさせない笑顔で、アレンがウィンクをしてみせた。
侍女長が配り終えたお茶を一口含んでから、アラバスが声を出す。
「私はバッディとシラーズ両国の譲位を担当致します。カーチスの手を借りられればと思うのですが、お許しいただけますでしょうか」
兄の言葉に、カーチスが感動したような顔をした。
それをチラッと見た国王が鷹揚に頷く。
「ああ、勉強させてやってくれ」
「ありがたき幸せに存じます。国内の掃除に関しては父上にお願いできないでしょうか」
「ああ、構わんぞ。後はラングレー宰相と進めよう」
「よろしくお願い申し上げます」
礼を言ったアラバスがコホンと咳ばらいをした。
「そしてマリアの事ですが、これは母上にお任せしたいと存じます」
「ええ、もちろんよ。ラングレー夫人もよろしくね」
「ありがたき幸せにございます」
「そして侍従長と侍女長、お前たちはこれまで以上に使用人たちの管理を徹底し、マリアが無事にその日を迎えられるように心を尽くしてもらいたい」
「「命に代えましても」」
国王が立ち上がった。
「時間がない。おのおの最善を尽くすように。情報共有は重要だ。連絡は密にとるようにしてほしい」
颯爽と部屋を出る国王を見送ると、アラバスがアレンとカーチスに声をかけた。
「よろしく頼む」
出ていく三人を王妃と公爵夫人が感慨深げな目で見ている。
「いつの間にあんなに大きくなったのかしらね」
「本当に。アレンは兄二人にヤモリとトカゲとイモリの飼育をやらされて、餌の虫を探して庭中を泣きながら駆け回っていたわ」
「ははは! うちもよ。カーチスは本当によく泣く子だったもの。アラバス達があの子の机の引き出しにコオロギをたくさん入れてね、うるさくて勉強できないって泣いたりね」
「どこの子も同じようなことをするのねぇ」
侍女長も一緒になって笑っている。
「ねえ、マリアちゃんは何かやらかさなかった? やはり女の子は違うのかしら」
侍女長が答える。
「さほどのことはございませんでしたわ。しいて言えばポケット一杯にダンゴムシを詰め込んで帰られたことくらいでしょうか。ああ、カエルをお風呂場で飼おうとなさったこともありましたわ。メイド達が泣き叫んで逃げ回っておりました」
「ダンゴムシ?」
「カエルを飼う?」
王妃が朝食を取り損ねていたため、軽食が運ばれてきた。
クロッシュを開けた王妃がげんなりした顔でラングレー夫人を見る。
「どうなさいました?」
「サラダのベビーリーフがカエルの色で、干しブドウがダンゴムシに見えただけ」
「……」
一方、カーチスとアレンを先に執務室に向かわせたアラバスは、マリアの部屋へと入った。
今日は授業が休みとあって、マリアは床に寝転がって熱心に本を読んでいる。
「何を読んでるんだ?」
「あっ! アシュ~ あのね、ワンダリア王国の歴史って本だよ」
「すごいな、それが読めるのか……内容はわかるのか?」
マリアが小首をかしげる。
「読めるけれど、意味が分からないところがあるの。あとで先生に聞いてみるね」
「聞かなくても自分で調べるという方法もあるぞ。辞書という便利な本があるんだ」
「辞書?」
「そうだ。後で届けるように言っておこう。使い方はその者に聞きなさい」
「うん、ねぇアシュ~ あ・そ・ぼ」
危うく頷きそうになるアラバスだったが、なんとか己を律した。
「今は仕事だ。夕食の後で遊んでやろう。だから今は我慢しなさい」
「はぁぁぁい。じゃあスミレの砂糖漬け食べてもいい?」
「ひとつなら良いぞ」
「わぁい! アシュ大好き~」
このかわいらしさに触れるのもあと三十四週であり、その間も多忙を極めるであろうことを思うと、少しだけ残念な気もするアラバスだった。
「じゃあねぇ~ アシュ、いってっしゃぁい」
寝転がったままのマリアに送られて、執務室に戻ったアラバスは、さっそくアレンとカーチスを呼んだ。
「時間がない。効率的に動くぞ。まずはカーチス、お前のミッションだ」
アラバスの説明を聞いていたカーチスの顔色が徐々に悪くなっていく。
「僕……帰ってこられる?」
「絶対に連れて帰ってやるから安心しろ」
アレンがパシンとカーチスの背中を打った。
「不安しかない……」
アレンがさも簡単そうに言う。
「いつから行く? 下準備が必要だろうから、一週間後でどうだ?」
「問題ないだろう。移動で四日、滞在で七日、帰るのに三日で約二週間だな。準備の一週間を入れると、すでに三週間だ。少し余裕を見たとしても、全日程の一割を割くことになるがこれで最短だろう」
アラバスの言葉に、カーチスは身の引き締まる思いがした。
「そうか……全体の一割か……それ以上延ばせないな。うん、僕も頑張るよ」
いつになくやる気を見せる弟を微笑ましく見たアラバスが、文官を呼んでシラーズ王国に関する最新情報を纏めるよう命じた。
「トーマスはいつ頃になるか聞いているか?」
アラバスがアレンに聞いた。
「予定より少し遅れているな。当初の計画ではすでに戻っていてもおかしくない、何かアクシデントだろうか」
「まあ、あいつのことだ。多少のアクシデントはチャンスに変えるくらいの力はあるさ。お前たちが準備を進める間に、俺は三国同盟のたたき台を作る。シラーズ第一王女への密書はアレンが手渡してくれ」
「任せてくれ。カーチスと同行することで接触しやすいだろうからね」
その内容の過酷さなど微塵も感じさせない笑顔で、アレンがウィンクをしてみせた。
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