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第19話:ノヴァルナ包囲網
#04
しおりを挟むフォクシア星人の母星フォクシスはおよそ五百年前、ヤヴァルト皇国が惑星キヨウの惑星国家から銀河皇国を名乗り、シグシーマ銀河系へ進出した初期に皇国に加入した、二つの植民星系を有する恒星間国家であり、いわば今ノア達が訪れている惑星ヒュドラムと、似た立場にあった。
当時公王制を敷いていたフォクシスは、初期加入の惑星国家だった事もあって、公王は皇国貴族に列される優遇を受ける。この頃はまだ、“上級貴族”という存在が確立されていなかったが、フォクシス公王の扱いは、これと遜色ないものであったという。
ただ惑星フォクシスの公王は、皇国加入直後から貴族間の政治的取引において、日和見的立場に立って行動する事が多く、これがフォクシア星人の印象を“日和見主義者”として、他の銀河皇国民に強める事になった。
そして今から約三百年前の皇国暦1234年。シグシーマ銀河系で版図拡張を続けていたヤヴァルト銀河皇国は、モルンゴール恒星間帝国と接触。戦闘民族モルンゴール帝国は彼等の思想方針で、まず銀河皇国へ戦闘を仕掛ける。
この最初の戦いはモルンゴール帝国の領域警備艦隊と、銀河皇国の外周調査船団護衛艦隊の間で発生。戦いは銀河皇国側の判定負け的な結果で終了。帝国は慣例に従って銀河皇国に従属を要求するが、星帥皇室はこれを拒絶。両者は全面戦争に発展する。
開戦劈頭、モルンゴール帝国は皇国侵攻の大規模軍団を編制し、皇国領域に雪崩れ込んだ。その進路上にあったのが惑星フォクシスである。
銀河皇国は、対モルンゴール帝国迎撃軍団を編成完了するまで、支配者たる公王が皇国の有力貴族のフォクシスが、敵の侵攻を食い止めるものと期待していた。ところがフォクシスは、迫るモルンゴール帝国の大侵攻部隊に対し、味方に付く事を宣言。一戦交えて降伏するどころか、敵の侵攻の手引きをし始める。
無論これには、自国の民衆の生命財産を保護したいという、フォクシス公王の思惑もあったのであろうが、このフォクシア星人の帝国への寝返りによって、迎撃軍の編制が間に合わず、他の皇国植民星系は次々と攻略される結果を招いた。
このモルンゴール帝国の大規模侵攻は、セッツー宙域の“マハン・センガー星雲の戦い”でようやく食い止められたものの、多くの植民星系が占領されるに至る。
これはフォクシスの寝返りによって、想定以上の侵攻速度を帝国が得た結果、逆にその速さが災いして、補給路の伸長が限界を超えたためだとも言われている。
この“マハン・センガー星雲の戦い”を契機に、一年の膠着期間を経て反転攻勢に出た銀河皇国軍は、二年をかけて帝国領に逆進攻を行う。ちなみにこの一年の膠着期間に開発が進み、さらに一年後に実戦投入されたのが、モルンゴール帝国のものを模した、銀河皇国製の人型機動兵器のBSIユニットである。
銀河皇国の逆進攻を受けたモルンゴール帝国は皇国暦1236年、“ラスエクス星系の戦い”で戦況の挽回を図る。だがこの戦いが始まった直後、それまで帝国に寝返っていたフォクシス艦隊が突如、銀河皇国側への寝返りを宣言。陣形前衛に配置されていたフォクシス艦隊は反転し、一気にモルンゴール帝国本陣を襲撃する。
これによってモルンゴール帝国総旗艦艦隊は壊滅的打撃を受け、最高指導者たる帝国議会議長も戦死。中央恒星群にまで皇国軍の進攻を許した帝国は、銀河皇国に対して降伏し、従属を申し出た。
その結果、銀河皇国はモルンゴール帝国を併呑し、その外周領域を分割。中枢部分のみ皇国直轄領という名目で自治を許すと、現在のリキュラスからアーワーガ、さらにキン・イー宙域までを、皇国貴族に分け与える事となった。
客観的に見ればフォクシスは、一時的にモルンゴール帝国に寝返って、皇国反撃の決定的な機会を待っていたともとれる。だが当然ながら人命や財産に多くの被害を出した銀河皇国の民は、フォクシスのこのような行動を許せるはずは無かった。NNLでは、フォクシア星人イコール日和見主義者のレッテルが張られ、罵倒誹謗の嵐が巻き起こる。この声は収まるところを知らず、フォクシス公王は退位させられて皇国貴族の地位を剝奪。皇国からの執政官を受け入れさるを得なくなった。
また当然ながら帝国の民衆からも、フォクシア星人は一度自分達に寝返ったものの、帝国の運命が掛かった最大の戦いで、銀河皇国へ寝返った二重の裏切り者として、激しく糾弾される事となる。
そういった経緯であるからフォクシア星人のランが、銀河皇国の星大名同士の戦いで、皇国の人間から“宇宙ギツネ”と罵られたり、この旧モルンゴール帝国領であるヒュドラムで差別的な眼を向けられるのは、あってはならない事案であっても、起こりうる…という事であろうか。
そしてこれはランやサンザーのフォレスタ家が、主君たるノヴァルナとウォーダ家に対して、絶対的な忠誠を誓っている原動力となっているのも、事実であった。
このフォレスタ家にも実は、正確には寝返りとは言えないが、それと似たような過去がある。フォレスタ家は皇国暦1520年代の終盤、サンザーの父カークス・コルタロス=フォレスタの代までは、当時のミノネリラ宙域の星大名家であった、トキ家に仕えていたのだ。
その頃のトキ家は、家督継承権争いで内訌の只中であり、またこの混乱に乗じた家老の、ドゥ・ザン=サイドゥがトキ家そのものを蚕食しようと、暗躍している最中であった。
泥沼のような家督争いの中、フォレスタ家の行く末を案じたカークスは、隣国のオ・ワーリ宙域星大名ウォーダ一族の中で、当時勢力を伸ばし始めていたナグヤ家の、ヒディラス・ダン=ウォーダと誼を通じるようになった。ヒディラスは今のノヴァルナの実父である。
そして皇国暦1536年、トキ家の当主リノリラスの国外追放に成功したドゥ・ザン=サイドゥが、ミノネリラ宙域星大名の座に就くと、これに反発したカークスは、妻子を連れてウォーダ家へ亡命。ナグヤ=ウォーダ家の、重臣の一人として迎えられた。
この時すでにカークスは高齢であったため、亡命後すぐにサンザーが家督を継ぐことになる。するとここでもフォクシア星人のフォレスタ家の行動に、批判の眼を向ける者がウォーダ家内に現れ始めたのだ。
星大名やその家臣達の寝返りや日和見は、ヒト種をはじめとして、自分の一族を守るために誰でも行う事なのだが、フォクシア星人という印象だけで、殊更白い眼で見られる事となったのである。
だがサンザーは挫ける事無く、これらの批判、誹謗中傷に対し、自らの実力を示し続けて封じる事に成功。遂にはナグヤ=ウォーダ家、そして現在ではウォーダ家全てのBSI部隊総監の地位を掴んだ。
そんなサンザーが長女のランや、その弟カリュス達に強く申し付けているのが、ノヴァルナへの命を賭した絶対の忠誠である。自分達フォレスタ家の者が、ノヴァルナのために死して名を遺す事で、フォクシア星人に貼られた不名誉な印象を、拭おうというのだ。
そのようなフォレスタ家であるからノヴァルナも重用し、不当な誹謗中傷を行う相手には、激しい怒りを示して来た。
常に強い気持ちを持っているランであるからこそ、この惑星ヒュドラムでのモルンゴール星人からの視線にも、動じる事はない。揺れる“路面電車”の上、見上げるランの瞳の先には次第に大きくなる、宇宙物理学の浮遊書庫の姿があった………
▶#05につづく
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