505 / 526
第19話:ノヴァルナ包囲網
#13
しおりを挟む「ん? ウォーダ…どっかで聞いた名前だね」
老女ベファルはノアのフルネームを聞いて、小首を傾げた。対照的にカートライトら『ジュエルダガー』号の乗組員は、驚きを隠さない。イーマイア造船の代表であるソークンから、次元物理学研究に没頭している、取引先のお嬢さんと知らされた事は、ここまでの道中での立ち居振る舞いから、偽りだろうとは思っていたが、今や銀河皇国に名を轟かせる星大名、ウォーダ家当主の妻は想像すら出来なかったからだ。
「私達の国では、よくある苗字ですから」
微笑みながら適当に返事するノア。皇都キヨウを離れること約三万光年、旧モルンゴール帝国領のこの辺りまで来ると、戦国時代にある銀河皇国の内情も、大して届いていないらしい。そしてこれはむしろ、ノア達にとって好都合であった。自分の素性を知られると、要らぬ面倒事が増える可能性が高いためだ。
「そうかい…まぁいい。本当にいいんだね?」
念を押して来るベファル。「はい」と頷くノア。
「こっちはBSHO、そっちは皇国のBSI。ハンデ戦になるよ」
「承知しています」
モルンゴールの人型機動兵器はすべてBSHOであり、しかも皇国のBSHOより強力である事は、ノアもよく理解している。ただノアは、この基地にあったモルンゴールの『マガツ』の性能を知っていた。それは今から十年ほども前の事だが、ノアを拉致しようとした『アクレイド傭兵団』の隊長、ハドル=ガランジェットが搭乗していたこの機体と、一騎打ちを演じていたからだ。
するとベファルは、一つの案を提示した。
「ノアさんだったかな?…じゃあ、もしあんたらに、他に乗れるモンがいるなら、ウチのザリュードと二対一で戦おうじゃないか」
完全にこの場の仕切り屋と化したベファルの言葉に、一同は困惑の表情となる。そんな状況にもお構いなしに、ベファルはザリュードに向き直って問い質した。
「ザリュード。おまえ、出来るよねぇ!?」
「えっ!?…そりゃまぁ、親衛隊仕様機相手でも、二機程度じゃあ」
「なんだい? もっとシャキッと、おし!」
パワフルなベファルの平手打ちに背中を強打され、ザリュードの威勢の良さは、すっかり吞み込まれていた。ノアにとっては悪くない提案だ。こちらの機体は皇国の『ミツルギ』の親衛隊仕様、相手の機体の性能は把握できていても、自分専用のBSHO『サイウンCN』を、使えるわけではないからだ。
ただ、夫のノヴァルナ同様、ここぞという時に一筋縄ではいかないのが、ノアの持ち味である。ベファルの“二対一”の提案に対し、素早く頭を回転させ、これを機会に利用する。
「ではそちらも弟さんを出して下さい。二対二のチーム戦で戦いましょう。連携が対戦要素に加われば、機体の優劣の差も縮まりましょう」
ノアがそう言うと、ベファルは「ふむ…」と考える表情になり、しかる後に「面白いじゃないか」と言葉を返した。
「確かに二対二と一騎打ちとは、戦い方も変わって来るってもんだ。だけどあんたらが余計に、不利になるだけかも知れないよ。こっちは息の合った兄弟だからね」
ベファルの言葉に「大丈夫です」と応じるノア。この言葉を受けて、メイアとマイアのカレンガミノ双子姉妹が、僅かに進み出る。一卵性双生児の姉妹の連携は、BSHOに乗ったノヴァルナをも、脅威に感じさせる技量を持っていた。ところがノアは、思いも寄らない人間を指名する。
「『ミツルギ』に乗るのは、私と…こっちの、フォクシア人の彼女です」
ノアが指名したのは、ランであった。少し驚いた顔をノアに向ける。ノアはランに振り向いて、少し申し訳なさそうに告げた。
「貴女を休ませるために、この旅に連れて来たのだけれども、ごめんなさい」
ノアの意図するところは、キスティス達女性『ホロウシュ』も理解している。ランをフォクシア星人だというだけで侮辱した兄弟を、ラン自身の手で成敗させようというのだろう。
しかしキスティス達は同時に懸念も抱いた。ノアは常にカレンガミノ姉妹と共に戦場にあり、ランはノヴァルナの直掩として『ホロウシュ』を率いているため、この二人が組む事は、これまで一度も無かったからである。
そして指名を受けたランは、淡々とした口調で、「わかりました」と応じた。そこでノアは勝敗後の条件をベファルに提示する。
「勝敗は二機とも、行動不能か撃破と判定された時。私達が負けた場合は、相応の禁錮刑と旧モルンゴール帝国領への永久入国禁止。私達が勝利した場合は、貴女方の一等民権限で書庫への即時入場と、バルザックさんの“永久敗北者”の呼称の免除。さらにフォクシア人の彼女への侮辱に対する、兄弟の謝罪を求めます。これで如何でしょう?」
これを聞いたベファルは、「あんたらの方が少々贅沢な話だけど、よしとしようじゃないか」と承諾。格闘戦の判定役を務めていた、ヒュドラン星人警官の一人に尋ねる。
「そこのあんた。演習場の機体は、どれぐらいで動かせるんだい?」
ベファルの問いに警官は、「三十分もあれば」と返答する。
「分かった。すぐに取り掛かっておくれ」
そう応じたベファルはノアに向き直り、ニタリと笑顔を見せながら告げた。
「これでいいね? あんたの条件を呑んだんだから、恨みっこ無しだよ」
「はい。ありがとうございます」
ノアが頷くとベファルは、ザリュードとバジラードの背中を押して、強い口調で言い放つ。
「ほら。向こうでパイロットスーツの調整だよ。急ぎな!」
背中を押されたままの兄弟と、ベファルの会話が遠ざかって行く。
「婆ちゃん、病院に寄るんじゃないのかよ」
「そうだ。そのために迎えに来たんだぞ」
「何言ってんだい。モルンゴールの一等民にとっちゃ、戦いが第一! 戦いがあるなら、他は全部あと回しだろ!!」
やっぱりあの兄弟、本当は私達より年下なのでは…と思いながら、三人の後ろ姿を見送ったノアは、立ち合いの警官達が、急なBSI模擬戦の用意で右往左往し始める中、ランに声を掛けた。
「私達も、支度しましょう」
▶#14につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる