504 / 526
第19話:ノヴァルナ包囲網
#12
しおりを挟むノアの強い言い方に、ザリュードとバジラードは怪訝そうな眼を向ける。
「勝負はまだ、終わっていないだと?」とザリュード。
「他に誰かが、俺達と闘うとでも言うのか?」とバジラード。
「私が戦います」
ノアの言葉に、一瞬唖然としたモルンゴール星人の兄弟は、直後に大爆笑を始めた。対照的に言葉を失う『ジュエルダガー』号クルーの三名。女性『ホロウシュ』達は困惑顔になり、アンドロイドP1-0号は、解析不能のデータでも与えられたかのように、黄緑色のセンサーアイを激しく明滅。テン=カイは、顔が見えない黒いホログラムスクリーンごと、頭を左右に振る。
そして、ノアを一番よく知るカレンガミノ姉妹は、“あー、また始まったわ…”と言いたげな眼で、互いを見合った。
その間に爆笑を収めたバジラードとザリュードは、残る笑いを言葉に交え、ノアにずけずけと言う。
「ムハッハッハッ! あんたが戦うだって?」
「俺は気に入ったとは言ったが、モルンゴール人の真似をしろとは言ってないぞ」
兄弟はノアが格闘技で闘う、と言っていると思ったようである。身体能力的にヒト種がモルンゴール星人と闘って勝てるはずはなく、ただの戯言に聞こえても当然の話だ。そんな二人にノアは背筋を伸ばし、どこか挑戦的に告げる。
「何か勘違いをなさっているのではないですか? 私が所望しているのは、BSIユニットによる模擬戦です。外にあるアレは使えるのでしょう?」
ざわめきだすノアの仲間達。ザリュードは真顔に戻って問い質す。
「あんた乗れるのか? 本気で言ってるのか?」
「無論です」
即答するノア。しかしそこに、バジラードが口を挟んで来る。
「兄貴、もうそろそろ時間だぞ。駅に戻った方が…」
ザリュードは「む。そうか」と頷き、ノアに言い放つ。
「お遊びの時間は終わりだ。どうせ俺達には勝てんさ。おとなしくそこの警官に、逮捕されときな」
「逃げるのですか!?」
強い口調のノアの言葉に、不快そうな息を大きく吐いたザリュードは、大股で歩み寄ると、上から見下ろして恫喝した。
「なんだと?…デカい口を叩くのも、いい加減にしろ。女!」
だが夫のノヴァルナや、亡き父“マムシのドゥ・ザン”の手を焼かせるほどの、女丈夫のノアである。小形恐竜のようなモルンゴール星人に、頭上から睨みつけられても、真正面からそれを睨み返し、怯む事は無い。
キッ!…と、睨み合うノアとザリュード。するとその時、老いた女性の声のモルンゴール語が、呼び掛けて来る。
「その勝負、受けておやり!!」
突然聞こえて来た声に全員の耳目が集まる。振り向いた視線の先にいたのは、モルンゴール星人の老女であった。淡いオレンジの色の肌をし、ボディスーツ式の身体機能サポートスーツを、やや前屈みになった体に装着している。その姿を見て、ザリュードとバジラードは声を揃えて呼び掛けた。
「婆ちゃん!?」
少し驚いた様子の兄弟は、ザリュードの方がさらに問う。
「どうしてここへ? それにまだ書庫にいたんじゃないの?」
兄弟の老女に対する言葉遣いに、ノアは眉をひそめた。ヒト族の自分達の眼からは、モルンゴール星人の年齢は見た目からは分かりづらい。年老いて来てから、体色が茶色がオレンジ、さらに白へと変化していくぐらいであり、この兄弟は実は若いんじゃないだろうか、と思う。
モルンゴール星人の老女は、兄弟をジロリと見渡して言い放った。
「あんたらが早く着いたって連絡したから、切り上げて出て来たんじゃないか。だけど駅に降りても姿が見当たらないんで、駅員に訊いたのさ。そしたら皇国の連中を連れたモルンゴール人と、揉め事を起こして警察基地に行ったって言われて、追いかけて来たんだよ」
「お、俺達が揉め事を起こしたわけじゃないよ。あの“敗北者”の三等民が、駅員に絡んでたから―――」
バジラードがそう言いかけたのを、モルンゴールの老女は「だまらっしゃい!」と、大声でで叱りつける。思わず肩をすくめる兄弟。
「駅員から聞いた話じゃ、騒ぎを大きくしたのはあんたらの方だろ。三等民だかなんだか知らないが、民間人相手に戦って勝ったって、何の自慢にもならないよ!!」
「だ、だからって、このヒト族の女とBSHOで戦っても―――」
今度はザリュードが言い返そうとするが、老女はそれを遮ってノアに問い質す。
「あんた。BSIで勝負って事は、あたしらの世界で言うところの、戦士階級の女なのかい?」
「『ム・シャー』の事を仰っているのでしたら、その通りです」
頷きながら応じるノア。問いを重ねるモルンゴールの老女。
「パイロットとして、自信があるから、勝負を挑んだんだね?」
「はい」
きっぱりと返答するノアに、モルンゴールの老女は相好を崩し、「いいね。気に入ったよ、あんた!」と告げた。
「あたしゃ、ブランム・ハーナ=ベファル。この二人の祖母さね」
自己紹介をする老女に、ノアはどうするか一瞬迷ったが、ライザ・メージェル=ウィーヴァーの偽名ではなく、本名を名乗る。
「ノア・ケイティ=ウォーダと申します」
▶#13につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる