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第19話:ノヴァルナ包囲網
#14
しおりを挟むBSIユニットSH-565『ミツルギ』は、ヤヴァルト銀河皇国で最も製造数の多い機体であった。これは銀河皇国直轄軍だけでなく、オウ・ルミル宙域のロッガ家や、数年前までのミョルジ家、タンバール宙域の各星大名。さらに周辺の独立管領でも、運用しているからであった。
機体設計はシンプル。各部品や各装置は、ほぼ全てが標準規格品となっており、独自の機体を運用している、各宙域の星大名家パイロットからの評価では、良く言えば“扱い易い”、悪く言えば“平凡”な仕上がりの機体とされている。
ただ平凡な機体であるがゆえに、拡張性は高いと言える。特に親衛隊仕様機については、『ミツルギCC』の標準型の他にも、さらに対消滅反応炉出力を高めたタイプや、俊敏性を高めたタイプ。ステルス性に特化したタイプなどが、星大名家や独立管領といった恒星間勢力ごとに、ヴァリエーション化されている。
そしてこの惑星ヒュドラムの陸軍基地に居た、親衛隊仕様『ミツルギCC』は、機動性を伸長させた陸戦タイプ―――運がいい事に、ノアやランにとって、好みのタイプだった。
パイロットスーツの調整を終えたノアとランは、二人きりで待機室のベンチに腰を下ろしていた。一つのベンチにやや間隔を置いて右向き、左向きと座る辺りに、二人の心の距離感を感じさせる。
スーツの左手首内側に装着されている、サイバーリンク数値調整パッドを、右手の指で操作しながら、ノアがランに小声で言う。
「ごめんなさい。貴女まで巻き込んでしまって」
その言葉にランは、僅かに首を左右に振って、硬い口調で応じた。
「いいえ。奥方様のお心遣い、感謝しております」
それからおよそ三十分後、ノア達とモルンゴールの兄弟らは、陸軍基地の演習場にいた。
長さが2キロはある扇形をした演習場は、モルンゴールのBSHOの陸上戦闘用で、高さが三十メートルほどの、様々な形の遮蔽物がランダムに並べられている。地面はあえて整地されておらず、元からあったものをそのまま残したと思われる、天然林も何箇所かに点在していた。
模擬戦を行う『ミツルギCC』と『マガツ』は、扇の要の位置に向かい合って並べられている。すでに対消滅反応炉は整備班によって起動されており、アイドリング状態で片膝をつき、腹部にあるコクピットのハッチが開けられていた。
「さっきも言ったけど、勝敗がどう転んでも、恨みっこ無しだからね!」
横一列に並んだノアとラン、バビュラ兄弟を前に、老女ベファルはまるで司令官のように、訓辞を垂れる。
「いいかい。双方とも勝利を目指すは当然のこと! それ以上に、自分の戦士としての誇りを懸けて戦いな! ぬるい戦いをしたら、どっちも負けにするよ! 肝に銘じな!!」
これに反応したのがバビュラ兄弟の弟、バジラードだ。「はん!」と嘲る声を言い放って続ける。
「数で勝ったヒト族や、裏切り者の“宇宙ギツネ”に、負けるワケないだろ!」
バジラードが持ち出したのは、約三百年前のモルンゴールと銀河皇国の、戦争に関わる話だった。量産型BSIユニットと、簡易型ASGULの大量生産による、数の暴力で戦局を逆転。最後はフォクシア星人の二重の裏切りで、モルンゴール恒星間帝国は敗北したのである。
「ほう。いい物言いじゃないか」
攻撃的な笑みで応じたベファルは、ノアとランに視線を移す。しかい二人はバジラードの挑発的な言葉に、さしたる動揺も見せる事無く、静かに佇んでいる。この姿を見てベファルは笑みを大きくした。
「いいだろう。搭乗しな!」
その声を合図に、四人は自分に割り当てられた機体に駆け寄る。コクピットに滑り込んだノアは、機体とのサイバーリンクを接続すると、操縦桿を握り締めてフットペダルを踏み込む。左隣のランが乗る機体と共に、コクピットのハッチを閉じながら立ち上がる、親衛隊仕様『ミツルギCC』。そしてノアは、機体が立ち上がると即座に、反転重力子ホバーを作動。機体を後方へ高速移動させた。その元いた位置に、ザリュードの『マガツ』が放った、ペイント弾が着弾して青い塗料をぶちまける。
ザリュードのいきなりの発砲に、警官に手伝われながら、通信用のヘッドギアを被りかけていたベファルは怒鳴った。
「あのバカ孫! 開始の合図は、まだだってのに!!」
とは言うものの、ベファルはすぐに面白そうな笑みを浮かべる。勝手に発砲した自分の孫にではなく、即座に回避行動を行ったノアに対してだ。こういった動きは予め、対戦相手が不意打ちを仕掛けて来る可能性を、充分に考慮していないと出来ないものだからである。
“なるほど。あの娘、自分から機動兵器戦を、挑んで来ただけの事はあるね…”
眼を細めて内心で呟くベファルの背後では、キスティス達女性『ホロウシュ』から、「ちょっと、卑怯だろ!」や「ズルすんじゃないよ!」といった、非難の声が上がる。またザリュードにやや遅れ、バジラードの乗る『マガツ』も、ポジトロンパイクを構えてランの『ミツルギCC』に斬り掛かった。しかしこちらも、これあるを予想したランによって、素早く躱される。
さらに斬撃を放つバジラードの『マガツ』の追い込み。それを二度三度と、機体を翻して回避するランの『ミツルギCC』。激しい機動によって立ち上る、反転重力子による砂煙が、嵐のようにベファルら観戦者へ降り注ぐ。本来なら距離を取って、演習場中央部で開始すべき演習である。「こらーーーっ!!」と、ここでもやはり、ベファルの怒声が飛んだ。
ランはモルンゴール製のBSHOと戦うのは、初めてであった。無論、戦闘画像は観た事があり、機体データも把握はしている。だがその実働性能は、パイロットの技量によって変わるものだ。ランは回避に徹して、まずは相手との機体性能差、パイロット自身との技量差を見極めようと考えた。そうとは知らないらしく、バジラードはランに侮蔑の言葉を投げ掛ける。
「どうした“宇宙ギツネ”。避けてるだけじゃ、話にならんぞ!」
その言葉に怒りを覚えたのは、ヘッドギアを装着して通信を傍受している、ランの部下の女性『ホロウシュ』の三人だ。
「あいつ、腹立つなぁ~!」
拳を握り締めるキスティス=ハーシェル。その傍らではジュゼ=ナ・カーガが、手にしたデータパッドに何かを書き込んでいた。「ジュゼ、何してるのさ?」と、隣に立つキュエル=ヒーラーが問うと、ジュゼは口許を歪めて、呪いをかけるような口調で答える。
「イヒヒ…。アイツがフォレスタ様を何回、蔑称で呼んだかを数えてるのさ。あとでその回数分、張り倒すためにねぇーー」
これを聞いて、キスティスとキュエルは引き攣り笑いで、顔を見合わせたのであった………
▶#15につづく
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