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第19話:ノヴァルナ包囲網
#15
しおりを挟む一方のノアは、ザリュードの銃撃を不規則機動で回避しながら、演習場に点在する壁状をした遮蔽物の一つの裏側へ滑り込んだ。表側に青いペイント弾が三発、四発と命中する。
「くそ。性能テストのデータより、動きがいい。やはり体格的に、ヒト族が乗るための機体か」
命中弾を得られなかったザリュードは、苦々しく呟いて自分の機体を加速させながら、ライフルの弾倉を交換した。ノアからの反撃に備えるためだ。
対するノアは、『ミツルギCC』の操縦桿を操作しながら、機体のレスポンスを確かめる。やはり普段乗っているBSHOの『サイウンCN』より、機体性能は低下する。しかしサイドゥ家時代には、『サイウンCN』が製作されるまでの間、親衛隊仕様の『ライカSS』を操縦していた経験があり、素人というわけではない。
“基本的には『ライカSS』と同じ。加速性能はこの機体の方が上。でも操作性はやや劣る…”
ここまでの回避行動の結果で感じた結果を踏まえ、ノアは機体を急発進。遮蔽物の陰から飛び出した。即座にライフルを構え、移動中のザリュードの『マガツ』を銃撃する。
ただザリュードも、パイロットとしての腕は悪くない。ノア機からのロックオン警報が鳴った次の刹那、一気に『マガツ』の速度を上げた。自分のBSHOと親衛隊仕様BSIの機体性能差を見越し、加速に余裕を持たせていたのだ。『マガツ』の出した最大速度がノアの照準を上回り、赤い塗料の混じった着弾の砂煙が、後方に林立するのみである。
さらに腰を落としたホバリング移動で機体を旋回させ、ザリュードは銃撃を返した。しかしこちらも当たらない。ザリュードの狙いを読んだノアは、素早く機体を後ろ向き九十度に軌道修正、ライフルを撃ち続けながら別の遮蔽物の背後に入る。ヘルメットの専用回線に切り替えて、バジラードに呼び掛けるザリュード。
「バジラード。そっちはどうだ!? “宇宙ギツネ”を引き離したか?」
すぐにバジラードからの返答が入る。
「だいたい上手くいってる。戦いながら、ヒト族の女の横合いに入るとこだ」
ここまで発言には品性に欠けた兄弟だが、BSHOの操縦レベルは低くない。バジラードの『マガツ』はポジトロンパイクを手にし、ランを追い回しているように見せかけて、ノアの『ミツルギCC』への、別角度からの射撃点を取ろうとしていた。ザリュードが絶えずノアに射撃を行っているのは、自分に注意を向けさせるためのものだ。
「よし!」
ここだと踏んだバジラードは、ランを追うのをやめて機体を停止。振り向きざまにノアの機体へライフルを向けた。
速攻でトリガーを引くバジラード。だがノアの高い集中力は、バジラード機の動きにも注がれていた。機体を一回転させ、飛来した銃弾を紙一重に回避すると、そのまま機体を加速後退させる。そこへクロスファイアで飛来する、ザリュードからの銃弾。ノアもライフルを向けて、カウンターの反撃を行う。相手の銃弾が左側のショルダーアーマーを掠め、弾けたペイント弾が青いラインを引く。戦闘には支障が無い掠り傷だ。
“回り込んで、ザリュードの機体に仕掛ける!”
ノアはそう考えて、ランに通信を入れる。
「ラン。私は右からザリュードに仕掛けます。バジラードの機体に、援護をさせないで下さい」
「…了解です」
一拍置いてランからの返答。ノアは機体を加速させながら、僅かながらもどかしさを覚える。『サイウンCN』と『ミツルギCC』の性能の違いもそうだが、もし自分が組んでいるのが、メイアかマイアのどちらかであれば、自分の戦い方を知っており、何も言わずとも阿吽の呼吸で、バジラードに仕掛けていたはずだからだ。
しかしノアは同時にそれが、傲慢な考え方であるのも理解していた。ランをパートナーに指名したのは、カレンガミノ姉妹と同じものを、彼女に求めるためではないのだ。
「いきます!!」
針路を変えて急加速。『ミツルギCC』の右手にライフル、左手にポジトロンパイクを握らせてザリュードの機体へと向かうノア。「はい」と応じたランは、バジラード機に向けて、ライフルの射撃を行い始めた。
トリガーを引きながら、ランもやはり違和感を感じる。十年以上もノヴァルナの直掩についており、自然と戦い方に合わせる癖がついているからである。
たとえば今もノヴァルナなら、まずバジラードに攻撃を仕掛けて、ザリュードを釣り出したところを返す刀で攻撃。自分はノヴァルナの背後を守って、バジラードからの攻撃に備えるはずだ。
ただこの違和感を、不満に思うランではなかった。戦いには臨機応変が肝要であり、ノヴァルナ抜きで誰かと共闘する事で得られる経験値は、貴重なものとなるに違いない。
ランの連続射撃が、バジラードを遮蔽物の陰に釘付けにしている間に、ノアは高速ホバリングする『ミツルギCC』を、ザリュードの『マガツ』へ急速接近させている。
「BSI単機で、モルンゴールのBSHOに挑むつもりか。無謀な女だ!!」
そう言ってザリュードは、自らも『マガツ』を前進させた。あっという間に両者の距離が詰まる。
▶#16につづく
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