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第19話:ノヴァルナ包囲網
#24
しおりを挟む一方、カーナル・サンザー=フォレスタと彼に従うBSI部隊が、数的有利なはずのこちら側のBSI部隊を押し返している状況は、アザン・グラン軍総旗艦『サイオウ』で指揮を執る、ウィンゲート=アザン・グランを苛立たせ続けていた。
戦術状況ホログラムには次々と消失していく、両軍のBSIユニットやASGULの反応。その比率はアザン・グラン軍のものの方が眼に見えて多い。
「うぬぅ…マガランが生きておれば、“鬼のサンザー”といえども、このような跳梁跋扈などさせぬものを」
ウィンゲートは、先の“アネス・カンヴァー星雲の戦い”で討ち死にした、モルンゴール星人の武将ネオターク・ジュロス=マガランの名を出し、口惜しそうに歯噛みをした。豪刀『タイロン』を装備したBSHO、『キョウマ』に搭乗するあの闘将が生存していれば、一対一でサンザーを相手取って引き付けておき、その間にウォーダ軍のBSI部隊を、数で圧倒出来たはずだからだ。
ただこのような言葉を発するウィンゲートだが、配下の三個艦隊を前に出して、ウォーダ軍の第6及び第33の合同艦隊と戦わせ、自分が座乗する総旗艦『サイオウ』と直卒の第1艦隊は、後方に下がっている。来たるべきノヴァルナ部隊との決戦に備えて、戦力を温存している…とも言えるが、優柔不断とされるウィンゲートの性格を鑑みれば、その推測が正解かどうかまでは不明であった。
そしてウィンゲートが前面に配置したアザン・グラン軍三個艦隊も、現在の状況は芳しくない。ウォーダ軍は実質一個半の艦隊戦力ながら、司令官のスーゲット=アーチが積極攻勢を繰り返し、アザン・グラン軍を翻弄している。アーチが指揮を委任されているサンザーの第6艦隊は、空母主体の艦隊であり、その護衛として巡航戦艦や重巡航艦などの、火力もある快速艦が多く配属されていた。アーチはこの特性を利用し、宇宙艦による機動戦を仕掛けていたのである。
ウォーダ軍第6艦隊に所属する巡航戦艦五隻が、単縦陣を組んで高速機動。右舷に向けた主砲塔が一斉に火を噴く。青い曳光粒子を纏った大量の反陽子ビームが、アザン・グラン軍の重巡航艦戦隊に襲い掛かり、複数の艦に爆発光が輝く。
この状況にアザン・グラン家の筆頭家老で、第2艦隊の司令官を兼ねているヴァゼリエ=エヴァーキンは、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。想像以上に自軍の動きが鈍いからだ。これも最前線に出て来ながら、闘志に欠如感を抱かせる当主ウィンゲートの存在が、影響しているのかも知れない。
しかしそこへ、第3艦隊を率いるカーグアキュラ=アザン・グランから、待ちわびていた連絡が入った。通信ホログラムスクリーンに映し出された、カーグアキュラが攻撃的な笑みと共に告げる。
「エヴァーキン殿。どうやら我等の“切り札”が、到着したようです」
その反応を捉えたのは、ウォーダ軍第35艦隊に所属する、宇宙空母の一隻だった。直接戦闘には加わらない空母部隊は、アーザイル軍と交戦中の第35艦隊主力より左後方、セークモートン星系第六惑星の裏側まで後退している。その中の空母の一隻が長距離センサーに、正体不明の反応を多数感知したのである。
「方位265…反応多数。なんだこれは?」
「艦隊のようですが…わかりませんね」
電探士官がセンサースクリーンの表示を見ながら言葉を交わす。少佐の階級章をつけた上官が向こうを向いて、データの解析班に問い掛けた。
「IFF(敵味方識別装置)の反応は?」
その問いに担当官が「ありません」と応じると、画面を見ていた士官が「少佐」と呼ぶ。振り返る少佐にその士官は、「これを」と自分が見ていたものを指さして続けた。
「小さな反応が多数出現。これは…BSIユニットでは!?」
「反応の針路は!?」
「戦場中央部へ向かっています…速い!」
これを聞いて電探科の少佐は即座に指示を出した。
「艦橋に報告。全軍に“警戒ノ要アリト認ム”だ!」
謎の反応の正体…それはやはり所属不明の宇宙艦隊と、そこから発進したBSI部隊であった。まず接触したのは一番近くにいた、ヴェルージ=ウォーダの第35艦隊主力だ。後方の空母部隊からの通報を受けていたとは言え、目前のアーザイル軍と交戦中とあっては、対処しきれない。
艦橋の前を横切って行く、見慣れないBSIユニットの群れ、そして艦を襲う命中弾の衝撃。
「左舷より接近中の艦隊から砲撃。被弾1」
オペレーターの報告に歯を喰いしばるヴェルージ。このタイミングで現れるなら敵だとは、警戒警報を受けた時に勘付いていたが、先手を取られるのはまずい。
「応戦しつつ、一時後退!」
そしてこの綻びを見逃す、ナギ・マーサス=アーザイルではない。ヴェルージの艦隊が後退を始めたのを見るや、即座に命令を発する。
「全艦隊前進! 正面火力を強化だ」
この第35艦隊を横切った謎のBSI部隊は、真っ直ぐにカーナル・サンザー=フォレスタが戦っている、ドッグファイトの戦場へ殺到した。アザン・グラン軍のBSI『ハヤテ』を、『レイメイFS』の十文字ポジトロンランスで、串刺しにしたサンザーの元へ、『シデン・カイXS』に乗る部下から緊急の通信が入る。断末魔の悲鳴と共に。
「サンザー様! 敵の新手が…うっ、うわぁあああああ!!!!」
【第20話につづく】
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