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第19話:ノヴァルナ包囲網
#23
しおりを挟む場面は変わって惑星ヒュドラム。モルンゴール星人のバビュラ兄弟との揉め事も収まり、無事第18浮遊書庫への入場許可証を得たノア達は、改めて路面電車の第18書庫連絡口駅へ戻り、ビーム式ロープウェイに乗り込んで、空に浮かぶ巨大書庫へ向かっていた。
地上から発せられる黄色いビームに“ぶら下がって”、浮遊書庫へ昇って行くゴンドラは、ノア達十三名にバビュラ兄弟と、その祖母ベファルも加わって、満員である。
「…てことでね、パイロットを引退後のあたしゃ、週一であちこちの書庫を回っててね。老後の楽しみってヤツさ」
モルンゴール星人の老女ベファルは、恒星間クルーザー『ジュエルダガー』号の副操縦士、アントニア星人のアフェーシ=セランを捕まえ、自分の経歴を長々と話していた。大人しいセランは話を切り上げる事も出来ず、引き攣り気味の笑顔で、「はぁ、そうですか…」を繰り返している。
さらにその隣ではP1-0号が、浮遊書庫の外観に関する所見を、女性『ホロウシュ』達に、あれやこれやと述べていた。
そしてそんな彼等と少し離れ、ランは視界に迫って来る、浮遊書庫の入り口を見詰めている。やはり最初にここへ来た時と同じように、瞳を輝かせて期待に満ちた雰囲気を醸し出していた。
BSIユニットの私闘で共に戦い、これまでより距離が縮まった気分のノアは、ランに歩み寄って声を掛けてみる。
「ラン」
「はい」
振り向くランの表情もどこか柔らかい。ノアはランと並んで、書庫の入り口を見上げ、問い掛けた。
「少し気になってたんですが、この浮遊書庫の事を知っていたのですか?」
「いいえ。初めてですが…何か、そう見えましたでしょうか」
「そうですか。この星に来て、あの書庫を見てからの貴女は、いつもと何か違う気がしていたので、何かを知っているのではないかと思いまして」
そこでゴンドラは浮遊書庫入り口から内部へ進入。プラットホームへ到着した。ゴンドラの扉が開くと、案内役を買って出ていたベファルが、真っ先に降りて手招きする。
「さぁ、こっちだよ」
高齢であっても、ボディスーツ型運動補助フレームを装着しているため、ベファルの動きは軽快だった。何度も訪れているだけに、勝手知ったる施設の中を率先して歩き、中央部にあるエレベーターシャフトまで一行を連れて行く。観光施設でもある浮遊書庫の内部は、エレベーターシャフトを中心に、土産物店や飲食店も多く並んでいた。その中には、銀河皇国ではほとんど見られなくなった、書店もある。
ヤヴァルト銀河皇国では、NNL(ニューロネットライン)の発達により、効果範囲内であれば、どこに居てもホログラムスクリーンを展開して、読みたい文章を映し出したり、秘匿性を求めるならば網膜上に投影して、個人の視覚上に文字を流す事が可能となっている。
そのため書籍というものは絶滅状態となっており、どちらかといえば実用品としてではなく、書籍自体を嗜好品の一つ…趣味として集めるものとなっているのが、実情だ。
そんな銀河皇国からやって来たランが足を止めたのは、浮遊書庫の書店の一つであった。書庫惑星ヒュドラムの土産物としての書籍を売るその店は、さほど広くはなく、子供向けのいわゆる“絵本”が店頭に並べられている。パステルカラーの表紙に書かれているタイトル文字は、ヒュドラン語のものと、モルンゴール語のものの二種類でランには読めない。それでも並んだ絵本を眺める、ランの表情は普段あまり見せない、穏やかさに満ちている。
「フォレスタ様、行きますよ」
部下のキュエル=ヒーラーに呼び掛けられ、我に返ったランは、皆のあとを追ってエレベーターシャフトへ向かった………
漆黒の宇宙空間に幾つもの爆発光が輝く。アーザイル軍の第2艦隊に所属する宙雷戦隊の一つが、突撃に失敗して多くの損害を出した光だ。
「相手はウォーダ家のヴェルージ殿か。あまり実戦経験は無いはずだが、なかなかどうして…というヤツだね」
アーザイル軍総旗艦『コウリュウ』の艦橋で、ナギ・マーサス=アーザイルは、参謀長を振り向いて苦笑いを浮かべた。敵のウォーダ軍第35艦隊は、アーザイル軍の戦力の半分にも満たない。それでも第一回戦では戦力を温存していたため、幾分消耗しているアーザイル軍には、手強い相手となっている。
それに司令官のヴェルージ=ウォーダに対し、緒戦でナギが受けた印象は、攻性防御が上手いという評価だった。こちらの攻め手に対してすぐに反応し、逆に打って出る。そして出鼻を挫いて、決して深追いはしない。
「突破を目的にした、こちらの戦術からすれば、実に厄介な相手ですな」
眉間に皺を寄せた参謀長の言葉に、「まったくだね」と同意するナギ。ヴェルージ=ウォーダは、かつてノヴァルナに敵対して死んだ、ディトモス・キオ=ウォーダの遺児の一人で、その身を哀れられてノヴァルナの義弟に迎えられたはずだが、基幹艦隊を与えられるだけの、実力を秘めていたという事だろう。それがこの戦場で花開こうとしているのかも知れない。だたナギはそんなヴェルージに、意味深な独り言を口にした。
「それだけに…残念だよ」
▶#24につづく
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