銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
524 / 526
第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める

#07

しおりを挟む
 
 浮遊書庫の窓から差し込む柔らかな陽光の下、本を開いたランに、ノアが静かに問い掛ける。

「本についての、懐かしい思い出?…よければ聞かせてもらえますか?」

 あまり自分の事は口にしないランだったが、少し間を置いて頷くと、開いた書籍の扉絵に視線を落として、おもむろに話し始めた。

「この浮遊書庫…私が子供の頃に持っていた、絵本の光景とよく似ているんです」

「絵本…ですか?」

「はい。タイトルは“そらとぶとしょかん”と言って、子供の魔法つかいの兄と妹が、全ての人を幸せにできる魔法が書かれた本を、収めてあるという空飛ぶ図書館を探して、世界中を旅をするというあらすじでした」

「その図書館が、この浮遊書庫と似ていた…と?」

「はい。この星に来て、山の間で霧の中に浮かぶ、この浮遊書庫を初めて見た時、
絵本の中に描かれていた、空飛ぶ図書館の絵とそっくりでしたので…」

 そこでランは照れ臭そうに、うつむいた頬を僅かに染めて眼を泳がせる。浮遊書庫へ来た時の、まるで幼子であった自分の様子を思い出したのだろう。その反応を可愛らしく思ったノアは、そういった表情を見せてくれるようになったランと、また少し距離が縮まった気持ちがした。

 ただ“それであんなふうに、はしゃいでいたのですね”とからかうには、まだそこまで距離は近くないとも感じ、優しく尋ねる。

「大好きな絵本だったんですね」

 するとランは遠い眼をして、ぽつりと言った。

「父が買ってくれたんです………」



 続々と迫って来るモノトーンのBSIユニット。攻撃の仕方は突撃中心の単調なものだが、数が多すぎる。『レイメイFS』の十文字ポジトロンランスが、真横に薙ぎ払われて、二機の敵ユニットが同時に真っ二つになった。
 しかしその向こうでは、配下の『シデン・カイ』が腹部のコクピットを、敵の薙刀に断ち割られて崩れ落ちる。

 複数のロックオン警報。サンザーは操縦桿を引いて一気に機体を後退。アザン・グラン軍の三機の『ハヤテGC』から放たれた、狙撃の銃弾をまとめて回避する。一発が機体の左膝を掠めて装甲を削るが、戦闘には支障ない。

 そこへクァンタムブレードで斬りかかって来る、アーザイル軍の『イカヅチ』。そのブレードを鑓の柄で叩き落としたサンザーは、返した穂先の十文字の刃で敵機の脇腹を掻き切った。さらに敵機から叩き落としたブレードを拾い上げた『レイメイFS』は、これを真っ直ぐ投擲。自分を狙撃しようとした『ハヤテGC』の一機を、刺し貫いて撃破する。弾の尽きた超電磁ライフル代わりだ。
 
「サンザー殿!」

 『ハヤテCG』を斬り捨てた『シデン・カイXS-TS』に乗る、ヴェルージ=ウォーダが通信で呼び掛ける。

「ここは我等が血路を開きまする! サンザー殿はウーサルマ星系まで後退され、第二次防衛線の指揮をお取り下さい!」

 サンザー率いる第6と第33艦隊のBSI部隊は、もはや残り百機を切り、ヴェルージが率いて来た、第35艦隊のBSI部隊も、残存機はすでに四十を下回っていた。対するアーザイル軍とアザン・グラン軍、そして所属不明艦隊のBSI部隊の数は、ここにいるだけでもまだ四百を越えている。敵艦隊は一部の空母を残し、ウォーダ艦隊の追撃に入っており、そのまま後方のウーサルマ星系を襲撃。これを抜いて、ヤヴァルト宙域を撤退中のノヴァルナ率いる、セッツー宙域遠征部隊を目指すつもりだ。

「それはこちらの台詞だ、ヴェルージ殿。貴殿こそ、まだこの先―――」

 モノトーンBSIを穂先の斬撃で両断したサンザーが、そう言いかけた時、ヘルメットのスピーカーから、ヴェルージの「うぐゥッ!!」という呻き声が聞こえた。機体をヴェルージの居る方向へ振り向かせると、モノトーンBSIのポジトロングレイブが、『シデン・カイXS-TS』の脇腹を、背後から刺し貫いている。

「ヴェルージ殿!!」

 『シデン・カイXS-TS』を突き刺したBSIユニットは、ヴェルージ配下の『シデン・カイ』から、怒りの斬撃を浴びて破壊された。しかしその『シデン・カイ』も、突撃して来た複数のモノトーンBSIの薙刀に、次々に串刺しにされて爆発を起こす。
 その間にヴェルージの機体はよろめきながらも、敵のBSIをクァンタムブレードで袈裟懸けに斬り捨てた。だが敵に突き刺された箇所はコクピットであり、乗っているヴェルージが深手を負っているのは、ほぼ間違いない。
 自分達の司令官を守ろうと、『シデン・カイ』やその親衛隊仕様機が、次々と集まって来る。これに当然敵も集まり、大乱戦が発生した。

 この光景に、ヴェルージの救援に向かいたいサンザーであったが、近接警戒センサーが無数の敵の接近を警告して来る。振り返れば百機を超える新手の敵。おそらく居残っていた敵の空母部隊が、直掩用に残していた部隊も全て、投入して来たのだろう。この圧倒的な光景にサンザーの頬の筋肉が緩み、口角が自然と上がる。


「よかろう。これで冥府への道中が、ますます賑やかになるというものよ」




▶#08につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...