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第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める
#07
しおりを挟む浮遊書庫の窓から差し込む柔らかな陽光の下、本を開いたランに、ノアが静かに問い掛ける。
「本についての、懐かしい思い出?…よければ聞かせてもらえますか?」
あまり自分の事は口にしないランだったが、少し間を置いて頷くと、開いた書籍の扉絵に視線を落として、おもむろに話し始めた。
「この浮遊書庫…私が子供の頃に持っていた、絵本の光景とよく似ているんです」
「絵本…ですか?」
「はい。タイトルは“そらとぶとしょかん”と言って、子供の魔法つかいの兄と妹が、全ての人を幸せにできる魔法が書かれた本を、収めてあるという空飛ぶ図書館を探して、世界中を旅をするというあらすじでした」
「その図書館が、この浮遊書庫と似ていた…と?」
「はい。この星に来て、山の間で霧の中に浮かぶ、この浮遊書庫を初めて見た時、
絵本の中に描かれていた、空飛ぶ図書館の絵とそっくりでしたので…」
そこでランは照れ臭そうに、うつむいた頬を僅かに染めて眼を泳がせる。浮遊書庫へ来た時の、まるで幼子であった自分の様子を思い出したのだろう。その反応を可愛らしく思ったノアは、そういった表情を見せてくれるようになったランと、また少し距離が縮まった気持ちがした。
ただ“それであんなふうに、はしゃいでいたのですね”とからかうには、まだそこまで距離は近くないとも感じ、優しく尋ねる。
「大好きな絵本だったんですね」
するとランは遠い眼をして、ぽつりと言った。
「父が買ってくれたんです………」
続々と迫って来るモノトーンのBSIユニット。攻撃の仕方は突撃中心の単調なものだが、数が多すぎる。『レイメイFS』の十文字ポジトロンランスが、真横に薙ぎ払われて、二機の敵ユニットが同時に真っ二つになった。
しかしその向こうでは、配下の『シデン・カイ』が腹部のコクピットを、敵の薙刀に断ち割られて崩れ落ちる。
複数のロックオン警報。サンザーは操縦桿を引いて一気に機体を後退。アザン・グラン軍の三機の『ハヤテGC』から放たれた、狙撃の銃弾をまとめて回避する。一発が機体の左膝を掠めて装甲を削るが、戦闘には支障ない。
そこへクァンタムブレードで斬りかかって来る、アーザイル軍の『イカヅチ』。そのブレードを鑓の柄で叩き落としたサンザーは、返した穂先の十文字の刃で敵機の脇腹を掻き切った。さらに敵機から叩き落としたブレードを拾い上げた『レイメイFS』は、これを真っ直ぐ投擲。自分を狙撃しようとした『ハヤテGC』の一機を、刺し貫いて撃破する。弾の尽きた超電磁ライフル代わりだ。
「サンザー殿!」
『ハヤテCG』を斬り捨てた『シデン・カイXS-TS』に乗る、ヴェルージ=ウォーダが通信で呼び掛ける。
「ここは我等が血路を開きまする! サンザー殿はウーサルマ星系まで後退され、第二次防衛線の指揮をお取り下さい!」
サンザー率いる第6と第33艦隊のBSI部隊は、もはや残り百機を切り、ヴェルージが率いて来た、第35艦隊のBSI部隊も、残存機はすでに四十を下回っていた。対するアーザイル軍とアザン・グラン軍、そして所属不明艦隊のBSI部隊の数は、ここにいるだけでもまだ四百を越えている。敵艦隊は一部の空母を残し、ウォーダ艦隊の追撃に入っており、そのまま後方のウーサルマ星系を襲撃。これを抜いて、ヤヴァルト宙域を撤退中のノヴァルナ率いる、セッツー宙域遠征部隊を目指すつもりだ。
「それはこちらの台詞だ、ヴェルージ殿。貴殿こそ、まだこの先―――」
モノトーンBSIを穂先の斬撃で両断したサンザーが、そう言いかけた時、ヘルメットのスピーカーから、ヴェルージの「うぐゥッ!!」という呻き声が聞こえた。機体をヴェルージの居る方向へ振り向かせると、モノトーンBSIのポジトロングレイブが、『シデン・カイXS-TS』の脇腹を、背後から刺し貫いている。
「ヴェルージ殿!!」
『シデン・カイXS-TS』を突き刺したBSIユニットは、ヴェルージ配下の『シデン・カイ』から、怒りの斬撃を浴びて破壊された。しかしその『シデン・カイ』も、突撃して来た複数のモノトーンBSIの薙刀に、次々に串刺しにされて爆発を起こす。
その間にヴェルージの機体はよろめきながらも、敵のBSIをクァンタムブレードで袈裟懸けに斬り捨てた。だが敵に突き刺された箇所はコクピットであり、乗っているヴェルージが深手を負っているのは、ほぼ間違いない。
自分達の司令官を守ろうと、『シデン・カイ』やその親衛隊仕様機が、次々と集まって来る。これに当然敵も集まり、大乱戦が発生した。
この光景に、ヴェルージの救援に向かいたいサンザーであったが、近接警戒センサーが無数の敵の接近を警告して来る。振り返れば百機を超える新手の敵。おそらく居残っていた敵の空母部隊が、直掩用に残していた部隊も全て、投入して来たのだろう。この圧倒的な光景にサンザーの頬の筋肉が緩み、口角が自然と上がる。
「よかろう。これで冥府への道中が、ますます賑やかになるというものよ」
▶#08につづく
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