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第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める
#09
しおりを挟む「俺は鬼だからな。逃げる奴から、追いかけて殺す!」
十文字ポジトロンランスを大きくひと振りし、強い口調で放言するサンザー。たじろぐアーザイル家とアザン・グラン家のパイロット。威圧感のある物言いで、自分達が追い詰められていると思わせる、歴戦のサンザーならではの、巧みな心理誘導であった。
「く、くそ。やられるぐらいなら…」
「やるしかない!」
自分達にはあとが無い…という思いに囚われた、アーザイルやアザン・グランのパイロットらは、ゴクリ…と喉を鳴らし、各々の乗る機体が手にした得物を、握り直す。
「来るがいい! 生きたくば、このサンザーを斃してみせろ!!」
そう言うサンザーを乗せた『レイメイFS』は、右手に大型十文字ポジトロンランスを握り、両腕を大きく広げた。その動作に釣られるように、取り囲む敵のBSIユニットが十機以上、同時に突撃を仕掛けて来る。
「うおあああああ!!」
叫ぶ敵パイロット達。対するサンザーは大きく頷く。
「おおう!」
敵の動きは望んだ通り。サンザーは『レイメイFS』の機体を包む重力子フィールドを、ポジトロンランスの穂先に集中、下段に構えて機体をその場で、一回転させた。すると穂先から放たれた重力子が、第五衛星の地表に大きな円を描いて、大量の砂を噴き上げた。
もとより惑星より重力の小さな衛星の地表である。サンザーが振るった鑓の重力子放射に、大量の砂がカーテン状に舞い上がって、『レイメイFS』の姿を隠す。敵はその砂のカーテンを突っ切って、攻撃を掛けようとするが、そこに待ち構えていたのがサンザーの鑓であった。
砂のカーテンを突っ切る際に、ほんの一瞬だけ視線が切れる。だが待ち構えるサンザーの技量からすれば、充分に“長い”時間であった。切れた視線を元に戻そうと、視線を泳がせた僅かな隙に素早く薙いだ鑓の穂先が、敵の機体を次々と葬る。
しかし相手は多数の機体による一斉突撃。さしものサンザーも対処し切れずに、『レイメイFS』は機体の複数個所に、比較的大きなダメージを受ける。そこで再び振るわれて地表を抉る十文字の鑓。立ち上る二度目の砂のカーテンは、生き残った敵と、新たに突撃して来た敵の視界を遮り、サンザーの鑓の餌食となる。
「ワッハハハ! 甘い、甘い!!」
笑い声と煽り文句に塗れたサンザーの鑓が、穂先を煌めかせて、更なる敵BSIユニットを冥土へと誘う。だがそう言うサンザーも疲労が募る。ヘルメットに鳴り響く近接警戒警報に、振り返った双眸が捉えたのは、敵が放ったポジトロンパイクの、輝く切っ先だった。
刹那の判断。サンザーは咄嗟に機体を翻す。突っ込んで来たのは、親衛隊仕様の『ハヤテGC』だ。流石に避けきれず、『レイメイFSは』右腰部に浅くない裂傷を負う。さらにポジトロングレイブを真っ直ぐ構え、突撃して来る三機のモノトーンBSI。こちらもすでに必殺の間合いだ。
これに対しサンザーは、反射的に『ハヤテGC』のバックパックを片手で掴み、自分の機体の前に引き戻す。その急な動きに瞬間、右腰部に出来た裂傷からスパークが眩く飛び散った。盾代わりにされた『ハヤテGC』は、三機のモノトーンBSIが長く突き出したポジトロングレイブに、次々と刺される。
瞬時の機転でサンザーが危機を回避したかのように見えた、しかしその直後、三機のモノトーンBSIユニットは、重力子スラスターをブーストし、味方の『ハヤテGC』に突き刺したポジトロングレイブを、容赦なくさらに押し込んだ。その刃先は『ハヤテGC』の機体を貫き、背後にいた『レイメイFS』にまで達する。しかもそのうち一本はコクピットにまで達し、サンザーの左肩を切断した。
するとバックパックを貫かれた『ハヤテGC』の、小型対消滅反応炉が爆発を起こし、『レイメイFS』と三機のモノトーンBSIを薙ぎ倒す。
「む…う…」
サイバーリンクで機体を起こしながら、サンザーは機体と自分の傷口を見た。敵のポジトロングレイブは、『ハヤテGC』の爆発で抜け、機体に出来た裂け目は、瞬時に噴き出した緊急密閉ポリマーが、硬化して塞いでいる。全周囲モニターは左側四分の一が映らなくなっており、死角となっていた。
だがそれ以上に、問題はサンザー自身の負傷だ。突き刺さったポジトロングレイブの放つ、陽電子フィールドで左腕は肩口から、完全に消滅している。ただ高熱と共に消滅したため、傷口の組織は焼き塞がれて出血は少ない。
機体の耐久力の差か、倒れたモノトーンBSIは三体ともそのままだ。すると周囲の敵は、ここぞとばかりに押し寄せる。『レイメイFS』とパイロットが、深手を負ったのは、見た目にも明らかだからだ。
激痛の中でも間合いを計ったサンザーは雄たけびを上げ、大型十文字ポジトロンランスを大きく振り回した。
「うおおおおおおお!!!!」
鬼気迫るこの大旋回で、二機の『イカヅチ』、三機の『ハヤテ』、そして四機のモノトーンBSIが、一度に機体を斬り裂かれて弾け飛ぶ。サンザーの肉体は左腕を失っても、サイバーリンクで操作する、『レイメイFS』の四肢は健在だ。
裂帛の気合と共に、サンザーはさらに二度、三度とポジトロンランスを大きく振り回す。両断された敵機の上半身、切断された腕や脚や頭が、大量に回転しながら舞い上がる。一緒に立ち上った灰白色の砂埃が、辺りを包み隠した。
だが、限界であった―――
休む間もなく敵を撃ち倒し、斬り捨て、刺し貫いて来たサンザーの気力、そしてその力を出し尽くした、BSHO『レイメイFS』双方ともだ。今の動きで、サンザーは失った左肩からの出血がひどくなり、『レイメイFS』は右腰部の損傷具合が大きくなった。機体右脚の腰部間接が機能を停止し、その場で片膝をつく『レイメイFS』。そこへ必死の形相のパイロットが乗る、アザン・グラン軍の『ハヤテGC』が飛び込んで来て、ポジトロンランスを突き立てる。その穂先は、コクピットのサンザーの脇腹まで刺し貫いた。カッ!…と吐血するサンザー。
しかしサンザーは何事も無かったように、残る右手でコンソールを手早く操作すると、『レイメイFS』の対消滅反応炉を意図的に暴走状態にする。その間にも第二撃の刺突を放つ『ハヤテGC』に加え、『イカヅチ』やモノトーンBSIが次々と、『レイメイFS』に得物を突き立てた。その光景は、勝負を決めにかかったというより、恐怖に駆られてのもののように見える。
これだけ敵を引き付けられれば、充分だろう…と、サンザーは鮮血が滴る口元を歪めた。そして暴走状態になっていた対消滅反応炉を開放するため、起爆装置代わりのスロットルを全開にする。
「ノヴァルナ様…これにて、御免!」
コクピットを白い光が包んだ瞬間、サンザーは妻のエイシアと、七人の子の顔を思い浮かべた。ラン、カリュス、ナガール、ヴォルマル、リッキー、ディルマス、メイス…みな元気であれと思う。すると不意に、少女だったランとの思い出に、欠けていたピースが収まった。
“ああそうだ宇宙港帰りに…あれは、絵本を買ってやったんだったな―――”
絵本を手に無邪気な、それでいてどこか照れたランの笑顔がこちらを見上げる…そこで、ウォーダ家BSI部隊総監、カーナル・サンザー=フォレスタの意識は、この世界から永遠に旅立っていった。
対消滅反応炉の暴走自爆は、通常の爆発より高威力であり、『レイメイFS』に殺到した多くの敵機を巻き込んだ。第五衛星の地表から飛んだ砂埃は、石英成分を大量に含んでいたらしく、セークモートン星系の恒星の光を受け、サンザーの夢のあとに鮮やかな虹をかけていた………
▶#10につづく
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