銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
9 / 526
第1話:ミノネリラ進攻

#07

しおりを挟む
 
 だがオルグターツの前でそれなりに見栄を切ったものの、ビーダとラクシャスには、深い軍事的センスなどなかった。三日後、イナヴァーザン城の謁見の間で、空席の玉座の両脇に立つビーダとラクシャスが、居並ぶ武将達の中で、ノヴァルナ派遣軍迎撃部隊の指揮官を告げると、疑念の意味合いを込めた、微かなざわめきが起きる。

「第10艦隊司令モラレス・カイ=ナーガイ殿」

「第12艦隊司令コーザルネ=フィビオ殿」

 ビーダがナーガイの名を、ラクシャスがフィビオの名を口にすると、まだ三十代と思われるヒト種の男性二人が、居並ぶ武将達の中から進み出て片膝をついた。

「ご両名に、我等がミノネリラ宙域への侵入を試みようとしている、ウォーダ軍の討伐を命じまする」

「ははっ!」と頭を下げるナーガイとフィビオ。

 年下でありながら、どこか尊大さを感じさせる鷹揚な態度の、ビーダとラクシャスには玉座を空にして、今この時も酒と美女と美少年に耽りきっているオルグターツより、自分達こそがミノネリラの支配者だという空気が感じられる。

「準備が完了次第、ご出陣なされるように」

 ただそれに応じるナーガイとフィビオの、若手武将二人の表情にも、余裕のようなものが読み取れた。それが何に根差したものかは不明だが。立ち上がった二人のうち、ナーガイが胸を反らして言い放つ。

「誓って、戦果を挙げてご覧にいれましょう」

 この光景にベテラン武将達は顔を見合わせた。本来ならノヴァルナを討つ機会であるから投入戦力には、主力中の主力であるリーンテーツ=イナルヴァ、モリナール=アンドア、ナモド・ボクゼ=ウージェルの、“ミノネリラ三連星”を充てるべきなのだ。いや、目標の大きさから言えば、全力出撃を行ってもおかしくはない。

 ところがビーダとラクシャスは彼等三武将ではなく、自分達に近しいモラレス・カイ=ナーガイと、コーザルネ=フィビオの二人を司令官に任命した。この二人はいわゆる“オルグターツ派閥”の若手武将である。

 ギルターツの急死でオルグターツが当主を継承した時、ビーダとラクシャスは大幅な異動を行って、政治関係の家老は全て、“オルグターツ派閥のイエスマン”で固めたのだが、軍関係の家老達は実績という点で、さすがに手を付け難かった。
 だがいずれ軍部の中枢も、“イエスマン”で固めたいと目論んでいたビーダとラクシャスは、この機会にナーガイとフィビオに武功を挙げさせ、“ミノネリラ三連星”をはじめとする、扱いづらいベテラン武将達を遠ざけようと企んだのだ。
 
 それでもさすがにビーダとラクシャスも、実戦経験の少ないナーガイとフィビオだけに任せる事に不安を感じたのか、ロックベルト=アーダッツとスーゲン=キャンベルという武将とその艦隊に補佐を命じた。

 特にこのアーダッツという武将は、BSIパイロットとしても高い技量を持っており、ドゥ・ザン=サイドゥの軍と戦った“ナグァルラワンの戦い”では、与えられたBSHO『レイフウAS』で戦った複数相手の機体の頭部を、武器を持たない素手のまま次々ともぎ取った事から、“首取りアーダッツ”という二つ名をイースキー家内で奉られていた、ウォーダ家で言えばカーナル・サンザー=フォレスタに近い剛の者である。
 こうしてナーガイ、フィビオ、アーダッツ、キャンベルの四武将による迎撃艦隊は、首都惑星バサラナルムを発進。ウモルヴェ星系へ向かったのであった。



 そこから時は現在へ至り、皇国暦1561年11月22日。ノヴァルナ派遣軍は領域国境を越え、ミノネリラ宙域へ進入した。そして翌23日、派遣軍は無人恒星系CL‐989034に到着。ここで四つの艦隊をそれぞれの目的に合わせた、任務部隊に分割する。名目上はウモルヴェ星系第四惑星カーティムルへの災害救援であるが、本来の目的はこの先に行うミノネリラ宙域への本格進攻に備えた、周辺偵察であったのは前述の通りだ。

 ノヴァルナは直卒第1艦隊と、一族のウォルフベルト=ウォーダの第5艦隊で、敵の来襲に備えてウモルヴェ星系内で待機。ルヴィーロ・オスミ=ウォーダの第3艦隊を、第四惑星カーティムルで救援作業を行う、ノアの特務輸送艦隊の護衛につける事にした。
 そしてカーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊に与えられた任務が、イースキー家本拠地惑星のバサラナルムへ至るまでの宙域調査である。ドルグ=ホルタやコーティ=フーマといった、旧サイドゥ家の人間からもある程度の情報取得は可能だったが、問題は『ナグァルラワン暗黒星団域』だった。
 星間ガスが高速で流れ、不安定な重力バランスで恒星間航行が不可能なこの宇宙の難所は、状態が流動的であり、進攻時の環境予測を行うにも、詳細な観測が必要となる。そこで機動力に優れたサンザーの艦隊を観測任務に充てたのだ。

 それぞれの目的のために分離した派遣軍のうち、さらにノヴァルナの第1艦隊とウォルフベルトの第5艦隊は、ノアの特務輸送艦隊を随伴させたルヴィーロの第3艦隊と分かれ、ウモルヴェ星系の第8惑星へ向かった。
 すると11月27日、ノヴァルナの第1艦隊が配置していた哨戒駆逐艦が、星系外縁部にイースキー家と思われる艦隊が、超空間転移したのを察知したのである。

「哨戒駆逐艦『ハウバーバル』より入電。“敵艦見ユ。ワレヨリノ方位056プラス12、距離7万3千”」

 イースキー軍宇宙艦隊を最初に発見した駆逐艦からの報告内容が、総旗艦『ヒテン』の艦橋中央に展開した、戦術状況ホログラムに反映される。11個あるウモルヴェ星系の惑星の、その一番外側を回る惑星の、さらに外側に輝き始める光点。一つだけだったその光点は、駆逐艦『ハウバール』が補足した艦の数が増えるにつれて、司令官席のノヴァルナが眺める前で、瞬く間に数を増やしていった。

 さらに『ハウバール』の近くにいた僚艦も集結して来て、数隻がかりで精度の高い探知情報を『ヒテン』へ送り始める。

「敵艦数322隻」

「敵艦構成。戦艦級36、巡航艦級56、駆逐艦級172、打撃母艦級38、巡航母艦級20」

「敵は四個艦隊」

 そして「敵艦隊は第四惑星カーティムルへ、直進コースを取る模様」という報告で、ノヴァルナは命令を発した。

「これより発進する」

 それを聞いて、司令官席の傍らにいた艦隊参謀の一人が、怪訝そうな表情を浮かべてノヴァルナに問い質す。

「発進…でありますか?」

「おうよ」

「この第八惑星近郊で、敵を待ち受けるのではなかったのですか?」

「なかったのです」

 冗談交じりに返答したノヴァルナはさらに続けた。

「針路を第九惑星へ。ウォルフベルト殿の第5艦隊へも伝達」

 すると程なくして、第5艦隊のウォルフベルト=ウォーダから、ノヴァルナのもとへ直接通信が入る。突然の方針変更の真意を確認しておきたいのだろう。通信ホログラムスクリーンに、三十代後半の切れ長な眼をした、男性武将の上半身が映し出された。同じウォーダの一族だが、ノヴァルナの血筋より遠い傍流であるため、年上ではあるが口調は丁寧だ。

「ノヴァルナ様。このご命令には、どのようなお考えがお有りか?」

「第八惑星で待ち伏せしたのでは、罠に陥るからです」

「罠?」

 思いがけない言葉に眉をひそめるウォルフベルト。

「敵が第四惑星への直進コースを取ったという事はむしろ、我々がこの第八惑星周辺で待ち伏せをしているという前提で、襲撃に備えていると思われるからです」

「その根拠は?」

「我々の派遣軍の編制などは、メディア発表を通じて、イースキー家も知っているはず。それでいて我々と同程度の戦力で迎撃して来たというのは、こちらの第3艦隊や第6艦隊を分離する事まで、知っての事に違いありません」

 そう言うノヴァルナの意識には、メディア発表以上の情報―――作戦情報をイースキー家へ流したであろう人物の名が浮かんでいた。


アイノンザン星系のヴァルキス=ウォーダ…と

 



▶#08につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...