銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第1話:ミノネリラ進攻

#08

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 ヴァルキス=ウォーダ。ミノネリラとミ・ガーワの両宙域に睨みを利かせる、戦略的要衝でもある植民星系アイノンザンを本拠地とする、ノヴァルナのいとこにあたる若者である。

 ウォーダ家全体の掌握を密かに目論み、ノヴァルナに接近。旧宗家イル・ワークラン=ウォーダ家討伐に功を挙げるも、昨年のイマーガラ家のオ・ワーリ宙域侵攻の際に本性を現して、イマーガラ家側へ寝返った。

 そのイマーガラ家は“フォルクェ=ザマの戦い”で、当主ギィゲルト・ジヴ=イマーガラが戦死。大打撃を受けて撤退した事は記憶に新しい。
 これにより、ノヴァルナの勢力圏内に孤立したアイノンザン=ウォーダ家だが、再三の降伏勧告にも関わらず、現在も沈黙を続けていた。ノヴァルナからすれば、顔に泥を塗られた形だが、性急に討伐部隊を差し向ける事はしていない。ヴァルキスはイル・ワークラン=ウォーダ家打倒などの功績で、これまでに四つの植民星系を褒美としてノヴァルナから下賜されており、恒星間打撃艦隊も五個にまで増強していたからだ。

 五個の恒星間打撃艦隊と言えば、ノヴァルナのキオ・スー=ウォーダ家が保有する、十四個の恒星間打撃艦隊と比べれば圧倒的に少ない。
 だがそれだけの戦力差があっても、ノヴァルナには油断できない要素があった。それはアイノンザン=ウォーダ家が有する、高い情報戦能力である。ヴァルキスが味方であった頃は、その情報戦能力で大いに助けられ、イマーガラ側に寝返られた際は、キオ・スー=ウォーダ家の情報が全て、イマーガラ家へ筒抜けになった。こういう相手であるから、ノヴァルナとしても討伐に慎重にならざるを得ないのだ。

 それに心情的にもノヴァルナにはいまだに、ヴァルキスを滅ぼしてしまいたくはない、という気持ちがあった。気が合う相手にはつい甘くなるのがノヴァルナの欠点だったが、同じ方向を向く事さえできれば、才能豊かなヴァルキスは強力なパートナーになるのも確かだからだ。しかし今回のように、ミノネリラ宙域への進攻にまで、妨害工作を仕掛けて来るようならば、やはり決着をつけてしまわなくてはならないだろう。

 イースキー家艦隊を迎え撃つため動き出す『ヒテン』の艦橋で、ノヴァルナは司令官席の前に、小振りなホログラムスクリーンを展開し、今現在の自分達の位置とアイノンザン星系周辺までの宇宙地図を呼び出した。そしてその表示内容を確認して、小さく呟いた。

「ふん。ラゴンからじゃ、やっぱ遠いな。一つ、二つ…前線基地が必要か」
 
 そのヴァルキス=ウォーダは、本拠地惑星アイノゼアにおり、アイノンザン城の私室で副官のアリュスタを傍らに、戦術状況ホログラムが映す、“ウモルヴェ星系会戦”の状況を眺めていた。雌雄同体のロアクルル星人のアリュスタは、ヴァルキスの愛人でもある。それもあって私室にいる二人の距離は、主君と側近の距離よりはるかに近い。

「イースキーの迎撃艦隊は、第四惑星カーティムルへ直進するようですね」

「………」

 無言で戦術状況ホログラムを眺め続けるヴァルキスに、アリュスタは小首をかしげて問い質す。

「何か…ご不満ですか?」

 するとヴァルキスはアリュスタの細い腰に手を回し、苦笑しながら告げた。

「もとより私は、オルグターツ殿を評価などしていなかったが、ここまでとはな…いや、これを決定したのはあの無能な二人か。それでは仕方ないか」

 ヴァルキスが言う“無能な二人”とは当然、イースキー家で権勢を振るっているビーダ=ザイードと、ラクシャス=イルマの事である。

「そのように辛辣に申されるほど、彼等は無能ですか?」

「無能だね―――」

 バッサリと切り捨てたヴァルキスはさらに続けた。

「イースキー家迎撃艦隊司令官の、顔ぶれを見ればわかるさ。ロックベルト=アーダッツの名は聞いた事があるが、あとの三人は知らない名だ。どうせあの無能者二人の子飼いの武将だろうが、ここはノヴァルナ様を斃す事を最優先にして、“ミノネリラ三連星”を中心とした、最大戦力を投入すべきなんだ」

「そう言えば、イースキー家では昨年の“フォルクェ=ザマの戦い”を、ギィゲルト様の油断とノヴァルナ様の幸運の結果だと、評価しているようですね」

「だから無能なんだ。ドゥ・ザン様の頃だったなら、そんな間抜けな評価はしないだろう。無能な指導者には無能な側近しか集まらない。無能な指導者は聞く耳を持たないし、無能な側近は聞こえのいい事しか言わないからね」

 ヴァルキスの言葉が側近論にまで及ぶと、アリュスタは片方の手をヴァルキスの方に置いて、僅かな笑みと共に言う。

「私も気をつけねばねりませんね」

 それに対しヴァルキスは、アリュスタの手に自分の手を重ねて応じた。

「きみは大丈夫さ。私が間違っていれば、叱ってくれるからね」

「では以前、閣下がノヴァルナ様と敵対される事を打ち明けられた時、私が反対していたら、聞いて下さいましたか?」

 少し詰問口調で訪ねて来るアリュスタに、すまし顔で「いいや」と返すヴァルキス。その眼前の戦術状況ホログラムでは、第八惑星から移動を開始するノヴァルナ艦隊のマーカーが映し出されていた………




▶#09につづく
 
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