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第1話:ミノネリラ進攻
#07
しおりを挟むだがオルグターツの前でそれなりに見栄を切ったものの、ビーダとラクシャスには、深い軍事的センスなどなかった。三日後、イナヴァーザン城の謁見の間で、空席の玉座の両脇に立つビーダとラクシャスが、居並ぶ武将達の中で、ノヴァルナ派遣軍迎撃部隊の指揮官を告げると、疑念の意味合いを込めた、微かなざわめきが起きる。
「第10艦隊司令モラレス・カイ=ナーガイ殿」
「第12艦隊司令コーザルネ=フィビオ殿」
ビーダがナーガイの名を、ラクシャスがフィビオの名を口にすると、まだ三十代と思われるヒト種の男性二人が、居並ぶ武将達の中から進み出て片膝をついた。
「ご両名に、我等がミノネリラ宙域への侵入を試みようとしている、ウォーダ軍の討伐を命じまする」
「ははっ!」と頭を下げるナーガイとフィビオ。
年下でありながら、どこか尊大さを感じさせる鷹揚な態度の、ビーダとラクシャスには玉座を空にして、今この時も酒と美女と美少年に耽りきっているオルグターツより、自分達こそがミノネリラの支配者だという空気が感じられる。
「準備が完了次第、ご出陣なされるように」
ただそれに応じるナーガイとフィビオの、若手武将二人の表情にも、余裕のようなものが読み取れた。それが何に根差したものかは不明だが。立ち上がった二人のうち、ナーガイが胸を反らして言い放つ。
「誓って、戦果を挙げてご覧にいれましょう」
この光景にベテラン武将達は顔を見合わせた。本来ならノヴァルナを討つ機会であるから投入戦力には、主力中の主力であるリーンテーツ=イナルヴァ、モリナール=アンドア、ナモド・ボクゼ=ウージェルの、“ミノネリラ三連星”を充てるべきなのだ。いや、目標の大きさから言えば、全力出撃を行ってもおかしくはない。
ところがビーダとラクシャスは彼等三武将ではなく、自分達に近しいモラレス・カイ=ナーガイと、コーザルネ=フィビオの二人を司令官に任命した。この二人はいわゆる“オルグターツ派閥”の若手武将である。
ギルターツの急死でオルグターツが当主を継承した時、ビーダとラクシャスは大幅な異動を行って、政治関係の家老は全て、“オルグターツ派閥のイエスマン”で固めたのだが、軍関係の家老達は実績という点で、さすがに手を付け難かった。
だがいずれ軍部の中枢も、“イエスマン”で固めたいと目論んでいたビーダとラクシャスは、この機会にナーガイとフィビオに武功を挙げさせ、“ミノネリラ三連星”をはじめとする、扱いづらいベテラン武将達を遠ざけようと企んだのだ。
それでもさすがにビーダとラクシャスも、実戦経験の少ないナーガイとフィビオだけに任せる事に不安を感じたのか、ロックベルト=アーダッツとスーゲン=キャンベルという武将とその艦隊に補佐を命じた。
特にこのアーダッツという武将は、BSIパイロットとしても高い技量を持っており、ドゥ・ザン=サイドゥの軍と戦った“ナグァルラワンの戦い”では、与えられたBSHO『レイフウAS』で戦った複数相手の機体の頭部を、武器を持たない素手のまま次々ともぎ取った事から、“首取りアーダッツ”という二つ名をイースキー家内で奉られていた、ウォーダ家で言えばカーナル・サンザー=フォレスタに近い剛の者である。
こうしてナーガイ、フィビオ、アーダッツ、キャンベルの四武将による迎撃艦隊は、首都惑星バサラナルムを発進。ウモルヴェ星系へ向かったのであった。
そこから時は現在へ至り、皇国暦1561年11月22日。ノヴァルナ派遣軍は領域国境を越え、ミノネリラ宙域へ進入した。そして翌23日、派遣軍は無人恒星系CL‐989034に到着。ここで四つの艦隊をそれぞれの目的に合わせた、任務部隊に分割する。名目上はウモルヴェ星系第四惑星カーティムルへの災害救援であるが、本来の目的はこの先に行うミノネリラ宙域への本格進攻に備えた、周辺偵察であったのは前述の通りだ。
ノヴァルナは直卒第1艦隊と、一族のウォルフベルト=ウォーダの第5艦隊で、敵の来襲に備えてウモルヴェ星系内で待機。ルヴィーロ・オスミ=ウォーダの第3艦隊を、第四惑星カーティムルで救援作業を行う、ノアの特務輸送艦隊の護衛につける事にした。
そしてカーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊に与えられた任務が、イースキー家本拠地惑星のバサラナルムへ至るまでの宙域調査である。ドルグ=ホルタやコーティ=フーマといった、旧サイドゥ家の人間からもある程度の情報取得は可能だったが、問題は『ナグァルラワン暗黒星団域』だった。
星間ガスが高速で流れ、不安定な重力バランスで恒星間航行が不可能なこの宇宙の難所は、状態が流動的であり、進攻時の環境予測を行うにも、詳細な観測が必要となる。そこで機動力に優れたサンザーの艦隊を観測任務に充てたのだ。
それぞれの目的のために分離した派遣軍のうち、さらにノヴァルナの第1艦隊とウォルフベルトの第5艦隊は、ノアの特務輸送艦隊を随伴させたルヴィーロの第3艦隊と分かれ、ウモルヴェ星系の第8惑星へ向かった。
すると11月27日、ノヴァルナの第1艦隊が配置していた哨戒駆逐艦が、星系外縁部にイースキー家と思われる艦隊が、超空間転移したのを察知したのである。
「哨戒駆逐艦『ハウバーバル』より入電。“敵艦見ユ。ワレヨリノ方位056プラス12、距離7万3千”」
イースキー軍宇宙艦隊を最初に発見した駆逐艦からの報告内容が、総旗艦『ヒテン』の艦橋中央に展開した、戦術状況ホログラムに反映される。11個あるウモルヴェ星系の惑星の、その一番外側を回る惑星の、さらに外側に輝き始める光点。一つだけだったその光点は、駆逐艦『ハウバール』が補足した艦の数が増えるにつれて、司令官席のノヴァルナが眺める前で、瞬く間に数を増やしていった。
さらに『ハウバール』の近くにいた僚艦も集結して来て、数隻がかりで精度の高い探知情報を『ヒテン』へ送り始める。
「敵艦数322隻」
「敵艦構成。戦艦級36、巡航艦級56、駆逐艦級172、打撃母艦級38、巡航母艦級20」
「敵は四個艦隊」
そして「敵艦隊は第四惑星カーティムルへ、直進コースを取る模様」という報告で、ノヴァルナは命令を発した。
「これより発進する」
それを聞いて、司令官席の傍らにいた艦隊参謀の一人が、怪訝そうな表情を浮かべてノヴァルナに問い質す。
「発進…でありますか?」
「おうよ」
「この第八惑星近郊で、敵を待ち受けるのではなかったのですか?」
「なかったのです」
冗談交じりに返答したノヴァルナはさらに続けた。
「針路を第九惑星へ。ウォルフベルト殿の第5艦隊へも伝達」
すると程なくして、第5艦隊のウォルフベルト=ウォーダから、ノヴァルナのもとへ直接通信が入る。突然の方針変更の真意を確認しておきたいのだろう。通信ホログラムスクリーンに、三十代後半の切れ長な眼をした、男性武将の上半身が映し出された。同じウォーダの一族だが、ノヴァルナの血筋より遠い傍流であるため、年上ではあるが口調は丁寧だ。
「ノヴァルナ様。このご命令には、どのようなお考えがお有りか?」
「第八惑星で待ち伏せしたのでは、罠に陥るからです」
「罠?」
思いがけない言葉に眉をひそめるウォルフベルト。
「敵が第四惑星への直進コースを取ったという事はむしろ、我々がこの第八惑星周辺で待ち伏せをしているという前提で、襲撃に備えていると思われるからです」
「その根拠は?」
「我々の派遣軍の編制などは、メディア発表を通じて、イースキー家も知っているはず。それでいて我々と同程度の戦力で迎撃して来たというのは、こちらの第3艦隊や第6艦隊を分離する事まで、知っての事に違いありません」
そう言うノヴァルナの意識には、メディア発表以上の情報―――作戦情報をイースキー家へ流したであろう人物の名が浮かんでいた。
アイノンザン星系のヴァルキス=ウォーダ…と
▶#08につづく
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