10 / 526
第1話:ミノネリラ進攻
#08
しおりを挟むヴァルキス=ウォーダ。ミノネリラとミ・ガーワの両宙域に睨みを利かせる、戦略的要衝でもある植民星系アイノンザンを本拠地とする、ノヴァルナのいとこにあたる若者である。
ウォーダ家全体の掌握を密かに目論み、ノヴァルナに接近。旧宗家イル・ワークラン=ウォーダ家討伐に功を挙げるも、昨年のイマーガラ家のオ・ワーリ宙域侵攻の際に本性を現して、イマーガラ家側へ寝返った。
そのイマーガラ家は“フォルクェ=ザマの戦い”で、当主ギィゲルト・ジヴ=イマーガラが戦死。大打撃を受けて撤退した事は記憶に新しい。
これにより、ノヴァルナの勢力圏内に孤立したアイノンザン=ウォーダ家だが、再三の降伏勧告にも関わらず、現在も沈黙を続けていた。ノヴァルナからすれば、顔に泥を塗られた形だが、性急に討伐部隊を差し向ける事はしていない。ヴァルキスはイル・ワークラン=ウォーダ家打倒などの功績で、これまでに四つの植民星系を褒美としてノヴァルナから下賜されており、恒星間打撃艦隊も五個にまで増強していたからだ。
五個の恒星間打撃艦隊と言えば、ノヴァルナのキオ・スー=ウォーダ家が保有する、十四個の恒星間打撃艦隊と比べれば圧倒的に少ない。
だがそれだけの戦力差があっても、ノヴァルナには油断できない要素があった。それはアイノンザン=ウォーダ家が有する、高い情報戦能力である。ヴァルキスが味方であった頃は、その情報戦能力で大いに助けられ、イマーガラ側に寝返られた際は、キオ・スー=ウォーダ家の情報が全て、イマーガラ家へ筒抜けになった。こういう相手であるから、ノヴァルナとしても討伐に慎重にならざるを得ないのだ。
それに心情的にもノヴァルナにはいまだに、ヴァルキスを滅ぼしてしまいたくはない、という気持ちがあった。気が合う相手にはつい甘くなるのがノヴァルナの欠点だったが、同じ方向を向く事さえできれば、才能豊かなヴァルキスは強力なパートナーになるのも確かだからだ。しかし今回のように、ミノネリラ宙域への進攻にまで、妨害工作を仕掛けて来るようならば、やはり決着をつけてしまわなくてはならないだろう。
イースキー家艦隊を迎え撃つため動き出す『ヒテン』の艦橋で、ノヴァルナは司令官席の前に、小振りなホログラムスクリーンを展開し、今現在の自分達の位置とアイノンザン星系周辺までの宇宙地図を呼び出した。そしてその表示内容を確認して、小さく呟いた。
「ふん。ラゴンからじゃ、やっぱ遠いな。一つ、二つ…前線基地が必要か」
そのヴァルキス=ウォーダは、本拠地惑星アイノゼアにおり、アイノンザン城の私室で副官のアリュスタを傍らに、戦術状況ホログラムが映す、“ウモルヴェ星系会戦”の状況を眺めていた。雌雄同体のロアクルル星人のアリュスタは、ヴァルキスの愛人でもある。それもあって私室にいる二人の距離は、主君と側近の距離よりはるかに近い。
「イースキーの迎撃艦隊は、第四惑星カーティムルへ直進するようですね」
「………」
無言で戦術状況ホログラムを眺め続けるヴァルキスに、アリュスタは小首をかしげて問い質す。
「何か…ご不満ですか?」
するとヴァルキスはアリュスタの細い腰に手を回し、苦笑しながら告げた。
「もとより私は、オルグターツ殿を評価などしていなかったが、ここまでとはな…いや、これを決定したのはあの無能な二人か。それでは仕方ないか」
ヴァルキスが言う“無能な二人”とは当然、イースキー家で権勢を振るっているビーダ=ザイードと、ラクシャス=イルマの事である。
「そのように辛辣に申されるほど、彼等は無能ですか?」
「無能だね―――」
バッサリと切り捨てたヴァルキスはさらに続けた。
「イースキー家迎撃艦隊司令官の、顔ぶれを見ればわかるさ。ロックベルト=アーダッツの名は聞いた事があるが、あとの三人は知らない名だ。どうせあの無能者二人の子飼いの武将だろうが、ここはノヴァルナ様を斃す事を最優先にして、“ミノネリラ三連星”を中心とした、最大戦力を投入すべきなんだ」
「そう言えば、イースキー家では昨年の“フォルクェ=ザマの戦い”を、ギィゲルト様の油断とノヴァルナ様の幸運の結果だと、評価しているようですね」
「だから無能なんだ。ドゥ・ザン様の頃だったなら、そんな間抜けな評価はしないだろう。無能な指導者には無能な側近しか集まらない。無能な指導者は聞く耳を持たないし、無能な側近は聞こえのいい事しか言わないからね」
ヴァルキスの言葉が側近論にまで及ぶと、アリュスタは片方の手をヴァルキスの方に置いて、僅かな笑みと共に言う。
「私も気をつけねばねりませんね」
それに対しヴァルキスは、アリュスタの手に自分の手を重ねて応じた。
「きみは大丈夫さ。私が間違っていれば、叱ってくれるからね」
「では以前、閣下がノヴァルナ様と敵対される事を打ち明けられた時、私が反対していたら、聞いて下さいましたか?」
少し詰問口調で訪ねて来るアリュスタに、すまし顔で「いいや」と返すヴァルキス。その眼前の戦術状況ホログラムでは、第八惑星から移動を開始するノヴァルナ艦隊のマーカーが映し出されていた………
▶#09につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる