銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第1話:ミノネリラ進攻

#17

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 通信途中にホログラムスクリーンが真っ白になったかと思えば、オペレーターから届くキャンベルの旗艦が爆発を起こしたという報告に、フィビオもナーガイも顔が死人のように青ざめる。もはや「どうする?」などと呑気に訊き合っている場合ではない。

「に、逃げるぞナーガイ殿!」とフィビオ。

「だが、このままバサラナルムへ戻っても、ザイード様やイルマ様に!」

 …下手をすれば処刑される、という続きの言葉を自分の喉の奥に押し込むナーガイ。それに対し、フィビオは武人にあるまじき事を言った。

「キッ!…キャンベル殿のせいにすればいい! キャンベル殿の進言に従ったために、ウォーダ軍の待ち伏せに遭ったと!」

「なるほど!―――」

 死人に口なし、なすりつけ放題というわけである。どうやらフィビオもナーガイも将官として未熟なだけでなく、かつてウォーダ家で策謀にまみれていた、クラード=トゥズークに近い人物のようだ。唖然とする旗艦艦長や艦隊参謀の前で、ナーガイは「よし。それで行こう!」と言い放ち、艦長や参謀に向かって険しい表情で命じる。

「お前達も口裏を合わせるんだぞ。いいな!」

 しかし状況にはそんな艦隊指揮も行わずに、自分達の保身を相談していい余裕など、存在していない。距離を近づけて来て、旗艦の位置を特定したノヴァルナの戦艦部隊が、集中砲火を浴びせ始めたのだ。フィビオとナーガイの各旗艦の周りで閃光が無数に輝き、旗艦を護衛している戦艦も次々と被弾する。

 ノヴァルナ麾下の艦隊は昨年のイマーガラ家侵攻軍との戦いで、宙域国の存亡を懸けた戦いを経験した事で、練度は桁違いに向上していた。
 そのうえ第三者からすれば評価に是非はあるものの、ヴァルキス=ウォーダの暗躍で今のウォーダ家は、反ノヴァルナ派がほとんど排除されており、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち取った自分達の主君を信頼し、士気も高い。前述のイースキー艦隊の状況とのそういった差が如実に表面化し、砲撃戦は一方的にウォーダ側が優勢なものとなる。

 大きな直下型地震に見舞われたような激しい衝撃に、旗艦の司令官席から転げ落ちるナーガイ。アクティブシールドの崩壊に続き、艦本体を包むエネルギーシールドが過負荷となって、外殻に直撃を受けたという報告。そしてひときわ大きく輝いた閃光は、たった今まで話していた同僚のコーザルネ=フィビオが座乗する、イースキー軍第12艦隊旗艦の爆発光だ。「ひい」と甲高い声を上げたナーガイは、取り乱した様子も隠さずに叫ぶ。

「逃げろ! 早く逃げろぉ!!!!」
 
 単縦陣で一列に並んだ七隻の宇宙戦艦―――第1戦隊の主砲による一斉射撃に晒された、フィビオの旗艦が引き裂かれで爆散する光景を、『ヒテン』に帰還し、すでに『センクウNX』から降りていたノヴァルナは、司令官席に深く座って腕組みをしていた。その表情にはどこか、余裕のようなものが感じ取られる。ここまでの一連の戦闘で敵の練度が、思った以上に低いからだ。

 イースキー家の各艦隊旗艦の家紋をデータ照合し、四人の司令官名も知れたが、やはりノヴァルナも第8艦隊司令のロックベルト=アーダッツ以外、聞いたことの無い人物であった。
 そこでノヴァルナは超空間通信を使って、第四惑星カーティムルの災害救援に赴いているノアと、参謀役を務めている元ドゥ・ザン=サイドゥの腹心ドルグ=ホルタに、彼等の素性を訪ねたのである。

 それによると第12艦隊司令のコーザルネ=フィビオは、ミノネリラ宙域の辺境部に位置する星系を所有する、独立管領フィビオ家の者らしく、ドゥ・ザンの代のフィビオ家は凋落気味であったようだ。
 また第10艦隊司令のモラレス・カイ=ナーガイのナーガイ家は、ドゥ・ザンとも因縁のある一族で、ドゥ・ザンの父ショウ・ゴーロン=マツァールが、当時のミノネリラ宙域星大名トキ家に、民間人から仕官した際、最初に仕えたのがトキ家家臣のナーガイ家だったのだ。モラレスのナーガイ家はその傍流にあたるらしい。
 第9艦隊司令のスーゲン=キャンベルについては、民間人登用の恒星間防衛艦隊司令を、ビーダとラクシャスがイースキー家の実権を握った際に、手駒として格上げした者であるからドルグ=ホルタも面識はない。

 要は将才より如何に扱い易いか、という基準でビーダ=ザイードとラクシャス=イルマが、司令官に据えた連中なのだろう…と見抜いたノヴァルナは、これは容赦する必要は無いように感じた。
 有能な人材なら戦ってみれば分かる。皇国中央部を目指す今後の事を考えれば、そういった人材には投降を勧めて、配下に迎えたいのが今のノヴァルナだ。しかし数的優位を活かす程度の実力もなく、有力者の腰巾着に収まっているような者に、用は無い。そういった人種が行きつくのは、旧キオ・スー家のダイ・ゼン=サーガイや、カルツェの側近であったクラード=トゥズークのような、佞臣ねいしんであろうからだ。

「残った敵旗艦も、逃がさず仕留めろ」

 ノヴァルナがそう命じると、ほどなくしてナーガイの乗ったイースキー軍第10艦隊旗艦は、艦が真っ二つになるほどの爆発を起こして砕け散った。



 そして時間は遡り、星間ガス雲の中からノヴァルナ直率の戦艦部隊が現れた時。一瞬で大量に輝いた爆発の閃光は、イースキー軍第8艦隊司令ロックベルト=アーダッツの乗る『レイフウAS』の、気を逸らせるのには充分だった。

「何が起きた!?」

 反射的に全周囲モニターの背後画面を振り向くアーダッツ。ただその僅かな時間は、『レイフウAS』と戦っているトゥ・シェイ=マーディンの技量なら、状況を立て直すに充分である。間合いに踏み込み過ぎて、相手のクァンタムクローによる鋭い刺突と、素早い斬撃から距離を取れずにいたが、『レイフウAS』が動きを止めた隙を見て、マーディンは機体に全速後進をかける。

「チィ!」

 舌打ちしたアーダッツは即座に、照準センサーの左腕に抱えていた超電磁ライフルを、投げるように構え直してトリガーを引いた。連射された六発の銃弾が、錐揉み機動を取るマーディンの『シデン・カイXS』を追うが、数マイクロ秒の差で命中せずに虚空だけを貫く。だが一方の『シデン・カイXS』も、ここまでの激闘で装甲外殻には無数の裂け目が発生し、一部では内部機構にまでダメージを受けていた。それが高速機動でによって、ガクガクガクとコクピットを激しく揺さぶる。

「く…」

 操縦桿を手放しそうになるほどの振動に歯を食いしばって耐え、錐揉み機動を終えたマーディンの『シデン・カイXS』の先にあったのは、宇宙空間を漂うに任せていた大型ポジトロンランスだ。闇雲に回避運動をしていたのではない。まだ使用可能な左手で、タイミングを合わせて鑓の柄を掴み取る。

「ええい。面倒な!」

 それまでの余裕を見せていた態度と打って変わり、新たな敵の出現に焦りの表情になるアーダッツ。艦隊指揮は凡庸であっても、優秀なBSIパイロットとしての状況判断が、頭の中で警鐘を鳴らしている。
 するとそこへ全周波数帯通信で聞こえて来たのは、ノヴァルナの高笑いと降伏を促す傲慢な口上。これに煽られたアーダッツは精神の平衡を失い、つい『シデン・カイFC』に対して、単純な直線的アプローチを行ってしまった。

 そしてそのような隙を見逃すマーディンではない。

 左腕に絞るように抱えていたポジトロンランスを、機体ごと回転させて放つ強力な打撃。その長い柄が『レイフウAS』の右脇腹を捉えると、コクピット内のアーダッツを、重力ダンパーの受容限界を超える猛烈な衝撃が襲った。


動きが止まる『レイフウAS』―――


Qブレードを起動させて急発進する『シデン・カイXS』―――


 動きが止まると、BSHOも親衛隊仕様BSIユニットも違いはない。すれ違いざまの一閃。血飛沫のような真っ赤なプラズマを腹から噴き出したのは、クァンタムクローを装備した右腕を振り抜きかけていた、アーダッツの『レイフウAS』であった。
 




▶#18につづく
 
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