銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第1話:ミノネリラ進攻

#18

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 かくして“ウモルヴェ星系会戦”の勝敗は決した。イースキー軍は四人の艦隊司令の全てが戦死。抵抗を試みた部隊もあったが、大半が逃走するか降伏。その逃走を図った艦も、ノヴァルナが直卒の第1艦隊から分離させていた、重巡航艦部隊の待ち伏せを受けて、停船させられる結末を迎えた。

 ちなみにノヴァルナが重巡部隊を待ち伏せさせていたのは、戦場から見てウモルヴェ星系第7惑星方向であり、戦死したスーゲン=キャンベルがフィビオとナーガイに進言した、後退コースであった。つまり第7惑星方向が空いているように思えたのは、ノヴァルナの二重に張った罠だったのである。



 皇国暦1561年11月30日。ノヴァルナは降伏したイースキー軍将兵と、武装解除したイースキー軍宇宙艦を引き連れ、大災害に見舞われた第四惑星カーティムルを訪れた。降伏したイースキー軍に、カーティムルの災害救援を手伝わさせるためで、同時に無論、カーティムルの被災状況を自分の眼で確認する意味もある。

「こいつはひどいな…」

 惑星カーティムルの衛星軌道に進駐した総旗艦『ヒテン』から、ノヴァルナは地表を見下ろして呟いた。

 銀河皇国植民惑星管理省のアーカイブから引き出した、植民惑星カーティムルの映像は緑色の美しい惑星であった。それが今は火山の大量噴火によって、大部分が赤黒く焼けただれてしまっている。所々で稲妻のような赤いラインが大地に走っているのは、いまだに火口から溶岩が流れ出ているのだろう。報告で聞いていたよりも惨い状況だ。

 すると『ヒテン』の後方から速度を上げて追いついて来る艦がある。ノアが座乗するカーティムル救援部隊旗艦の『クォルガルード』だった。すぐにノヴァルナのもとへ、ノアからの通信が入る。

「ノバくん。お疲れ様」

「おう、お疲れ。ノバくん言うな」

 いつも通りの軽いやり取りから入る二人だが表情は硬い。それがカーティムルの現状を見ての事なのは、言うまでもなかった。

「随分と酷ぇじゃねーか…救援状況は?」

「思っていた以上に酷いわ―――」

 ノヴァルナと同じ気持ちを言葉にしたノアは、さらに続ける。

「ルヴィーロ様の第3艦隊にも支援してもらってるけど、もしかしたら全住民の、惑星脱出が必要かも知れない」

「そんなに酷いのか?」

「うん。それなんだけど…なんか、おかしいのよ」

 妻の言葉に眉をひそめるノヴァルナ。

「おかしい?…なにが?」

「そもそもこの星、こんな天変地異が起きるような要素は無いのよ」

「なに?」
 
「この惑星のマントル対流状況をスキャンしてみたんだけど、今回みたいな惑星全土で火山噴火が、同時多発するような要因は発見できないの」

 そう言うノアの言葉は、道理に沿ったものであった。そもそも銀河皇国が植民惑星を選定する条件は幾つかあるが、その中でも安定した惑星環境は、選定条件の最上位の一つだった。
 現代の銀河皇国の科学力を持ってすれば、惑星環境の千年単位の変動予測も可能であり、将来的に今回のような大規模な天変地異が発生する可能性が高い惑星は、資源惑星として利用する事はあっても、一般人の植民は行われないのだ。

「星系規模で異変が起きた…とかはないのか? 大質量の自由浮遊惑星がカーティムルの至近距離を、通過して行ったとか」

 ノヴァルナはカーティムルの天変地異が、惑星自体の内的要因ではなく、何か別の影響を受けた外的要因によるものではないかと考え、ノアに伝えた。ただノアの疑念の表情は変わらない。

「それならそれで、天変地異をもたらした原因が、この星系の内外で見つかるはずだし、カーティムルの行政府でも事前に掴んでいたと思うの。でもそんな自由浮遊惑星の接近や、小惑星の激突や、他の周回惑星の異変は起きてないようだし」

「つまりは、原因不明ってことか…」

「現時点では…ね―――」

 夫にそう言ったノアは、続けて提案した。

「ともかく、詳しい話は直接会ってからにしましょ。まずは、住民の救援が最優先だし。原因究明はそちらが片付いてからね」

「わかった」



 ノヴァルナが降伏したイースキー軍部隊に、カーティムル救援を手伝わせたのは正解であった。

 彼等とて、『閃国戦隊ムシャレンジャー』に登場するような、悪の軍団ではなく人の子である。惑星カーティムルの惨状を自分の眼で見た彼等は、ノヴァルナに指図されずともすぐに、積極的に救援活動に参加するようになった。陸戦隊のシャトルを降下させて、溶岩の中に孤立した町から住民を救い出し、宇宙空母の広い艦載機格納庫は、収容した被災民の仮設住居で埋め尽くされる。軍人とは兵士とは、民を守るのが務めである。イースキー軍の兵士はその本分を思い出したのだ。ましてや被災民は自分達と同じ、ミノネリラ宙域に暮らす同胞なのである。それに対し、ウォーダ軍の方からもイースキー軍に、出来る限りの資材提供を開始した。
 ノヴァルナが意図したかどうかは、本人しか分からない事だが、少なくとも惑星カーティムル上では、ウォーダ軍とイースキー軍との協力態勢が早くも整い始めていたのである。
 
 一方ノヴァルナには、別の仕事もある。ミノネリラ宙域進攻を本格的なものとするため、橋頭保を築く地を策定する事だ。また同時に、ヴァルキス=ウォーダのアイノンザン星系への備えとなる、新たな基地も考えなければならない。

 ミノネリラ宙域内の橋頭保といえば、現在駐留しているウモルヴェ星系も考えられるが、居住可能な第四惑星のカーティムルが大規模な災害に見舞われている現状では、むしろ全住民の惑星脱出を検討する必要がある状況では、如何ともし難い。それにイースキー家の本拠地イナヴァーザン城のある、惑星バサラナルムまでの距離を思えば、前線基地とするには不向きであった。

 12月4日。分離して周辺宙域の調査に出ていた、カーナル・サンザー=フォレスタの、ウォーダ軍第6宇宙艦隊が惑星カーティムルへ“帰還”する。現在地からイースキー家の本拠地惑星バサラナルムを攻略するための、前進基地を設営するのに適した場所を調査して来たのだ。

 衛星軌道上に浮かぶ総旗艦『ヒテン』に移乗し、ノヴァルナのもとに報告に訪れたサンザーは開口一番、眼下のカーティムルの光景に、自分の主君と同じ思いを口にした。

「惑星の様子…よろしく無いですな」

 執務室でサンザーに応対するノヴァルナも丁度、カーティムル救援部隊からの、最新の状況報告に眼を通しているところであった。眺めていたホログラムスクリーンから、ため息混じりに顔を上げてサンザーに振り向く。

「ああ。科学班の分析じゃ、火山の方は小康状態らしいが、惑星内部のマントルの流れが変異しちまってるらしくてな…噴火は収まっても、今後は大規模地震が頻発するようになるって予測だ」

 ノヴァルナの言葉は言外に、この星はもはや植民惑星としての道はない事を示していた。ただノヴァルナはカーティムルの話はそこまでにして、本題に入る。

「それはそうと、ご苦労だったサンザー。概ね順調だったようだな」

「はっ…イースキーの連中が迎撃して来るかと期待しておったのですが、何も起きませんで、些か退屈致しました」

 聞きようによっては、主君に対し不遜とも思えるサンザーの言いようだが、この人物の為人ひととなりをよく知るノヴァルナは、むしろ口元に笑みを浮かべた。

「そいつは悪かった。で…結論から訊く。前線基地に一番適した場所は?」

 ノヴァルナの問いに表情を引き締め、サンザーは指先で右のこめかみを軽く押してNNLを起動させる。データをノヴァルナの眼前に展開された、ホログラムスクリーンに転送し、きっぱりとした口調で告げた。



「『ナグァルラワン暗黒星団域』内にあります空隙…『スノン・マーダー』。こちらが最適と思われます」






【第2話につづく】
 
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