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第2話:キノッサの大博打
#11
しおりを挟むアル・ミスリル採掘・精製プラントには実に多くの人間とアンドロイド、そしてロボットが働いていた。その規模は廃棄された植民惑星のものとは思えないほどであって、プラントがある岩山の周囲には、手造りの住居が集まった村落のようなものまで存在している。
そんなプラントの中を、出迎えのアンドロイドの先導で、キノッサ、カズージ、ホーリオの順で進む三人。今しがたのアンドロイドの発言が気になっているのか、キノッサの肩越しにカズージが訪ねて来る。
「キノッサぞん。キノッサぞん」
「なーんスか?」
「あんロボットんバ言うた、“お帰り”った、なん意味ザ?」
「ウォーダ家に来る前は俺っち、ここで暮らしてたんスよ」
「ほへぇ~」
これが聴覚装置に入ったのか、先頭を歩くアンドロイドが口を挟んだ。
「お猿はここで、親分の雑用係をしてたんだよ」
それを聞いてカズージは魚のような大きな眼を、ギョロギョロさせながら、からかうように言う。
「プへへ…雑用係んザ、今と一緒じゃねっが」
「ほっとくッス!」
そうこうするに三人はプラントの最上部にある、所長室へ到着した。両開きの扉がスライドすると、誰かと話す野太い男の声が聞こえて来る。アンドロイドに促されて部屋に入った三人の前には、広い窓際にこちらへ背中を向け、通信機を左手に大声で話す体格のいい男の後ろ姿がある。
「とにかく、出荷量は維持させろ! こっちからも修理に回せられる奴は、全員向かわせるからよ。いいな!!」
そう言い放って回線を切り、通信機を上着のポケットにねじ込む男。アンドロイドはその男の背中に声を掛けた。
「親分。お猿…いや、キノッサが着いたんで、連れて来ました」
それを聞いて、「おお、そうか」と言いながらグルリと体を振り返らせる男。黒い髪が伸ばした顎髭と一体となって、まるで獅子の鬣を思わせる、三十代後半と見えた厳めしい顔の男だ。その表情が厳しいのは、あるいは怒っているのかも知れない。一歩進み出たキノッサは深々とお辞儀をして、大きな声で挨拶の言葉を発する。
「ただいま帰りました。ハートスティンガーの親分!!」
すると“ハートスティンガーの親分”と呼ばれた男は、厳めしい表情のまま口許だけをニヤリと歪めて、キノッサの言葉に応じた。
「久しぶりじゃねぇか、キノッサ。だがおまえ…ここへは二度と帰らねぇ決心で、出て行ったんじゃねぇのか?」
“ハートスティンガーの親分”―――本名マスクート・コロック=ハートスティンガーは、この惑星ラヴランを根城として、鋼材の密造・密輸を生業とする独立集団の長であった。
ハートスティンガーの一族は、およそ百年前の『オーニン・ノーラ戦役』の際、結果的に敗軍となったヤーマナ家に属していたため、元の領地を逐われた武将の一族であり、一部の家臣達と共に流浪の身となったのちに、この廃棄された植民惑星ラヴランに辿り着いたものだ。
それ以来ハートスティンガー達は、放置されたままであった鉱石採掘・精製プラントの、幾つかを整備し再稼働。アル・ミスリルの採掘と精製を皮切りに、現在では各種の鋼材などの交易業を営んでいる。
事業自体は順調に拡大し、やがては様々な理由で他の植民惑星から流れ着いてきた人々までが居住、プラントのある岩山周辺の住居群には、そういった人々も数多く住んでいた。ただしこれらは全て非合法なものであって、住民達はNNLとの接続も切れた、いわゆる難民である。
*****―――
「アンスナルバ星系…てことは、てめーがアテにしようとしてっのは、ハートなんとかって連中か」
まずは名称を伏せておくはずであった、ハートスティンガーの名をノヴァルナに出され、キノッサはギクリと肩を震わせた。
「なんでご存じなんスか!?」
「俺に雇われた時に聴取したじゃん。前はハートなんとかって連中の、世話になってたとかなんとか…」
確かにキノッサはウォーダ家に正式に召し抱えられた際、出自と経歴の申告を求められていた。しかしそれは直接ノヴァルナに告げたものではなく、しかも六年も前の事なので、どこかでノヴァルナが経歴に眼を通していたとしても、どうせ憶えていないだろうと思っていたのだ。
それにハートスティンガーの名は出しても、根城がアンスナルバ星系にある事はひと言も告げていないはずだ。キノッサの知らないところで、情報部辺りが動いていたのだろう。
“やっぱこの人相手に、迂闊な真似は出来ないッス”
そう感じてゴクリと生唾を飲み込むキノッサの視線の先で、ノヴァルナはとぼけた表情をして言い放つ。
「しかしそのハートなんとかってのが、俺に協力したがってる話なんざ、いっさい聞いた事ァねーぞ」
それもそのはず、ハートスティンガーがノヴァルナに協力したがっているという話など、キノッサの口から出まかせだったのだ。つまり…ハートスティンガーはまだ、味方ではないということであった。
▶#12につづく
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