銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第2話:キノッサの大博打

#10

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 キノッサ達が目的地のアンスナルバ星系へ到着したのは、一週間後の3月17日の早朝であった。

 アンスナルバはその名が示すように固有名詞を持つ、居住可能な惑星を有した恒星系である。ただそれは昔の話で、第三惑星ラヴランは確かに居住は可能だが、快適な環境とは言い難い、乾いた大地ばかりが広がる赤茶けた惑星であり、およそ二百年前には放棄されていた。
 というのもこの星系が植民星系とされたのは銀河皇国の初期の頃で、当時はまだ希少金属であったアル・ミスリルの産出を目的に、強引に植民惑星としたものだからである。それが時代を経て、もっと居住に適した環境で、アル・ミスリルを産出する惑星が幾つも発見されると、ラヴランのような住みにくい惑星は廃れていくのも、道理というものだった。

 年々干上がりつつある海は、ラヴランの地表の四分の一。植物の生えるのはその海の周辺か、点在する人工栽培農場のプラントぐらいだ。僅かばかりの白い筋雲を潜り抜けて降下を続けるシャトルの窓から、そんな地表の様子を見て、カズージが嫌そうな声を漏らす。

「うわっバ! こらまた乾いた星でねっが、キノッサぞん」

 カズージの種族であるバイシャー星人の母星ネッド・バイスは、惑星全土が湿潤な環境であり、そこで発生・進化して来たバイシャー星人は、乾燥した環境を本能的に忌避しているのだ。

「言ってくれッバ、ついて来んかったに!」

「なに言ってるッスか。それぐらい事前に自分で調べとくもんス」

「んな事ザ言われっも、キノッサぞんザ、アビザッジ・ジャブル・ブジェズスからだで、仕方ねぇバ」

「バイシャー語を混ぜられると、なに言ってるか分かんないって、いつも言ってるじゃないッスか!」

 言い合いをしながらも、手際よく降下作業を続けるキノッサとカズージ。そこに二人の後方で機関士席に座る、ホーリオがぼそりと報告する。

「誘導ビーコンを捕捉…」

 この一週間の三人の口数は、キノッサとカズージが4割5分ずつ、あとの1割がホーリオといったところであろうか。しかもこれにはシャトルの航行や、作戦に関する業務的会話も含まれての事であるから、ホーリオがいかに寡黙かが知れるというものだった。

「見えて来たッスよ。あそこがそうッス」

 降下軌道を水平に近いものにしたキノッサが前方を指さす。その先に見えて来たものは、尖って赤茶けた岩山の裂け目を埋め尽くす形に造られた、アル・ミスリルの鉱石採掘プラントだった。
 
 アル・ミスリルとは荷電精製する事で変質、透明金属化する特殊鉱物で、一般的には“透明アルミニウム”と呼ばれている。ヤヴァルト皇国が銀河に進出し、銀河皇国となった頃から、宇宙船の船窓などに使用され始めたほか、インフラ基盤の一つであるNNL(ニューロネットライン)の出力端末にも使用され、立体ホログラムスクリーンの空間投射に欠かせない素材となっている。

 南北に伸びた岩山の裂け目に建設されている巨大なプラント工場は、そのアル・ミスリルの採掘と精製を同時に行うもので、すでに百年以上は経過しているタイプのものだ。剥き出しの桁材と太いワイヤーが、幅はゆうに二百メートルはあろうかという、岩山の裂け目の間に無数に突き刺さり、まるで大昔の海底油田基地を思わせるプラント本隊を支えている光景は、岩山を引き裂いて、中から秘密基地が姿を現しているようにも見える。
 しかしながら、プラント自体は二百年以上昔の古いタイプのもので、荒涼としたラヴランの大地を吹きすさぶ、砂塵を含んだ強い風に晒され続けた事で、桁材もプラント本体も、表面は塗装がほぼ全て剥げ落ち、下地の金属の銀色にも輝きはなくなっていた。

 それでもプラントはまだ稼働しており、そこかしこで照明が灯り、白い蒸気が絶え間なく噴き出している。

 キノッサ達のシャトルはそのプラントの南側へ回り込み、本体からプールの飛び込み板のように突き出している、宇宙船の発着場へ降りて行った。エンジンを停止し、外部ハッチを開いて昇降ステップを降ろすと、たちまちシャトルの中まで乾いた風が吹き込み始める。カズージはハイネックの船内服の襟で、鼻まで隠して愚痴をこぼした。

「うわっバ。やはりこれバ、敵わんザ!」

「四の五の言ってないで、ついて来るッス!」

 キノッサはカズージを叱りつけ、無言のままのホーリオと三人でシャトルから降りる。そこには出迎えの古びれた汎用アンドロイドが一人だけ立っていたのだが、これがいきなり馴れ馴れしくキノッサに呼びかけた。

「おお。よく生きてたな。お猿」

 それを聞いて怪訝そうに顔を見合わすカズージとホーリオの前で、不躾に猿呼ばわりされたキノッサは、驚く様子も無く苦笑い交じりに応じる。

「相変わらず、口の利き方がなっちゃいないッスね。PON1号」

 するとアンドロイドは、「誰がPON1号やねん!」と思いもよらぬツッコミを返し、さらにどこか懐かしそうな口調を感じさせる電子音声で続けた。

「お帰り、お猿」





▶#11につづく
 
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