銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
46 / 526
第3話:スノン・マーダーの一夜城

#04

しおりを挟む
 
「なんだいあんた達! おどかすんじゃないよ!!」

 訳も無くモルタナから叱りつけられて、キノッサは困惑気味に応じる。

「い、いえ…このまま軽巡の前進を続けるように、『ラブリー・ドーター』に指示して下さるよう、お願いしようと…」

 するとモルタナは、ようやく事情を呑み込んだようであった。バツが悪そうに、「あ?…ああ、分かったよ」と言葉を返して、『ラブリー・ドーター』へ遠隔操作している軽巡を、さらに前進させるよう命じる。

「どうしたんスか?…まさかあの“虫”に、なにか―――」

「なんでもないよ!!」

 急に不機嫌になったモルタナに、キノッサはハートスティンガーと顔を見合わせて、サッパリ分からん…とばかりに肩をすくめた。その直後である。前方にあった旧サイドゥ家の宇宙ステーションから、再び小型艇―――いや、サシガメのような巨大昆虫が二十体以上飛び出して来た。さらに前進していた二隻の軽巡に、たちまち取り付いていく。

 するとそこへ、自己の重巡に座乗しているダイナンから連絡が入った。

「たった今、あの昆虫のようなものの、スキャンによる大まかな分析が終了した。そちらへデータを転送する」

 元武将のダイナンの乗っているのは重巡航艦であり、ハートスティンガー達の民間貨物船には無い、高精度の解析装置も搭載している。それが軽巡航艦に取り付いた昆虫型生物を、解析したのである。圧縮されたデータの受信を終えると、それを解凍したものがメインスクリーンに開示された。昆虫型生物の外面構造図と様々な解析数値に、それをグラフ化したものが幾つも並んでいく。

「えーと…つまり…なんだこりゃ? 何をどう読みゃいい?」

「さぁ?」

 こういった科学分析データの読み取り方には素人の、キノッサとハートスティンガーは、揃って首を捻る。すると背後から思わぬ人物が発言した。ここまで寡黙が売り物のようであったホーリオである。

「自分、近くで見て、いいですか?」

 大柄のホーリオの声は重く響くコントラバス。自分から喋り出す事はまず無かったため、キノッサはびっくりして振り返った。

「も…もちろんス」

 ホーリオはスクリーンに歩み寄り、表示されているデータを黙読すると、すぐにキノッサ達に告げた。

「とても興味深いデータです。あの昆虫のようなものは、生物と機械の中間にある存在で、“生きた機械”とでも呼ぶのが正しいでしょう」
 
「機械と生物の中間?…なんスか、そりゃ?」

「生きた機械って、どういう事だ?…自律思考式って事か?」

 キノッサとハートスティンガーが口々に疑問を口にする。二人に向けホーリオは背中を丸めて、スクリーンに表示されているデータの一部を指さして、丁寧な口調で応対した。

「いいえ。このデータを見る限り、金属製組織で構成された本体が、神経細胞と似たものを伸ばし、機械装置と融合して自己修復・自己改造を行うようです」

「はぁ…」

 画面上の数値やグラフを指さされても、何を示しているのか理解できないキノッサやハートスティンガーは首を捻るしかない。そこにさらにデータを詳細に分析したP1‐0号が、新たな情報を追加する。

「あの昆虫のようなのはどうやら、宇宙ステーションにあった船外作業艇を同化、改造したもののようだね。推進出力は上がっているが、エンジンそのものはミノネリラ宙域にある企業、ライマック航宙発動機のCF3000シリーズだ」

 そう言ってP1‐0号は別のスクリーンに、あのサシガメのような機械生物の原型と思われる、旧サイドゥ軍の船外作業艇の姿を、データバンクから掘り起こして映し出した。前後のやや長いラグビーボール状の機体の前方には、四本のマニュピレーター…脚の数と位置の違いはともかく、体の形状は似ていなくもない。

「だけどどうして、わざわざあんな“虫みたいな形”にしたのさ?」

 不機嫌そうなままのモルタナが問い質す。

「おそらく、あれを操っている“本体”自体が、昆虫のような形状をしているのだと思われます」

「そ、そうかい…」

 右手で左の二の腕をさすりながら、モルタナは“聞くんじゃなかった”というような表情で頷いた。するとP1‐0号がモルタナに訊き返す。

「失礼ですがクーギス様。あなたの口調を分析したところ、“動揺”“怒り”“隠蔽”といった感情の比率を、高く検知しました。“あれ”について、何かご存じなのでしょうか?」

 P1‐0号の言葉でその場に居合わす全員が、モルタナに視線を集めた。注目される事にはやぶさかでないはずのモルタナだが、ここでもいつもと違って大きく身じろぎし、眼を泳がせた。

「なっ!…なんだい。あたいは、何も知らないよ!!」

 だがそんなモルタナの態度が、キノッサ達を納得させるはずも無く、かえって追及されるだけなのは言うまでもない。

「え?…え? モルタナのあねさん。ホントに何も知らないんスか?」

「そうだぜ、ねえさん。今は一つでも情報が欲しいんだ」

 キノッサとハートスティンガーに質問され、モルタナはムキになって否定した。

「知らないっつってんだろ!!」




▶#05につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...