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第3話:スノン・マーダーの一夜城
#03
しおりを挟むそれからおよそ一時間後、『クーギス党』の『ラブリー・ドーター』が、二隻の軽巡航艦を前方に並べ、FT‐44215星系第十一番惑星へ向けて、前進を開始していた。
惑星ラゴンで受領した二隻の軽巡は、『クーギス党』の縄張りの中立宙域まで運ぶのが目的であったため、もとから無人であり、後方の『ラブリー・ドーター』から遠隔操作されていたのだ。
初動時に先行させた貨物船二隻が、宇宙ステーションを発進したものと思われる小型艇らしきものを発見した直後、連絡を絶った事から、まずは同じ状況で何が起こるか探ろうという判断である。
モルタナはキノッサやハートスティンガーと共に、『ブラックフラグ』号に乗っており、先行させた二隻の軽巡から送られる映像やセンサー反応を、『ラブリー・ドーター』の中継によってチェックしていた。
「軽巡航艦…現在、ステーションより約3千万キロ。1分22秒のタイムラグで拡大光学映像、来ます」
オペレーターがそう告げると、『ブラックフラグ』号のメインスクリーンに、第十一番惑星とその傍らに浮かんでいる、旧サイドゥ家の宇宙ステーションが映し出された。距離があるためリアルタイムの映像ではなく、1分22秒前の映像だ。
宇宙ステーションはフレームで組み上げた立方体をしている。キノッサは以前、コーティー=フーマから情報を得た際に、ステーションの画像も取得していた。それをデータパッドに表示させて、違いがあるか判別してみる。
「うーん…外見は、異常なしみたいッス」
確かに外見的には、何かが変わっている様子はなさそうである。ただステーションの外部ポートには、マッチ棒のような姿の細長い宇宙船が接舷していた。
「これは…なんだバ?」
カズージがその宇宙船らしきものを指さす。隣にいた寡黙なホーリオは、無言のままで首を傾げた。それに応じたのはP1‐0号だ。
「船の形からすると、皇国科学局の学術調査船で見かける型だね。稼働はしていないようだが」
「学術調査船だと? なんでそんなもんが…」
ハートスティンガーは黒い顎髭を指先で撫でながら、画面を睨みつけた。するとその時、宇宙ステーションから豆粒ほどの小型の飛翔体が、十機ほど発進するのが映し出される。おそらく先行した貨物船が、音信不通になる前に報告して来た、正体不明の小型艇だと思われた。
「出たッス!」
キノッサがそう言うと、モルタナは『ラブリー・ドーター』に指示する。
「『ラブリー・ドーター』、手筈通り後退しな!」
小型艇が出現したら、無人の軽巡航艦のみを遠隔操作で前進させ、『ラブリー・ドーター』は後方へ下がる事になっている。モルタナの指示に従って二隻の軽巡が速度を上げると、小型艇群との距離が一気に詰まった。接近して来る小型艇の姿が次第にはっきりとなる。
「船外作業艇か?…あれ」
スクリーンを見据えて訝しげに言ったのは、ハートスティンガーだった。映像を拡大すると小型艇の下部には、折りたたまれた細長いマニュピレーターのようなものが六本、取り付けられているのが見えるからだ。ただ船外作業艇にしては、異様に速度が速い。アプローチの仕方も規範から大きく逸脱している。それがハートスティンガーに疑念を抱かせていた。
するとその直後の事である。十機ほど…正確には十二機の小型艇は二手に分かれて、二隻の軽巡に取り付いた。その時になってキノッサ達は、小型艇と思っていたものが、実際には昆虫のカメムシのような形をしており、六本のマニュピレーターらしきものは、折り畳んだ脚だった事が判明する。
「ありゃぁ…デカい虫か?」とハートスティンガー。
「見た目は虫…ッス、よねぇ」とキノッサ。
「虫が宇宙を飛べるのか?」
「さぁ…」
「………」無言のままのモルタナ。
生物とも機械ともつかない“それ”らは、次々と軽巡航艦の外殻に、脚でへばりつくと頭部を押しつけ、先の尖った嘴を突き刺し、穴を抉り開けようとし始めた。真空無音の宇宙空間であるが、ガリガリ!…と音が聞こえて来そうな激しさで、軽巡の外部装甲版を掻きむしる。カメムシのような見た目だが、実際は同じカメムシ科の中でも肉食のサシガメを思わせる。これを見ると、先行させていた貨物船にも同様の事が起きて、穴を開けられた可能性が高い。
しかし今度は軍用の宇宙船である。軽巡航艦といえど外殻は、一般の貨物船とは比べ物にならないほど厚く、硬かった。表面が幾分削られていってはいるが、そう簡単に穴は開きそうにない。
「どうするよ?…このまま二隻とも、前進させてみるか?」
「そうッスね」
キノッサが同意するのを聞き、ハートスティンガーはモルタナに告げる。
「姐さん。あんたの船に言って、軽巡だけこのまま前進させてくれねぇか」
「………」
ところがモルタナは、スクリーンを凝視したままピクリとも動かない。「モルタナの姐さん」とキノッサが呼びかけるが、それでも無反応だ。不審に思ったキノッサは、さらに強い口調でもう一度呼びかける。
「モルタナの姐さん!!」
するとモルタナは「ひゃいっ!」と頓狂な声を上げ。心底驚いた表情をキノッサと、ハートスティンガーに向けた。鉄火肌の彼女にしては珍しい反応だ。
▶#04につづく
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