49 / 526
第3話:スノン・マーダーの一夜城
#07
しおりを挟むP1‐0号の解析によれば、機械生物に寄生された人間は、鋭い嘴のようになった口を脊髄に突き刺され、神経組織を乗っ取られて操られているらしい。体を乗っ取られた人間が、四つん這いで素早い動きを見せたのは、人間としての動きではなく、昆虫のような機械生物の動きをトレースしているからだという。
「実に興味深い生命体です。動力はおそらく超小型の量子位相変換炉。体の動作は金属繊維が、筋組織と同じ機能を果たしていると思われます。その他の構造や組成を見ても、我々銀河皇国のテクノロジーとは、別の技術体系に属しているのは明らかです」
「別の技術体系…どこからそんなもんが…」
P1‐0号の言葉に、ハートスティンガーは訝しげに呟き、さらにキノッサは疑問を口にした。
「機械生物と言ったッスが、単にロボットじゃないんスか?」
「元はロボットだったのは、間違いないね」
「元は、ッスと?」
「元は何らかの作業を行うため開発された、昆虫型ロボットだったであろう事は、間違いない。ただそれはずっと大昔の事で、そこから独自に進化を続けて、現在の生物的特性を身に着けた、形態となったと考えられるんだ」
「レンバル・ガジャン…ズン・ハッタ?」
カズージがバイシャー語で問うと、P1‐0号は公用語で応じた。
「自己保存と増殖の本能だよ」
「本能だと?―――」
ハートスティンガーは、診察台の上の遺体に視線を移して尋ねる。
「コイツみたいに人間に寄生して、操るのが本能だってのか?…というか、機械の生き物がどうやって、生身の人間に寄生出来てるんだ?」
するとP1‐0号はスクリーンの表示を、遺体の透視映像に切り替えて述べた。
「それは重要な案件です。機械生物は人間そのものではなく脊髄に同化している、半生体のNNLリンクユニットに、この尖った嘴のようなものを突き刺し、強制接続して操っているのです」
「NNL(ニューロネットライン)だって!?」
銀河皇国に属している人間はヒト種もその他の種族も、幼少時に脊髄へNNLのリンカーを移植される。これは入力用ナノマシン半生体ユニットとなっており、これがあるおかげで、皇国民は操作端末無しにNNLを使用し、各種のサービスを受ける事ができるのである。
機械生物はこの半生体ユニットを支配下に置く事によって、宿主の神経組織を制御、肉体を操っていたのだった。
「NNLを乗っ取って、人間を操る事のどこに、本能があるんスか?」
「さらなる進化のためだろうね」
「進化?」
「生き物は新たな環境の中へ放り込まれると、その環境に適応しようとする。つまり生存と繫殖のための進化さ。この機械生物達にとって、ヒト種や様々な種族で構成された銀河皇国は、その新たな環境だったんだと思う。そこでこの環境に一番適応している、人間に同化しようとしているんだろう」
「………」
信じ難いP1‐0号の推論を聞き、キノッサ達は互いに顔を見合わせた。するとハートスティンガーが進み出て、自身の懸念を問い質す。
「じゃあ、先行させて行方不明になった貨物船や、さっき連れて行かれた俺の部下達も、この機械のバケモノに取り付かれる事になんのか?」
「おそらく」
「なんてこった! なんか手はねぇのか、P1‐0号!?」
血相を変えるハートスティンガーに、P1‐0号はアンドロイドらしく、無感情な声で応じた。
「昆虫に似た習性を持つと仮定した場合、その場で同化しようとしなかった点から推察して、連れ去られた人間は一箇所に集められ、そこで同化行為が行われると考えられます。ただしその場所はここからでは捜索できません。中央指令室でメインシステムを立ち上げ、ステーション内のセキュリティサーチを、使用できるようにする必要があります」
「一刻を争うって話じゃねぇか!!」
拳を握り締めて声を張り上げたハートスティンガーは、キノッサに告げる。
「キノッサ! 『ブラックフラグ』から応援の人数を出して、中央指令室へ行く。そして部下達の居場所を突き止めて、助けに行く。それでいいな!?」
「え?…まぁ…」
圧を感じさせる剣幕に逡巡するキノッサをよそに、ハートスティンガーは大股で通信パネルへ歩み寄り、『ブラックフラグ』にいるモルタナへ連絡を入れた。
「おい、姐さん。急ぎで俺の部下を出せるだけ、ここへ応援によこしてくれ。少々強引だが、これからすぐに中央指令室へ向かうぜ!!」
しかし応答するモルタナは普段、荒くれ者との駆け引きも多い。ハートスティンガーの威勢もまるで通用せず、不審げな響きがある口調で問い質して来る。
「ちょいと待ちな。あんたらの大将はあんたじゃなくて、キノッサなんだろ。その辺りはちゃんと、筋を通してるんだろうね!?」
「お…おうよ」
釘を刺された形のハートスティンガーは、たじろぎながらキノッサを、通信パネルの前に引っ張り出した。おまえから頼め…という事らしい。
「姐さん、キノッサっす。親分の言った事には、俺っちも同意してるッスから、よろしくお願いするッス」
キノッサが大人しくそう言うと、通信パネルの向こうでモルタナが、ため息をつくのを感じさせる。そして「わかったよ」と応じておいて付け加えた。
「あんたさ、その“親分”てのやめな。今はあんたが親分なんだからさ」
「いや…ははは…」
言葉ではあのノヴァルナとも、互角以上にやり合うモルタナであるから、口が達者なキノッサであっても終始、押され気味にならざるを得ない。それでも問うべき事は問うた。囮として船外作業艇と同化した機械生物をおびき寄せ、取り付かせた二隻の無人軽巡航艦についてだ。
「それで姐さん。軽巡にくっついてる機械生物の方は、どんな感じッスか?」
「え…ああ。相変わらず夢中で外殻を引っ搔いてるよ。当分どっかに行ったりは、しないだろうさ」
「じゃ、じゃあ。モルタナの姐さんもこっちへ来て、手伝ってほしいッス!」
するとその言葉に、モルタナの反応が一変した。通信機から聞こえる声には、明らかに動揺が感じられる。
「うえっ!? あ、あ、あたいもそっちに行くのかい!?」
「?…はいです。中央指令室へ移動したら、そこから指揮を一元化した方が、いいに決まってるッスから」
「………」
「モルタナの姐さん?」
「………」
「どうかしたんスか、姐さん!」
無言のモルタナを不審に思ったキノッサは、首をかしげて強めの口調で問い掛けた。モルタナは語気を強めて言い放つ。
「わかったよ。行きゃあいいんだろ、行きゃあ!!!!」
ヤケクソ気味に言い放って、モルタナは通信を切った。この宇宙ステーションに問題がある事を知っており、駆けつけて来てくれたモルタナだが、巣くっていたのがあの機械生物だと知った途端、態度がおかしくなって来ている。
「なんなんスかねぇ…」
指先で頭を掻くキノッサの向こうでは、ハートスティンガーがブラスターライフルを手に取って、早くも医務室を出て行こうとしていた。肩をいからせながら三人の部下に指示する。
「船から応援が来たら、すぐに仲間を助けに行くぞ。絶対無事に取り戻すんだ。いいな!」
こちらはこちらで勝手に突っ走りだしそうな勢いだ。その様子を見るキノッサの脇を通り過ぎざまに、P1‐0号が言う。
「実に興味深い…中央指令室へ行って、メインシステムを立ち上げたら、外に接舷している、あの学術調査船にアクセスしなければ…何らかの情報が、得られるはずだからな」
この期に及んでまとまりの無さを感じ、改めて指揮を執る事の難しさを痛感したキノッサはひとつ、大きな溜息をついた。
▶#08につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる