銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
52 / 526
第3話:スノン・マーダーの一夜城

#10

しおりを挟む
 
 セキュリティー用のコントロールポート上に、宇宙ステーションの全体透視図ホログラムが浮かび上がる。その最上部から最下部に向け、黄緑色の光の幕が透過するのがセキュリティースキャンだ。生命反応があれば、個別に赤い光点で表示されるはずだ。

 キノッサ達三人とハートスティンガーが見守る前で、スキャニング表示がゆっくりと透過を終えると、赤い光点の集合が立体透視図の二か所に出現した。一箇所は中央指令室…当然ながら自分達の今いる場所である。そしてもう一つは―――

「ここだ。ドッキングベイ!」

 立方体をした宇宙ステーションは、最下層全体が宇宙船のドッキングベイとなっている。そこの片隅に約三十個の赤い光点が、ひと塊になって鈍く輝いていた。
 およそ六百メートル四方の解放空間であるドッキングベイは、大型宇宙船の格納は不可能だが、先行させて行方不明になった高速貨物船三隻なら、捕えておく事が出来る広さがある。

 即座にハートスティンガーは部下達に命じる。

「よし。すぐにドッキングベイへ向かうぞ!」

 さらにキノッサには「ここに残って、あとを頼むぞ」と言い、虫が大の苦手である事が判明したモルタナにもフォローを入れた。

ねえさんも、ここでキノッサの奴を手伝ってくれ」

「あ…ああ。済まないね、そうさせてもらうと、助かるよ」

 さしものモルタナも、今回ばかりはしおらしく承諾する。また陸戦隊の経験があるホーリオも、キノッサからの指示を受け、ハートスティンガーと共にドッキングベイへ向かう事となった。

「状況を見て可能なら、ほかの船を呼んで、牽引作業の準備に入るッス!」

 中央指令室を出て行こうとするハートスティンガーに、キノッサはそう声を掛ける。彼等の本来の目的は、この宇宙ステーションを密輸団の貨物船で牽引し、『ナグァルラワン暗黒星団域』内の、『スノン・マーダーの空隙』まで移動させる事であり、時間的余裕はそれほど残ってはいない。
 なぜならタイムスケジュール的に、ノヴァルナが指揮する大規模陽動部隊がすでに、別方向から『スノン・マーダーの空隙』に向けて行動中だったからだ。

「分かってる…だが慎重にな!」

 ハートスティンガーは頷いて言葉を返し、ドッキングベイを目指して去った。すると作業に戻り、主対消滅反応炉を起動状況を確認するキノッサに、P1‐0号が報告する。

「お猿。あの機械生物についての新たな情報が得られた。やはりNNLを使うのは危険だ。使用するためには、機械生物の機能を停止させる必要がある」

「どういう事ッスか?」
 
 キノッサはP1‐0号に問い掛けながら歩み寄った。NNLを立ち上げられないと、『スノン・マーダーの空隙』に接近した際、ノヴァルナの陽動部隊や援護に来てくれる予定の、カーナル・サンザー=フォレスタが指揮するウォーダ軍第6艦隊との連携に、支障をきたす事になる。

「機械生物には、生存と増殖の本能が存在していると、ボクは言っただろう。どうやらその最終目的が、これのようだ」

「なんだい?…これは」

 P1‐0号がホログラムスクリーンに何かのデータを映し出し、映像記録を再生し始めると、モルタナも近寄って来て尋ねた。

「このステーションに横付けされている、例の学術調査船にリンクし、メインシステムを立ち上げて取得したものです」

 それを聞いてキノッサは、「ちょいちょい!」と声を上げる。

「迂闊にNNLを使っちゃ、マズいんじゃないっスか?」

「もちろんNNLは使ってないさ。おそらくここを根城にしていたという、略奪集団の仕業だろうが、有線ケーブルで繋げられていたんだ」

「で?…本題は?」

 モルタナが促すとP1‐0号は小振りなデータ画面を、自分の周囲にリング状に並べて説明を始めた。

 それによると学術調査船の名称は『パルセンティア』号。銀河皇国科学省に属しており、二年前、シナノーラン宙域内に位置するUT‐6592786星系の、第四惑星へ科学調査に向かったものらしい。
 この第四惑星に棲息していたのが、あの昆虫型機械生物であった。皇国科学省は数十年前から機械生物の存在を把握しており、『パルセンティア』号はそれを持ち帰る事を目的としていたのだ。

「第四惑星にはかつて、高度な文明を持つ種族がいたらしく、我々の銀河皇国とは別の技術体系を有していた。機械装置に高い自律性と、自己進化機能を与える技術だ。そしてその結果が、あの昆虫型機械生物という事は分かるだろう」

 そこでP1‐0号は一旦言葉を切る。ここまでの話の中身に対する、質問時間というわけである。そこですかさずキノッサが声を発した。

「“かつて高度な文明を持つ種族がいた”…って事は、今はいないって事でいいんスよね?」

「そうだ。お猿」

「じゃあ、ドラマなんかであるみたいに、その種族ってヤツは、進化した機械の生き物に滅ぼされたとかッスか?」

「いいや。報告ではそのような事は、起きてはいないとされている。彼等はある日突然全員が惑星上から、文字通り“消え去ってしまった”ようだ」




▶#11につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...