銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
53 / 525
第3話:スノン・マーダーの一夜城

#11

しおりを挟む
 
「消え去ったスと?」とキノッサ。

「彼等のこよみで5698年と115日目に、彼等全員が第四惑星から居なくなった。他惑星への移住や、さらにはより高次元の生命体に進化して、この次元から旅立ったという仮説も立てられる」

 キノッサの問いに、P1‐0号は黄緑色に光る両眼のセンサーアイを、まるで激しく瞼をしばたかせるように、せわしなく明滅させた。おそらく学術的興味が高まって来ているのだろう。ただそれが本当に、汎用であってもアンドロイドに相応しい反応であるかどうかは、また別の話であった。

「だけど今は、そんな事を論じてる時じゃないだろ?」

 モルタナがそう呼び掛けると、P1‐0号は「仰る通りです」と応じ、話を本筋に戻す。コントロールパネルを操作し、『パルセンティア』号の航宙日誌をホログラムスクリーンに展開させた。

「航宙日誌、皇国暦1560.0205。皇都帰還中に発生した対消滅反応炉の事故により、本船が漂流を始めて三日。UT‐6592786星系第四惑星で回収した昆虫型機械生命体に、乗務員の大半が殺害され、残りはこのブリッジに立て籠もる我々六名だけとなってしまった―――」

 船長と思われる男性の声が、ホログラムスクリーンを通して、日誌の内容を口述し始める。

「科学主任の見解では、機械生命体が人間を襲う目的は、皇国民の脊髄部に埋め込まれているNNLの半生体端末と同化するためであり、最終的に銀河皇国のNNLシステムへの侵入を、目指しているのではないか…との事である―――」

 そして口述記録は、現在の『パルセンティア』号の漂流位置が、付近に植民星系やネットワークサーバーステーションの存在しない場所であり、皇国のNNLシステムとはアクセス出来ない状態で、幸いにも昆虫型機械生物がNNLシステムに、侵入する事を防いでいる事を伝えたところで途切れていた。最後に叫び声が幾つか上がった事から、彼等が立て籠もっていたというブリッジに、機械生物が押し寄せて来たのかも知れない。

 顔を見合わせるキノッサ達とモルタナに、P1‐0号は淡々と告げる。

「あの機械を“生物”と定義したのは、生存と増殖の本能を有していると考えられるからだ。そしてその本能に従えば、UT‐6592786星系第四惑星でのみ棲息していた彼等が、我々銀河皇国と接触した事で生じた、新たな環境に対応しようとするのは、ごく自然な事だと言える」
 
「NNLに同化したらバ、どうなるんザ?」

 カズージがバイシャー星人の大きな眼を、ギョロリと回して問う。するとP1‐0号は非常に不吉な事を口にした。

「彼等の遺伝子とも言える機械生物プログラムを、NNLシステムの内部に潜り込ませる。途方もなく大規模で複雑な、銀河皇国のNNLシステムを全て乗っ取る事は不可能だろうけど…そう、例えばある日突然どこかの植民惑星の工場で、ロボットが勝手にあの機械生物を大量に製造し始め、そこで作られた無数の機械生物が、住民に襲い掛かるという事件が、たびたび起こりだすかも知れない」

 これを聞いて大の虫嫌いのモルタナは、跳び上がりそうな勢いで肩を震わせる。だが今の話が事実ならば、肩を震わせるどころの問題ではない。ハッ!…と眼を見開いたキノッサが声を上げる。

「ちょっと待つッス。それじゃあもう、手遅れじゃないんスか!? 俺っち達を襲って来た連中は、背中にあの虫がへばりついてたッス。あの連中の端末から、皇国全体のNNLに侵入されてしまってるんじゃ…」

 しかしP1‐0号は、その可能性は低いと見ていた。

「このステーションに『パルセンティア』号が係留されているのは、おそらく略奪集団の人間達が漂流していたあの船を発見して、金目の物でも漁るつもりで曳航して来たんだろう。我々を襲って来たのは、その略奪集団に属していた者達…そうであるなら、NNLには接続できないはずだ」

「な、なるほど…連中は、皇国民じゃないからね」

 植民惑星の住民に襲い掛かる無数の巨大昆虫の図を想像したのか、モルタナは動揺したままで応じる。

 ハートスティンガー達もそうであるのだが、略奪集団や宇宙海賊といったものに属する者は、ほぼ全てが銀河皇国の市民権を失っており、NNLへのアクセス権もシャットアウトされている。したがって略奪集団の人間の端末に同化して、個人のアクセスコードを使用しても、受け付けられずにいたはずなのだ。

 また二年前の『パルセンティア』号内で起きた事件では、日誌で“殺害”としていた事から、当初はNNLへのアクセス権問題を機械生物が理解せずにいたか、理解はしていても、同化の際に脊髄を損傷させて殺してしまっていたかの、どちらかだったのだろう。

「これで分かったと思うが改めて…このままステーションのNNLを立ち上げて、銀河皇国のメインシステムとリンクさせるのは危険だ。次に優先すべきは、あの機械生物を排除する事。これに尽きる」

 そう言うP1‐0号の口調には、アンドロイドでありながら、硬い意志のようなものが感じられた。
 
「それほど気合入れて言うんなら、何か対策は考えてるんだろね?」

 モルタナが問い質すと、P1‐0号は「はい」と応じて言葉を続ける。

「生物にとっても、コンピューター仕掛けの機械にとっても、脅威となるのはウイルスです。となればあの機械生物にとっても、ウイルスは脅威となるはず」

「ウイルスに感染させようってワケかい」

「そうです。先ほど医務室で、機械生物の解析データを得ましたので、それを基にウイルスプログラムを作成します…僕の機能をフルに使えば、二時間もあれば作成できるでしょう。機能を一時的に停止させる程度のものですが」

「えらく簡単に言うね。あの…む、虫とは、プログラミング言語そのものが違うんじゃないのかい?」

 “虫”という言葉を口にするのも嫌そうに、訝しげな表情をするモルタナ。彼女が懸念するのは、前述したように昆虫型機械生物が、銀河皇国のものとは別の技術体系によって作られている事である。そうであるならプログミング言語からして、銀河皇国のものとは違うだろう。

 ただP1‐0号が言うには、むしろ銀河皇国のプログラミング言語を、使用した方がいいらしい。その理由は、機械生物にはすでに、皇国のプログラミング言語を解析する機能が、備わっているからだという。皇国民が脊髄に同化させている半生体ユニットの、NNL端末へ侵入する際に必要であるためだ。

「機械生物の最終目的が、銀河皇国のNNLシステムそのものとの、同化である事を考えれば、我々の使用するプログラム言語へ変換させていくのが、彼等にとっての“進化”です。ウイルスプログラムを罠として与えるなら、我々のプログラム言語で組むべきです」

「罠?」

「はい。ウイルスプログラムを、NNLシステムへのアクセス権取得プログラムに見せかけて、彼等に取り込ませるのです。解析によると、彼等は彼等自身で相互リンクしていますので、どれか一体が感染すれば、瞬時に全てが感染するでしょう」

 アンドロイドらしいと言えばそれまでだが、淀みなく回答して来るP1‐0号にモルタナも「なるほどね」と頷く。するとここまで大人しく、聞き手に回っていたキノッサが真顔で問い掛けた。

「だけど、その罠をどうやって、機械生物に掴ませるッスか?」

 その言葉にP1‐0号はキノッサを振り向き、黄緑色のセンサーアイを点滅させながら、当たり前のように告げた。



「僕が囮になる」



▶#12につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...